作・絵:わたなべゆういち 出版:佼成出版社
港のパレードに来たクジラの子。
そこに浮かぶ色とりどりの風船が、美味しそうに見えてきて・・・。
パクッ!
どんどん食べていたら、自分が風船のようになっちゃった!
あらすじ
ある日、子どものクジラのボンが、お母さんと海を散歩していました。
すると、港の方から賑やかな音楽が聞こえてきます。
気になって港の方に行ってみると、そこではパレードが開かれていました。
人々が踊る中、色とりどりの風船も踊っています。
ボンは初めて見る風船を、「美味しそう」と、一つそっと口に入れてみました。
さらにもう一つ・・・。
お母さんは止めましたが、港の人はクジラが風船を食べる姿を見て大喜び。
応援を始めてしまいました。
ボンはおもしろくなって、次々に風船を飲み込んでいきます。
ボンのお腹はみるみる膨らんでいきます。
そして、最後の風船を飲み込もうとジャンプした時です。
ボンの体は浮いたまま、落ちてこないではありませんか。
空に浮かんでいることに驚いたボン。
しっぽやひれを動かします。
すると、ボンの体は空高く昇って行ってしまいました。
ボンは風に任せて空を泳いでいきます。
牧場、町、ビルの立ち並ぶ大きな街。
みんなふうせんクジラを見上げてびっくりしています。
日が暮れてきた頃、ボンは寂しくなって来て、お母さんに会いたくなりました。
ぼんやりしながらサッカー場の真上に来た時です。
急にサッカーボールが飛んできて、ボンのお腹に当たりました。
ボンは一体どうなってしまうのでしょう?
無事にお母さんのところに帰れるのでしょうか?
『ふうせんクジラ』の素敵なところ
- 「風船を食べたから飛ぶ」というシンプルで楽しい物語
- 空から見下ろす地上の景色
- 来た道をたどるボンの帰り道
「風船を食べたから飛ぶ」というシンプルで楽しい物語
この絵本のなにより素敵なところは、クジラが風船みたいに空を飛ぶという、驚きの物語でしょう。
でも、飛ぶ理由はとってもシンプル。
浮いている風船をたくさん食べたから。
「そりゃ体も浮いちゃうよね」と妙な納得感があります。
クジラが丸くて、なんとなく風船に似ているのも説得力を持っているのでしょう。
クジラが飛んでも、ビックリするくらい違和感がありません。
どんどん風船を食べていくクジラ。
それを「風船は食べちゃダメ!」と必死に止める子どもたち。
それでも食べ続け、ついに体が浮いてしまう。
「だから、ダメって言ったのに!」
と言いつつも、浮いたクジラがどうなってしまうのかにワクワクしてしまう。
そんなシンプルだからこその楽しさが、この絵本の魅力なのです。
空から見下ろす地上の景色
さて、空に浮かび上がってしまったクジラ。
このクジラの目線で、空の旅を楽しめるのもこの絵本の素敵なところです。
風船のようにゆらゆらとのんびり飛んでいく様子は、まるで飛行船から下を見下ろしているよう。
牛や馬のいる、ほのぼのとした緑の牧場。
家が立ち並ぶ賑やかな町。
高層ビルが建ち並び、人も車もたくさんの大都会。
そんな雰囲気の全く違う景色を旅します。
地上のみんながふうせんクジラを見上げて驚いているのもおもしろく、目を見開き、口をぽかんと開けています。
地上では大騒ぎなのだろうことが伝わってくるのです。
特に街では、とても大勢の人みんなが、こちらを見上げているのを見ていると、自分が本当にふうせんくじらになって、空を飛んでいる気分になってきます。
こんな風に、ふうせんクジラの目線になって、一緒に空を飛べるのがとても楽しいのです。
来た道をたどるボンの帰り道
だいぶ遠くまで来たボンですが、クジラの家はやっぱり海。
どうにか海に帰らなければいけません。
そんな海への帰り道もまた、この絵本のおもしろいところです。
来るときは飛んできたので、大きな体も苦にならないし、お散歩くらいの雰囲気です。
ですが、帰りは地上を行きます。
そうなってくると、事情が大きく変わってきます。
クジラの大きな体。
海までの道のり。
当然、自分では歩けません。
この海までの道のりが、空を飛ぶくらい大きな見せ場になっています。
これまで来た道を、今度は地上から逆戻りしていくおもしろさ。
「あ、ここさっき通った街だ!」
「牧場も通ってるよ!」
と、先ほどまで空から見ていた場所を通っていることに気付き盛り上がります。
人々の表情もさっきまでとは変わっています。
同じ場所を通っているのに、雰囲気が全然違うというおもしろさがあるのです。
行きだけでなく、帰りも同じくらい盛り上がりおもししろいのも、この絵本の素敵なところです。
二言まとめ
「クジラが風船を食べたら飛んじゃった!」という、シンプルだけどビックリな物語がおもしろい。
ふうせんクジラと一緒に、ゆったりとした空の旅が楽しめる絵本です。
コメント