作:はたこうしろう 出版:あすなろ書房
定番の昔話『いっすんぼうし』。
その中でも、絵がとても親しみやすく、かわいらしいのが特徴です。
その絵とピッタリ息の合った文章も、かわいくもかっこいい。
小さないっすんぼうしの魅力を最大限伝えてくれる絵本です。
あらすじ
昔、おじいさんとおばあさんがおりました。
ある日、2人は小さな子どもを授かりました。
生まれてきたのは、手のひらに乗るくらい小さな男の子でした。
男の子はいっすんぼうしと名付けられ、大切に育てられました。
いっすんぼうしは元気に育っていきましたが、体はちっとも大きくならず。
親指ほどの大きさでした。
友だちは、カエルや虫たち。
村の子どもは、いっすんぼうしを「ちび」とバカにしていたのでした。
ある日、いっすんぼうしは「みやこに行きたい」と言い出しました。
みやこにいけば、自分にも役に立てることがあるはずだと考えたのです。
おじいさん、おばあさんには、いっすんぼうしの気持ちがよくわかりました。
2人は悲しみながらも、いっすんぼうしを送り出すことに決めました。
次の朝。
いっすんぼうしはみやこへと旅立ちました。
おばあさんが縫ってくれた新しい着物を着て、お椀の笠に箸の杖、腰にはおじいさんが作ってくれた針の刀をさしています。
進んでいくと、大きな川へと出ました。
いっすんぼうしはお椀を川に浮かべ船にし、箸をかいの代わりにして、川を下っていきました。
何日も漕ぎ続け、みやこについたいっすんぼうし。
まずは、立派なお屋敷をたずねてみることにしました。
お屋敷のお殿様に会うと、いっすんぼうしはその熱意を精一杯伝えました。
お殿様はいっすんぼうしを気に入り、お屋敷に置いてくれることになりました。
いっすんぼうしはよく働きました。
その働きを見ていたのがお姫様。
お姫様は、いっすんぼうしを自分のお付きに取り立てました。
お姫様のため、一生懸命働いていたある日。
お姫様がお寺参りに行くというので、そのおともをすることになりました。
その帰り道。
突然、木の影から大きな赤鬼が飛び出して来ました。
お姫様を狙っています。
家来たちが逃げ出す中、一人だけ鬼に向かい飛び出したものがありました。
いっすんぼうしです。
小さな体のいっすんぼうしは、大きな鬼を退けることができるのでしょうか?
『いっすんぼうし』の素敵なところ
- かわいらしくも躍動感たっぷりの絵
- 絵とピッタリ息の合った、いっすんぼうしの魅力が詰った文章
- 物語全体の動きがすごい
かわいらしくも躍動感たっぷりの絵
この絵本の大きな魅力は、そのかわいらしい絵にあるでしょう。
いっすんぼうしとういう、意志が強く、勇敢だけれど体が小さくかわいく見える。
そんなキャラクターを、かわいらしい絵の雰囲気が見事に表しているのです。
とても、強い目の力や精悍な顔つきと、ピョンピョン飛び跳ねる動きのギャップがもうかわいすぎます。
かわいいだけではなく、動きの躍動感も素敵なところ。
走り回り、飛び跳ね、たくさんの仕事をし・・・。
その全ての動きが、目の前でいっすんぼうしが動き回っているように見えるのです。
これも小さな体で動き回るいっすんぼうしのイメージに、ピッタリとはまっています。
また、絵のタッチや、背景の雰囲気など、色々なところに昔話特有の和の空気感が漂っているのも素敵です。
ただかわいらしいだけでなく、しっかり昔話という枠組みの中でかわいさが表現されているので、そのかわいさが浮いてしまうことがなく、お話と絵が溶け合っているのです。
絵とピッタリ息の合った、いっすんぼうしの魅力が詰った文章
そんな魅力的な絵と、文章との息がぴったり合っているのも、この絵本のとても素敵な魅力です。
わかりやすいのはもちろんのこと、絵のかわいさや躍動感が、文章にも詰まっているのです。
みやこについたいっすんぼうしが、街行く人に踏まれないよう、
「いっすんぼうしはぴょんぴょんと、蹴飛ばされないように、バッタのように飛び跳ねながら進んでいきます」
屋敷の門番へ話しかける時には、
「いっすんぼうしと申します」ぴょん。「お役に立ちたくて参りました」ぴょん。「どうぞ、お殿様に合わせてください」ぴょん、ぴょん!
と、飛び跳ねながらしゃべります。
もちろん、両手を広げ飛び跳ねるいっすんぼうしの絵とともに。
こんな風に、小さな体で一生懸命ないっすんぼうしのかわいさが、文章でも見事に表されているのです。
この絵とぴったり一致した文章で描かれる、まっすぐでで一生懸命ないっすんぼうしを見ていたら、そりゃ自然と応援したくなってしまいます。
物語全体の動きがすごい
さらに、この絵本にはまだ面白くて素敵なところがあります。
それは物語全体にたくさんの動きがあることです。
お城での仕事では、サイコロを振ったり、団子を持ってきたり、蜂を退治したり・・・。
と、所狭しと色々な仕事をするいっすんぼうしの姿が描かれます。
鬼と戦う時でも、鬼の拳に針の刀を突きたて、拳に登り、腕を伝って宙返り、着地し、力こぶを登って・・・。
と、一つのページにこれでもかと、いっすんぼうしの身のこなしが描かれるのです。
なので、見ている方はアニメのような躍動感を物語全体から感じます。
本当に、いっすんぼうしが、あちらこちらへ走り回り、飛び回っているような感覚にさせてくれるのです。
この物語全体の動きのすごさも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
いっすんぼうしという、かわいらしく、すばしっこく、芯の強いキャラクターの大きな魅力。
それを絵と文章、描き方で見事なまでに表現した、いっすんぼうしの魅力が詰り過ぎた昔話絵本です。
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