再話:時田史郎 画:秋野不矩 出版:福音館書店
代表的な昔話「うらしまたろう」。
この絵本では、たろうの心理描写が丁寧に描かれます。
玉手箱を開けようと思った絶望感も、感じ取ることが出来るほどに。
あらすじ
昔、ある海辺の村にうらしまたろうという、若者が住んでいた。
たろうは、来る日も来る日も魚を釣っては売り、年老いた両親を養っていた。
ある日のこと、海はしけて、小魚が三匹しか取れず、たろうは家に帰ろうとしていた。
その帰り道、浜辺で五色のカメが、子どもたちにいじめられていた。
たろうは小魚3匹を、カメと交換して助けてやった。
助けたカメを海に返すと、カメはたろうの方を何度も振り向き、海へと帰っていった。
次の日、たろうが釣りをしていると、大きなものが針にかかった。
引き上げていくと、輝くものが見えてきた。
糸の先にいたのは、大きなカメを従えた、美しい娘だった。
その娘は、自分を竜王の娘である乙姫だと言い、昨日助けられた五色のカメだという。
助けてくれたお礼に、竜宮へ招きたいとのこと。
たろうは驚いたが、竜宮へ行くことに決め、カメの背中に乗り海の中へ進んでいった。
カメはどんどん、海の底へと進んでいった。
そして、とうとう竜宮の門までやってきたのだった。
乙姫に案内され、竜宮へ入ると、歓迎の宴が始まった。
竜王はたろうへ言った。
たろうがもう人の子ではなく、竜王の子になったことを。
そして、乙姫とずっと幸せに暮らすのだということを。
たろうは竜王の言葉通り、楽しく過ごすうちに3年が経っていた。
ある日、乙姫がたろうを不思議な部屋に案内した。
そこには4つの窓があり、それぞれ春夏秋冬の景色が見られた。
春、夏、秋、と窓を開けていき、冬の窓を開けると、そこには故郷の冬の海が見えた。
たろうは急に両親のことを思い出し、里が恋しくなった。
たろうは乙姫に、里に戻ることを伝えた。
乙姫も竜王も引き留めたが、たろうの心は変わらなかった。
そこで乙姫は玉手箱をたろうに渡した。
「この箱を持っていれば、いつかまた会えるかもしれません。でも、決して開けてはいけません」
と、言葉を添えて。
たろうは玉手箱を受け取ると、りゅうぐうを後にした。
浜へ戻ると、浜の様子は少しも変わっていなかった。
しかし、村人の様子も家々もすっかり変わってしまっている。
たろうは近くにいた老人に、うらしまたろうという者を知っているか尋ねてみた。
すると、「老人は300年前にいたが、海に出たきり帰ってこなかった」と教えてくれた。
たろうは、その言葉を聞いて、急いで自分の家へ行ってみた。
そこには・・・。
『うらしまたろう』の素敵なところ
- 過不足ない丁寧な心理描写
- 1年が100年というわかりやすい時間経過
- 想いの詰まった玉手箱
過不足ない丁寧な心理描写
この絵本では、たろうの心理描写がとても丁寧に描かれます。
ただ、それで冗長になることはなく、とても丁度いいのが素敵なところです。
日頃の貧しさ。
子どもにカメをいじめるのを止めるよう言っても、聞き入れてもらえない弱々しさ。
驚きと楽しさで、竜宮での暮らしを満喫する姿。
故郷の景色を見ることで、両親のことを思い出す流れ。
全てに、たろうの人となりや、行動の動機が感じられ、たろうがなぜそうしようと思ったかが伝わってくるのです。
「なんでこんなことしたんだろう?」ではなく、
「きっと、こんな気持ちだったんだろうな」と、考えさせてくれるのが、この絵本のとても素敵なところだと思います。
1年が100年というわかりやすい時間経過
さて、竜宮から帰ると、信じられないほどの時間が経っていたというのが、「うらしまたろう」の面白いと同時に、絶望的なところです。
その面白さが、わかりやすく描かれている所も素敵なところ。
この時間の流れを感じられるかで、うらしまたろうの最後に感じる絶望と、玉手箱を開けてしまった気持ちへの共感も大きく変わってくるでしょう。
この絵本では、竜宮で3年、陸上では300年経っています。
つまり、1年で100年です。
これがとてもわかりやすい。
子どもたちも、
「1年で100年だから・・・、300年!」
「めっちゃ時間経ってるじゃん!」
「お父さんとお母さん死んじゃってるよ・・・」
と、その重さを感じている様子。
とてもわかりやすく、子どもたちに伝わりやすい対比は、うらしまたろうの絶望をしっかり伝える効果を発揮していました。
想いの詰まった玉手箱
そして、最後のキーアイテムが玉手箱です。
この玉手箱を、なぜ渡したのかわからないお話も多くあります。
そんな中で、この絵本はその理由や、詰まった想いがしっかりと描かれています。
それは乙姫の、もう一度会いたいという想いです。
「持っていれば、また会えるかもしれない」
そのために渡したものが、玉手箱だったのです。
その言葉には、なんとなくですが、地上では時の流れが違うこと、たろうがきっと絶望することを知っていた気配があります。
絶望した時に、「竜宮に帰れる」という希望を残してあげたかったのかもしれないなと。
こう感じるのも、玉手箱に込めた想いを、しっかり描いてくれているからだと思います。
二言まとめ
うらしまたろうの登場人物たちを、丁寧に描写することで心の動きがよくわかる。
定番の昔話を、より深く感情移入して、楽しめる絵本です。
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