作:薫くみこ 絵:colobockle 出版:ポプラ社
10歳で幽霊になってしまった男の子。
クリスマスにお願いするのはおもちゃでもケーキでもありません。
幽霊の男の子の願いとは。
優しくも切ない、胸にちくりと刺さるお話です。
あらすじ
町のはずれに小さな洋館が建っていました。
その洋館には10歳の男の子の幽霊がずっとずっと住んでいました。
ずっとずっと気の遠くなるほど一人ぼっちでした。
ある雪の降る日、お母さんと女の子の親子が洋館に引っ越してきました。
洋館に入ると女の子は幽霊の男の子を見つけました。
女の子が自分のことが見えるとわかると、男の子の顔に微笑みがこぼれました。
次の朝、女の子は起きると幽霊の男の子を探しました。
探しているうち屋根の上に出る天窓を見つけました。
屋根の上からの景色に喜んでいると、町からクリスマスソングが聞こえてきました。
それを聞いた女の子は悲しい気持ちになりました。
女の子は毎年、「クリスマスはお母さんと一緒にいさせて」とサンタクロースにお願いをしていたのですが、レストランで働くお母さんは忙しいクリスマスにお休みを取ることは出来なかったのです。
そしてクリスマスもサンタクロースも嫌いになってしまいました。
そこに幽霊の男の子が現れて言いました。
「僕も同じさ」
幽霊の男の子は毎年、ひとりぼっちじゃないクリスマスをくださいとお願いをしていたのですが、叶ったことがなかったのです。
二人はそれから一日中一人では出来なかったことをしました。
そして夜になり、幽霊の男の子がサンタクロースから昔もらった乗り物を探すことになりました。
その日はクリスマスイヴでした。
おもちゃ箱から昔もらった機関車を見つけました。
二人が機関車をのぞき込むと、なんとおもちゃの機関車に乗っていました。
機関車は二人を乗せて窓から飛び出し、夜空へと走り出しました。
二人のいつもと違うクリスマス。
機関車に乗ってどこへ行くのでしょう。
一体、どんなクリスマスになるのでしょうか。
『サンタさんにあっちゃった』の素敵なところ
- 温かく、優しいけれど切ないお話
- 複雑なお話や心情をとてもわかりやすく描いている
- 色鮮やかで、かわいく綺麗な絵
寂しいクリスマスを過ごしていた二人の一人ぼっちじゃないクリスマス。
その嬉しさや、お互いを思いやる優しさは見ていて心が温まり、笑顔になってしまいます。
二人のやり取りをずっと見ていたいし、応援したくなります。
子どもたちからも「よかったね」と温かい言葉が自然と漏れてきます。
でも、幽霊と人間、当然別れる時が来ます。
優しいけれどとても切ないです。
しかし、そこまできちんと描かれていることで、これまでの二人のやり取りがより輝いているのだと思います。
それぞれの思いや願いが交差するお話ですが、その複雑さを感じられないほどわかりやすく丁寧な文章で描かれています。
それぞれの心の動きや、その理由まで本当にわかりやすい言葉で描かれているので、しっかりと感情移入出来るのでしょう。
これらを彩るのが鮮やかでかわいく綺麗な絵です。
二人の気持ちを表現しているような背景や、二人のやり取り、表情によって情景や心情がよりわかりやすくなっています。
それだけでなく、そのきれいな光景に「わー!きれい!」と思わず口に出てしまうなど、見ている人の心を躍らせてくれます。
見た目の可愛さとは裏腹に、とても厚みのある読み応えのあるお話です。
コメント