文:岩崎京子 画:長野ヒデ子 出版:教育画劇
みんな知っている『かぐやひめ』。
その中でもこの絵本は、かぐやひめの心の動きが、とてもよくわかります。
自分の生まれを知っていても、抑えられない恋心。
だからこそ、月に帰るのが辛いのです・・・。
あらすじ
昔々、竹を取ってきて、かごを作るおじいさんがいました。
ある日、竹やぶに行くと、根本がぼうっと光る竹がありました。
不思議に思い切ってみると、手のひらに乗るくらい、小さな女の子がいるではありませんか。
おじいさんは連れ帰り、おばあさんと一緒に育てることにしました。
女の子は、すくすくと成長していきました。
その可愛いことといったら、光り輝くようでした。
そこで、「かぐやひめ」という名前をつけました。
かぐやひめは、ますます美しくなっていきました。
その噂を聞き、大勢の若者たちが、かぐやひめと結婚するためやってきました。
特に熱心だったのが、5人の若者。
みんな、かぐやひめに結婚を申し込んできました。
ですが、かぐやひめは結婚する気はありません。
諦めてもらおうと、「注文したものを持ってきてくれた人と結婚する」と言い、わざと難しいものを注文しました。
5人の若者は、偽物を用意したり、あまりの困難さに諦めたりと、誰一人注文を叶えることは出来ませんでした。
そうこうしているうちに、かぐやひめの噂は、みかどにも聞こえました。
みかどは狩りの帰り道、かぐやひめの家に寄りました。
かぐやひめを一目見るなり、気に入ってしまったみかどは、かぐやひめを御殿へと誘いました。
かぐやみめも、他の人とは違っていると感じましたが、「自分は人ではない」と断りました。
けれども、みかどは諦めず、せっせと手紙を送りました。
かぐやひめも、思いを込めて返事を送り続けるのでした。
秋になり、月の光がだんだん冴えてきた頃です。
月を見ながら、かぐやひめが涙ぐんでいました。
おばあさんが理由を聞くと、かぐやひめは「月の世界の者で、十五夜に月から迎えが来る」というのです。
かぐやひめは、おじいさん、おばあさんとお別れをするのが辛いと泣いていたのでした。
それを聞いたおじいさんとおばあさんは、みかどにお願いをして、兵士を貸してもらいました。
その数は2千人。
おじいさんの家で、月からの迎えを、待ち構えます。
そして、いよいよ十五夜になりました・・・。
『かぐやひめ』の素敵なところ
- かぐやひめの複雑な気持ちがとてもよく伝わってくる
- 難しい言葉が出てきても、あらすじはわかるようになっている
- 十五夜の月を見て思いを馳せる
かぐやひめの複雑な気持ちがとてもよく伝わってくる
この絵本の素敵なところは、かぐやひめの複雑な感情が、見事に描かれているところです。
若者たちを気遣いつつも、結婚を諦めてもらおうとする優しさ。
みかどと一緒になりたいけれど、自分が人間ではないので一緒にはいられないという裏腹な気持ち。
帰らなければいけないけれど、おじいさんたちと別れたくないという悲しみ。
そんな、かぐやひめの思い通りにならない、複雑な感情が丁寧に描かれるのです。
だからこそ、かぐやひめの苦しみや悲しみに寄り添えます。
子どもたちも、
「ほんとは好きなんだよね・・・」
「あー、十五夜になって迎えが来ちゃう!」
と、かぐやひめの、よい理解者になっていました。
この、人間らしい葛藤や感情がしっかりと描かれているのが、とても素敵です。
難しい言葉が出てきても、あらすじはわかるようになっている
ただ、丁寧に描くために、少し難しい言葉が出てくる部分もあります。
特に、5人の若者が、かぐやひめに言われたものを持ってくる場面。
名前からして、「くらもちのみこ」など、すでに聞きなれません。
さらに「真珠の実のなる木」を持ってくるのですが、お宝だという説明では、
「蓬莱の島から取り寄せました」
と、これも子どもにはわかりにくいです。
ですが、場面の最後に「偽物だとバレてしまいました」など、結局駄目だったということがわかる文が入っています。
これにより難しい場面でも、あらすじがわからなくはならず、話に戻って来られるのです。
また、少し難しい部分があるからこそ、物語に深みも生まれるので、そのバランスがいいのもこの絵本の素敵なところだと思います。
十五夜の月を見て思いを馳せる
さて、そんな物語は十五夜の日に終わります。
月の輝きが増していき、一番光が強くなる十五夜の日。
月から使いが降りてくるのです。
この物語は、そんな十五夜の月に、さらなる輝きをもたらしてくれます。
普通に見ても綺麗な十五夜の月ですが、この物語を見ると、
「かぐやひめは、まだ月にいるかな?」
「もう泣いてないかな?」
「うさぎさんと仲良くしてるかも」
と、月への様々な思いが生まれます。
この思いが、十五夜の月をさらに趣深いものにしてくれることでしょう。
見終わった後、現実の世界と繋がっていくのも、素敵なところです。
二言まとめ
かぐやひめの、「人間ではない」ゆえの、複雑な気持ちが丁寧に描かれている。
読めば、十五夜の月がより輝いて見えてくる、昔話絵本です。
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