作:カーソン・エリス 訳:アーサー・ビナード 出版:フレーベル館
なずずこのっぺ?
これは昆虫語、虫たちの話す言葉です。
この絵本は昆虫語で描かれた、世にも珍しい絵本なのです。
あらすじ
地面から顔を出した植物の芽。
虫たちが集まって、話をしています。
話している間にも、どんどん伸びていく芽。
気付けば、虫たちよりも大きくなっています。
虫たちは、ダンゴムシの家を訪ね、梯子を借りることにしました。
芽に梯子をかけ、葉っぱの上に登り、本を読んだり寝転んだりとくつろぐ虫たち。
一夜明け、さらに大きくなった芽に、虫たちは木材やきのこ、ドングリなど、様々な材料を持って集まってきます。
そして、ツリーハウスのような秘密基地を作ってしまいました。
ですが、そこへクモが現れて、秘密基地を奪い、巣にしてしまったから大変です。
ガッカリする虫たち。
しかし、次の瞬間・・・。
『なずずこのっぺ?』の素敵なところ
- なんと言っているのか想像するのが楽しい昆虫語
- 言いたくなっちゃう昆虫語
- 一本の植物の生涯を描いた物語
なんと言っているのか想像するのが楽しい昆虫語
この絵本のなによりの特徴は、昆虫語で描かれていることでしょう。
日本語は一つも出てきません。
「なずず このっぺ?」
「わっぱど がららん。」
「ムラジャランカ!」
これだけ見ると、訳が分かりません。
でも、お話の中で見てみると、なんとなく何と言っているかわかるのが、不思議で面白いところです。
それと、同時に正解がわからないのもおもしろいところ。
「これは何?って言ってるのかな?」
「来ないで!って言ってるんじゃない?」
など、それっぽいことはわかっても、本当にそう言っているかは誰にもわかりません。
きっとわかるのは、昆虫語博士くらいでしょう。
この、ああでもない、こうでもないと言いながら自分の中で翻訳するのが、この絵本でしか味わえない素敵なところです。
言いたくなっちゃう昆虫語
また、語感がよくて、言いたくなっちゃうのも昆虫語の楽しいところ。
どれもわかりにくいようで、いいやすい。
聞いていたら、自分でも言いたくなってしまう不思議な魅力が、昆虫語にはあります。
タイトルの「なずずこのっぺ?」を筆頭に、
「コーロージーン!」
「ずんずうううう!」
「じゃじゃこん!」
などなど、どれも言っていて、口が楽しくなるものばかり。
深く考えずに、真似して言うだけでも楽しいのもこの絵本の魅力でしょう。
一本の植物の生涯を描いた物語
さて、そんな言葉の楽しさが目立つこの絵本ですが、物語も深く、面白く、美しいものになっています。
それは自然界の時間の流れを感じる物語。
一本の植物の一生を描いた物語です。
一本の植物が芽吹いたことから始まり、その植物は虫たちの遊び場になっていきます。
やがて、クモが巣を張ったりと、色々な出来事がある中で、花を咲かせます。
もちろん、花が咲けば枯れる時が訪れます。
それとリンクするのが、虫たちの生活。
冬が近づいているのに、遊んでばかりもいられません。
楽しかった秘密基地生活も終わり、冬ごもりの準備に、花からは誰もいなくなります。
でも、春が来ると・・・。
というように、楽し気な命の輝き、その命が終わりに向かう儚さや物悲しさ、次へ繋がっていく連続性など、様々なものを一本の植物の一生を通して、感じられるものになっているのです。
二言まとめ
不思議で楽しい昆虫語で描かれたとっても変わった物語。
でも、その不思議さとは裏腹に、自然の中に流れる時間を感じとることの出来る、楽しく、儚く、力強く、美しい絵本です。
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