作・絵:ブリッタ・テッケントラップ 訳:木坂涼 出版:ひさかたチャイルド
歩いていると、子どもは色んなものに気付きます。
「ちょっと待って!」「ねえ、見て!」。
そんな言葉に、ゆっくりのんびり寄り添う絵本です。
あらすじ
ある日の夕暮れ時。
大きなハリネズミと、小さなハリネズミが歩いていました。
二人は家に帰るところです。
小さなハリネズミが言いました。
「ねえねえ、ちょっと待って」
小さなハリネズミは、お日さまが沈んでいくところを見たいと言います。
そこで、二人は眺めのいいところに座って、日がすっかり沈むのを見ました。
そして、二人はまた歩き出しました。
少し行くと、また小さなハリネズミが言いました。
「ねえねえ、ちょっと待って」
今度は、空に昇ったお月様を見ていたいと言います。
二人は空を見上げて、月を静かに眺めました。
そして、また歩き出しました。
しばらく行くと、花の咲いた野原に出ました。
小さなハリネズミは言いました。
「ちょっと待って、すごくいい匂い」
そこで、二人は花の香りを十分に楽しみました。
また、しばらく行くと、小さなハリネズミが言いました。
「ねえねえ、今の聞こえた?」
大きなハリネズミが耳をすますと、フクロウの鳴き声でした。
フクロウだと伝えると、小さなハリネズミが見たいと言うので、大きなハリネズミは肩車をして見せてあげました。
二人が歩いていくと、また小さなハリネズミが言いました。
「ちょっと待って」・・・。
『かえりみち』の素敵なところ
- 子どもの声に耳を傾ける、のんびりとした帰り道
- 自然の持つ美しさに「ちょっと待って」と言いたくなる絵
- 読む人によって変わるハリネズミの間柄
子どもの声に耳を傾ける、のんびりとした帰り道
この絵本の、とても素敵なところは、「ちょっと待って」を全て聞いてあげるところです。
きっと、普段の帰り道でも「ねえねえ」と、子どもに呼び止められることは多いでしょう。
保育園での散歩中にもよくあります。
でも、遅くなってしまうので、全ては聞いてあげられないのが現実です。
そんな「全部聞いて、のんびり歩きたい」という大人の思い。
「全部、自分の話を聞いて欲しい」という、子どもの思い。
その両方を、叶えてくれるのがこの絵本なのです。
子どもの気付きに寄り添うことで、大人も色々なことに気付かされます。
満月の大きさ。
花のいい香り。
フクロウの鳴き声。
そうやって、歩く帰り道は、とてもキラキラとしていて、まるで未知の星を歩いているかのようです。
のんびりと、何者にも邪魔されない、二人だけの宝物のような時間が本当に素敵です。
自然の持つ美しさに「ちょっと待って」と言いたくなる絵
また、この帰り道を、より楽しく素敵なものにしてくれているのが、美しく幻想的な絵です。
真っ赤な夕焼け空。
空に輝く大きな満月。
森の暗がり。
そこに生きる虫などの生き物。
そのどれもが、自然そのものの美しさや面白さを伝えてくれます。
こんなところを歩いていたら、「ちょっと待って」と言ってしまうでしょう。
絵本を見ている子どもたちでさえ、
「ちょっと待って!あそこに虫がいる!」
「ねえねえ!フクロウの赤ちゃんもいよ!」
と、言ってしまうのですから。
そんな美しい自然の中、二人でのんびりした時間を味わっているハリネズミの姿がまた、なんとも素敵なのです。
読む人によって変わるハリネズミの間柄
さて、仲のいい二人のハリネズミ。
実は、その間柄は明かされず、小さなハリネズミと、大きなハリネズミという表記だけになっています。
口調からもわかりません。
ここもこの絵本の粋な所。
お父さんかもしれない、お母さんかもしれない。
おじいちゃんや、お兄ちゃんなのかもしれない。
それは読んだ人が、自由に頭に思い浮かべていいのです。
それぞれに、大切な人との帰り道を楽しめる。
そんな心遣いも、この絵本のとても素敵なところだと感じます。
二言まとめ
普段は中々聞いてあげられない「ちょっと待って」に、のんびり付き合ってくれる。
子どもも大人も、時間を気にせずゆったりと、歩くことが出来る絵本です。
コメント