再話:おざわとしお 画:赤羽末吉 出版:福音館書店
定番の昔話『かちかちやま』。
その中でも、やり取りを丁寧に描き、とても感情移入して楽しめるのがこの絵本。
タヌキの極悪非道っぷりと、ウサギの容赦ない復讐劇は見逃せません!
あらすじ
昔あるところに、じいさまとばあさまが住んでいました。
ある日、じいさまは、山の畑へ豆まきに行きました。
じいさまが豆をまいていると、切り株に座っていたタヌキがはやし立て、バカにしてきました。
怒ったじいさまが、タヌキにくわを投げると、タヌキが倒れてしまったので、じいさまは縛って家へと持って帰ることにしました。
じいさまはばあさまに、タヌキをタヌキ汁にするよう頼み、町へ出かけていくのでした。
ばあさまがタヌキ汁の支度をしていると、タヌキが手伝ってやると言ってきました。
何度も断りましたが、タヌキに根負けし、ばあさまは縄をほどいてやりました。
タヌキは最初こそ手伝っていましたが、隙を見てばあさまをきねで突き、打ち殺してしまいました。
ばあさまを殺したタヌキは、その衣服を着てばあさまに化け、じいさまの帰りを待ちました。
じいさまが帰ってくると、早速タヌキは、タヌキ汁を勧めました。
じいさまが違和感を感じながらも、タヌキ汁を食べ終わると、タヌキは元の姿に戻り言いました。
「それはばあさまの入った汁だ」と。
そして、山へ逃げて行ったのでした。
じいさまは悔しくて、泣き出しました。
そこへウサギがやってきて、じいさまの話を聞いてやりました。
話を聞いたウサギは「仇を取ってやる」と言って、帰っていくのでした。
ウサギは早速、向かいのかや山へ行って、かやを刈り始めました。
すると、そこへタヌキがやってきて、何をしているのか聞いてきます。
ウサギが「かやを刈って、屋根をふくんだ」と言うと、タヌキも一緒に刈り始めました。
かやを刈り終わると、2人は背中にいっぱいのかやを背負い、帰ることに。
しばらく行くと、ウサギはタヌキの背負うかやへ、火打石を「かちっかちっ」と打ち出しました。
さらに、しばらく行くと、タヌキの背中のかやがぼうぼうと燃え出しました。
そのうち、タヌキの背中に火が広がり、タヌキは背中をやけどして、山の奥へと逃げていってしまいました。
しばらく経って、ウサギはとうがらし山へ行って、唐辛子をとり始めました。
そこへタヌキがやってきて、ウサギに文句を言いました。
ウサギは、タヌキに「それはウサギ違いだ」と言い、さらに「やけどには唐辛子をつければすぐ治る」と言いました。
タヌキはそれを信じ、ウサギに唐辛子を塗ってもらうことにしたから大変です。
痛みで転げまわり、山の奥へ逃げていきました。
また、しばらく経って、ウサギは松山へ行き、松の木を切っていました。
するとまた、タヌキが現れて唐辛子を塗ったことに、文句を言ってきました。
ウサギはまた、「ウサギ違いだ」と嘘をつき、「いい天気だから、舟でも作って魚取りに行こう」と言いました。
タヌキはまた騙されて、ウサギに舟を作ってもらうことにしました。
こうして舟が完成しました。
ウサギの船は木の船で、タヌキの船は土の舟です。
2人は川へと漕ぎ出しました・・・。
『かちかちやま』の素敵なところ
- 極悪すぎるタヌキの所業
- 場面が丁寧に描かれることにより生まれる没入感
- すぐには沈めない土の舟
極悪すぎるタヌキの所業
この絵本を読んでまず驚くのは、タヌキの残酷さでしょう。
『かちかちやま』でもソフトなものは、おばあさんが死にません。
スタンダードなものは、おばあさんが死んでしまいます。
ですが、この絵本はおばあさんが死んだ上、おじいさんにばあ汁にして食べさせてしまうのです。
ここまで鬼畜なことをするタヌキを見たことがあるでしょうか?
とどめには去り際に「ばあ汁食ったし、粟餅食った。流しの下の骨を見ろ」と言い捨てていくのです。
これには子どもたちもびっくり。
目が点になっていました。
ただ、このお話は、かたき討ちのお話です。
タヌキが残酷だからこそ、かたき討ちがより、気分のスカッとしたものになるのです。
場面が丁寧に描かれることにより生まれる没入感
また、この物語へより感情移入させてくれるのは、タヌキの残酷さだけではありません。
人物同士のやり取りや、場面の描写などが、丁寧に描かれていることも、物語により入り込ませてくれるための、素敵な要素です。
じいさまがばあ汁を食べる時、ただ騙されて食べる訳ではありません。
途中で、汁からばあさま臭さを感じ疑いますが、タヌキに言いくるめられて食べてしまいます。
ウサギに騙されるタヌキも、ただ黙って騙されるわけではありません。
ウサギが火打石を打つ「かちっかちっ」という音を聞けば、「かちかちいうのは、何の音かな?」と聞きます。
騙されたあと、ウサギに会えば「この間はよくも、背中にやけどさせたな」と、文句を言います。
それを言葉巧みにかわすウサギ。
このような、細かなやり取りがあるからこそ、夢中になってお話へ入り込んでしまうのです。
すぐには沈めない土の舟
さて、最後の場面もおもしろい。
お馴染みの、土の舟が沈んでしまう場面です。
この絵本では川に出ただけでは簡単には沈みません。
中々頑丈に、土の舟も作ってあります。
そこでウサギがある行動を取ります。
タヌキはそれにつられます。
子どもたちはそれを見て、ハラハラドキドキ。
「それやったら沈むよ!」
「ああ~」
結末を知っていても、やきもきしてしまいます。
この結末までのタメが、最後の場面に大きな盛り上がりを生んでくれているのです。
二言まとめ
それぞれの場面が丁寧に描かれた、見ごたえバッチリのボリューム感ある『かちかちやま』。
タヌキの悪さと、じいさまばあさまの悲しみ、ウサギの巧みな話術に夢中になってしまう昔話絵本です。
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