作:もいちくみこ 絵:こみねゆら 出版:岩崎書店
とても寒い夜。
フクロウの天文台へお客様がやってきた。
それはなんと、空の星に住んでいるお姫様でした。
これはそのフクロウとお姫様の、冷たくて、美味しくて、温かなクリスマスの物語です。
あらすじ
高い山の上に一本のもみの木が立っていました。
その横に、小さな天文台が立っていて、1人のフクロウが住んでいました。
フクロウの仕事は星の観察。
中でも今は、北西の空に現れた彗星を観察していました。
もうすぐクリスマスというある日の夜。
はく息も凍るほど寒くなりました。
フクロウがストーブに薪をくべていると、ドアを叩く音がして「こんばんは」とかわいい声が聞こえました。
ドアを開けてみると、そこには女の子が寒そうに立っていました。
フクロウは驚いて、女の子を家の中に入れ、ストーブの前に座らせました。
話を聞くと、女の子はチカチカ星のチカチカ姫だと言います。
フクロウがチカチカ星のことを詳しく聞きながら、紅茶とミルクと砂糖を出すと、チカチカ姫は言いました。
「お菓子はないの?」と。
お菓子がないことに一瞬ガッカリしたチカチカ姫でしたが、すぐに気を取り直し「アイスクリームを作りましょう」と言いました。
フクロウが「材料がない」と言うと、チカチカ姫はテーブルの上のミルクと砂糖、あとは卵があれば作れると教えてくれました。
フクロウが卵を持ってくると、ボールに卵と砂糖、ミルクを入れました。
それを持って、寒い外に出ていくと、スプーンでクルクルとかき混ぜ始めました。
あっという間にボールの中身は固まっていき、チカチカ姫が部屋に戻てくると、ボールの中にはアイスクリームが出来ていました。
フクロウが味見をしてみると、こんなに美味しいものは食べたことがありませんでした。
2人は仲良くアイスクリームを食べました。
しばらくすると、女の子は椅子から立ち上がり「帰って空の掃除をしなくっちゃ」と言いました。
近頃やってきたほうき星が、チカチカ星の近くを通って星屑をまき散らすから掃除が大変なのだそう。
そのほうき星とは、フクロウが観察していた彗星のことでした。
フクロウが集めた星屑をどうするのか聞くと、チカチカ星に置くしかなくて大変なのだとチカチカ姫。
それを聞き、いいことを思いついたフクロウは、「出来れば明日の夜までに、星屑をぼくにくれないか?」とお願いしました。
チカチカ姫は「今日のお礼に持ってくる」と約束してくれました。
チカチカ姫はもみの木の下にいる、翼の生えた真っ白な馬にまたがると、空へと帰っていきました。
次の日の、外は朝から猛吹雪でした・・・。
チカチカ姫は星屑を持って来られるのでしょうか?
フクロウのいい考えとは一体何なのでしょう?
『とおい星からのおきゃくさま』の素敵なところ
- フクロウとチカチカ姫の不思議で温かいれど、近すぎない温度感
- 自分でも作ってみたくなる美味しそうなアイスクリーム
- 美しく、可愛らしく、幻想的な絵
フクロウとチカチカ姫の不思議で温かいれど、近すぎない温度感
この絵本を見て感じることは、この絵本独特の不思議だけど心地よい空気感です。
これはきっと、フクロウとチカチカ姫の距離感や温度感から来ているのだと思います。
突然訪ねてきたチカチカ姫。
フクロウは招き入れ、紅茶を飲みながら色々なことを聞いてみます。
チカチカ星のこと。
一緒に住んでいる人のこと。
星屑の掃除が大変なこと。
星屑が欲しいとお願いもします。
その中で仲良くはなっていきますが、それは友だちといった感じではありません。
そこにはあくまで「仲のいいお客様」という感じがあるのです。
この空気感や、チカチカ姫の全てはわからない感じが、とても素敵なところ。
仲良くなり過ぎず、わからないことがたくさんあることで、チカチカ姫の不思議さが輝いて見えるのです。
なぜ来たのかもわからない。
羽の生えた馬の正体もわからない。
チカチカ星の詳しいこともわからない。
だからこそ、チカチカ姫はミステリアスで魅力的なのでしょう。
これは最後の場面まで一貫しています。
この「不思議なお客様」という丁度よい距離感や温度感が、この絵本のとても素敵なところだと思います。
自分でも作ってみたくなる美味しそうなアイスクリーム
そんな2人の大切な繋がりになるのが、寒い日にしか作れないアイスクリームです。
一緒に食べることで、仲が深まり、最後の場面へも繋がる大切なキーワードになっています。
物語の中で重要なキーとなっているアイスクリームですが、ちゃんと作れるレシピになっているのも、この絵本の素敵なところです。
チカチカ姫が魔法で作るわけではありません。
卵と砂糖とミルクを、冷やしながら混ぜるだけ。
家の冷蔵庫にある材料で作れてしまいます。
そうなれば、すぐにでもやってみたくなるというもの。
物語の中の食べ物を、現実の世界でも楽しめる。
物語と現実を自然に繋いでくれるのも、この絵本の面白くて素敵なところなのです。
美しく、可愛らしく、幻想的な絵
さて、そんな不思議で美味しい物語ですが、その魅力を大きく膨らませてくれているのが幻想的な絵です。
温かみのある優しいタッチなのですが、その場面もどこかミステリアスで幻想的。
彗星がぼうっと輝く満天の星空。
小さな星に、小さなお城の建つチカチカ星。
見た目はただのかわいい女の子なのに、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせるチカチカ姫。
などなど、どれも不思議さ、儚さ、幻想的な雰囲気を感じさせてくれるのです。
これが物語の空気感と合わさって、絵本全体をとても温かく、美しく、不思議で幻想的なものにしてくれています。
眺めているだけで、見とれてしまう魅力的な絵も、この絵本の大きな魅力だと思います。
二言まとめ
最初から最後まで、ずっと感じる幻想的でミステリアスな空気感に、この絵本でしか味わえない魅力がある。
優しく、不思議で、美しい、読めばアイスクリームを作りたくなるクリスマス絵本です。
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