お元気様です!
登る保育士ホイクライマーです。
今回は、世間でも大きな問題になっている、保育園での虐待について、現役保育士の目線で見ていきます。
様々な議論が巻き起こっている、この問題。
範囲が非常に広いので、ここでは「再発防止と厳罰化案」について、現場ではどうなのかを見ながら考えて行ければと思います。
感情的には絶対に許せず、怒りがこみ上げる問題です。
ですが、感情のままに対策を求めては、これからの保育業界全体が窮屈なものになるだけです。
保育・教育が窮屈になったツケは、子どもへと返ってきてしまいます。
それはきっと本意ではないはずです。
なので、現場の状況を知ってもらいつつ、冷静に保育・教育のこれからを考えることで、子どもの未来を考えるきっかけにしてもらえたら嬉しいです。
大前提~不満がある人ほど、声を上げやすい~
まず、最初に知っておいて欲しいのは、大多数の保育園は正常に機能しているということです。
今回の大きな虐待事件以来、保育園での劣悪な労働環境や、「うちの園でも虐待がある」という声が、とても大きくなっています。
報道でも、この事件は氷山の一角だと言われていることが多いです。
もちろん、それは否定しません。
知り合いの保育士からも、信じられないような労働環境の話を聞くこともあります。
ただ、保育園全体から見た時、それは少数派だということを忘れてはいけません。
そもそも、不満があるから声を上げるわけで、不満がない人は基本的には発信しない傾向があります。
これは、虐待が少数だから、気にしすぎるなということではありません。
当然ながら、一件も起こってはいけない問題です。
ですが、なにか対策をする時に、それは健全な大多数の保育園・保育士の労働・費用負担を増やしたり、裁量を奪ってまでする必要があるのかを考える必要はあるでしょう。
大多数の保育園・保育士が窮屈になるということは、そこに通う大勢の子どもたちの様々な機会を奪うことにもなるからです。
このフラットな目線はぜひ、忘れないようにしていてください。
それでは具体的な内容を見ていきましょう。
監視カメラ設置案
これは基本的にとてもよい案だと思っています。
それは、問題があった時に客観的に見ることが出来、証拠にもなるからです。
特に今回の事件でも、被害を受けた一歳児の子どもがしゃべれないから、事実関係が調査できないといった問題がありました。
設置すると、自由な保育がしにくいといった声もあがっているようですが、保護者にまでオープンにするのか、園内だけで問題が起こった時だけ見るようにするのかは選択できます。
また、保護者に公開すれば、安心だったり、保育に疑問がある時に質問してもらうきっかけになったりもします。
ぼくも、前の園では全保育室にカメラがあり、「カメラを見ていたら、いつも一人で遊んでいる」という心配の声がありました。
それをきっかけに、発達段階の話などが出来、保護者とすり合わせをするよい機会になりました。
また、保育士を守るための証拠になることも見逃せません。
虐待を疑われた時、いわれのないクレームを受けた時などに、無実を証明する証拠にもなります。
そういう意味でも、保育士・子ども双方にとってプラスになる対策です。
ですが、問題点もあります。
まず、必ず死角は出来るということ。
悪質な人であるほど、死角を使って巧妙にやるでしょう。
そういう意味では、予防効果はあっても、防止することは出来ないと思います。
あくまで、起こった時に力を発揮するものです。
次に費用面です。
保育園の予算は潤沢ではありません。
同時に、福祉施設という形態上、かなり税金で賄われている部分大きいです。
では、防犯カメラを設置するために、資金を回すべきなのでしょうか?
それであれば、保育士の処遇改善や、人員の拡充にその予算を回した方が、根本的な解決になると考えています。
防犯カメラ案に関しては、資金が潤沢にあり、保育が充実しているのであれば、つけた方がいいという結論になってしまいます。
罰則の厳罰化案
これには、基本的に反対です。
なぜなら、厳罰化と自由の制限はセットだからです。
厳罰化するためには、してはいけないことを決めなければいけません。
では、保育・子育ての中で、してはいけないこととはなんでしょうか?
例を挙げてみましょう。
1歳児の食事の際、嫌がるのに無理やり口に詰め込むのは虐待です。
ですが、1歳児には、食わず嫌いを減らすため、色々な食べ物を口入れ、味になれていく過程があります。
そこで、気を逸らしながら、口に入れてみるという流れがあります。
そして、大体吐き出します。
でも、慣れてきて食べられるようになったり、好きな味が見つかったりもします。
ここで、無理やり口に入れることと、気を逸らしながら口に入れ吐き出すことの違いを明確に言語化出来るでしょうか?
同時に、罰則規定として、無理やり口に入れる方だけを罰則化出来るのでしょうか?
罰則化したことにより、後者の方も保護者の言い分によって罰則の対象になってしまわないでしょうか?
これは、他の場面にもたくさんあります。
教育と虐待の境界線は、かなりグレーゾーンです。
子どもによっても、その境界線は違います。
同じ言葉でも、意欲につながる子もいれば、プレッシャーに感じる子もいます。
この境界線を厳罰化のために、明確に決めてしまうのは非常に危険ではないでしょうか?
防ぐために必要なのは、保育園と保護者が見守り合うこと
では、再発防止にはどうしたらいいのでしょう?
保育士の質向上?配置基準の見直し?
それらはもちろん大切です。
でも、それが実現するのはいつですか?
その間に子どもは保育園に通っていますし、不適切な保育があれば受け続け、心の傷は広がって行くばかり。
なので、ここでは即効性のある防止策をお伝えしたいと思います。
残念ながら、この防止策が出来るのは保護者の方だけです。
なぜなら、保護者の方が子どもの最終防衛ラインだからです。
きちんとした保育園は、自浄作用があります。
ですが、虐待が起こる保育園には自浄作用がありません。
そこに通ってしまっている子を助けられるのは、保護者の方しかいないのです。
その方法とは、保育園と保護者がそれぞれに見守りを行うこと。
以前書いた「見逃されがちな、保育園を選ぶポイント」でも述べましたが、保育園は入ることがゴールではありません。
劣悪な保育園もあるということ、有名で人気のある保育園でも虐待は起こりえるということを、頭に置いておかなければいけないのです。
その中で、保護者の方には、保育園を基本的には信用しつつも、全面的には信用しないでもらいたいと考えています。
具体的には、子どもの様子、登園・降園の時の保育士の対応などを見て、疑問や不安、要望がある時には、すぐに保育園や担任に伝えてください。
必要があれば、保育の見学を申し出てみてください。
その時の対応に、きっとその保育園の本質が見え隠れするでしょう。
また、これには子どもを守る他にも、いいところがあります。
それが、保育園や保育士の新たな気付きのきっかけになり、成長に繋がることです。
保育園はある意味では閉じた空間です。
そこに、保護者の方などからの、外からの目線を入れてもらえるのはとてもありがたいことなのです。
保育士も、みんながしっかりとした保育を出来る訳ではありません。
保護者の方からの言葉は、保育を見直す大きな転換点になることも、少なくないのです。
反対に、保育園側も、保護者の方のことを同じスタンスで見ています。
なぜなら、家庭での虐待や不適切保育を防ぐためです。
完全に信頼してしまったら、家庭の奥深くで起こっている問題に気付きにくくなってしまいます。
なので、互いに丁度良い距離感と、目線を持つことが、子どもの安全と成長のために必要なのです。
保育園は「保護者と一緒に」子どもを育てる場所です。
そのことを、お互いに忘れないようにしていきましょう。
転園の選択肢は残しておいたほうがいい
しかし、どうしようもない保育園があるのも事実です。
隠れるどころか、保護者へ面と向かって横暴なことを言う園長すらいたりします。
保育園に言っても無駄な場合は、市区町村などの設置主体に訴えましょう。
けれど、そこで改善するかはわかりません。
市区町村が強く言えないことがわかっていて、改善しない保育園もあります。
重大な事案の場合は、保護者が訴えて裁判をすることで、大きな問題提起となるのですが、そこまでする余裕のある家庭はほとんどないでしょう。
そこで取れる最後の手段が転園となります。
ブラック企業で心が壊れそうな時。
近隣の騒音がひどい時。
原因を解決するより、逃げた方がいい結果になることも多いでしょう。
残念ながら保育園もそうです。
特に乳幼児の1年間はとても密度が濃く、心身の発達にきわめて重要な期間です。
その期間を信用できない保育園で過ごすのであれば、一日でも早く、安心して過ごせる保育園に転園した方が親子ともにいい結果に繋がると思います。
その時、重要になるのは転園できる選択肢を残しているかどうかです。
明日の暮らしにも困る状態でブラック企業に入ってしまったら、簡単にはやめられません。
無理をして買った家の近所で騒音問題が発生しても、簡単には逃げ出せません。
保育園で言えば、保護者の労働環境、お金の余裕、保護者間や祖父母などの協力者がいるか、などによって転園の難易度は大きく変わります。
と、同時に、受け入れ先の保育園があるのかも重要になります。
保育園がたくさんあっても、子育て家庭が多くて、入りにくい場所もあります。
そこでは、もちろん転園もしにくくなります。
そういう場所ほど、子育てで人気の町だったりするのが難しいところです。
子育てのために引っ越す時などは、子育て支援が充実しているかだけでなく、入りたい保育園に入りやすいか、何かあった時の転園のしやすさはどうか、といった視点も取り入れてみてください。
大事なのは逃げる選択肢を知っておくこと。
それだけで、万が一の時の対応も違ってくるはずです。
一番大切なのは、子どもが元気に楽しく過ごせるかどうかです。
そのために、その保育園にいない方がいいのであれば、迷わず逃げましょう。
気を付けないといけないこと~要望が高くなり過ぎていないか?~
ただ、気を付けて欲しいこともあります。
それは要望が高くなり過ぎていないかを、しっかりと見極めること。
極端な例では、「一回の噛みつきも許さない」、「少しもケガをさせないように」、「この活動を取り入れて」などでしょうか。
要望を出すこと、意見を言うことはもちろん自由です。
けれど、それを取り入れるためには、資源が必要です。
人の手、時間、お金、心の余裕・・・。
それらと交換が必要なことは、忘れてはいけません。
それぞれの資源が減っていけば、そのしわ寄せは保育の質の低下へ繋がります。
その要望が、保育の質を上げるものなのか、下げるものなのか?
下げたとしてもする必要のあるものなのか?
保育の現場からは、そういった目線を要望する保護者の方、それを受け入れるかを決める運営側の両方に考えてから実行してほしいと切に願います。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は、世間で言われている再発防止策について検討しつつ、今はすぐに出来ることはなにかを考えていきました。
きっと、どんな対策をしていって、数を減らしていったとしても、起こるものは起こるのだと思います。
そんな時、最後の防衛線となるのは、子どもに一番近い人である、現場の保育士と保護者です。
今回の虐待事件も、現場の保育士からの通報で公となりました。
虐待をしたのは現場の保育士ですが、それを止めたのもまた現場の保育士だったのです。
どんな場所でも、間違いが起こる可能性はあります。
ですが、重要なのは間違いが小さな内に発見し、学びの機会に出来るかどうか。
そのためには、保育園と保護者がともに見守り合い、話し合える関係を作っていくことが必要です。
その関係は引き継がれていき、次の世代が健全に育つ環境にも繋がっていきます。
まずは、すぐに出来る方法で、今の子どもにも、将来の子どもにもよい環境を、力を合わせ作っていきましょう。
コメント