海底電車(5歳~)

絵本

構成・文:松本猛 絵:松森清昭 出版:童心社

入ってはいけないおじいちゃんの部屋。

男の子がそこにあった電車のおもちゃを手に取ると、いつの間にか電車の中に。

不思議な運転手と男の子は、記憶の旅へと出発する。

あらすじ

男の子てつおは、お母さんと2人で、おじいちゃんの家へ引っ越してきた。

おじいちゃんは広い家に一人で住んでいて、家の中は薄暗く、かび臭く、クモの巣だらけ。

おじいちゃんの部屋は、扉の前に甲冑が置いてあり、ドアノブには「絶対に入るべからず」おいう札がかけてある。

中からは時々「ゴーッ」という変な音が聞こえてきていた。

その日、てつおは学校に行けず、一人で留守番をしていた。

おじいちゃんの部屋を見てみると、いつも閉まっているドアが、少しだけ開いている。

てつおは勇気を出して、中を覗いてみた。

そこには世界各地の名所が再現されたジオラマの中を、鉄道模型が走っていた。

てつおは一台の電車を手に取ると、ずっしりと重たくて本物みたいだった。

と、その時、玄関で音がした。

おじいちゃんが帰ってきたと思い、てつおはとっさに水槽の後ろに隠れたのだった。

部屋の中は静まり返っていて、水槽の泡の音だけが響いている。

気が付くと、手に持っていた電車がなぜか水槽の中に浮かんでいて、側に誰かが立っていた。

「さあ、出発だ。てつお、乗るんだ」

と、水の中から響く不思議な声。

てつおは思わず「はい!」と答えていた。

すると、てつおは電車の運転室の中にいて、となりには運転手のおじいさんが座っていた。

初めてあった人なのに、なぜか前から知っているような感じがする。

運転手の合図で、電車は動き出した。

やがて、遠くにお城が見えてきた。

お城は月の光で青白く光っている。

てつおが運転手に、どこに行くのか聞いてみると、この電車は海底電車で、人の記憶の海を走るのだと言う。

心へ浮かんだところに行けるのだと。

そうこうしているうちに近づいてきたお城。

そこはドイツにあるノイシュヴァンシュタイン城。

電車は城の中へと入っていった。

するとそこへ、追いかけてくるものが。

おじいちゃんの部屋の前にあった甲冑だった。

「勝手に入ってはいかん!」と怒っている。

運転手は、スピードを上げお城の中へと滑り込んだのでした。

お城を抜け、さらに走るとそこは2000年前のローマ。

電車は水道橋の上を通っている。

てつおが気になったのは、大きな円形の建物。

そこはコロセウムで、剣闘が行われている場所だった。

2人はそこへも行ってみることに。

けれど、コロセウムの中では、まさに戦いが行われているところでした。

いつの間にか、先ほどの甲冑までいます。

剣闘士たちに囲まれた2人。

電車を全速力で走らせ、なんとか空へと抜け出しました。

雲を抜けてついたところはエジプトの空。

空には太陽の神様の舟が飛び、地上にはピラミッドとスフィンクスが見えています。

電車が空を飛んでいると、海の底から響くような声。

スフィンクスの謎かけでした。

そして、謎かけに答える間もなく、スフィンクスが口を開くと、周り中のものが口の中へと吸い込まれて行ってしまいます。

そのまま、電車から放り出されてしまったてつお。

一体てつおはどうなってしまうのでしょう?

運転手のおじいさんの正体とは・・・?

『海底電車』の素敵なところ

  • 幻想的でスリリングな海底電車の旅
  • 運転手の意外で優しい秘密
  • 成長するてつお

幻想的でスリリングな海底電車の旅

この絵本のなによりも素敵なところは、海底電車の旅でしょう。

まず、ものすごくきれいで幻想的です。

実在する名所を回っていくのですが、そのどれもが水の中にある不思議な景色。

周囲は深い青に染まり、各所から漏れ出す泡。

まるで、夜の中を走っているようですが、同時に太陽が出ていたりもします。

水中ならではの静けさが絵全体から感じられ、どことなく厳かな雰囲気が感じられます。

時代も、中世、古代、神話の世界など様々で、この日現実感も海底電車の旅ならではのものでしょう。

見ているだけで息を呑むような不思議で美しい旅に、一緒に連れていってくれるのです。

また、美しいだけではなくワクワクドキドキするスリリングさも、この旅の魅力です。

ゆっくりのんびりした旅だと思っていたら現れる甲冑の騎士。

追いかけてくる甲冑を振り切るために、レース映画のような展開に。

全速力で城を駆け抜けたり、コロセウムから空へと飛んだり。

一気にエンジンがかかります。

そこを抜けると、また美しく静かな旅へ・・・。

このメリハリがとてもおもしろく、行きつく暇も飽きる暇も与えません。

運転手の意外で優しい秘密

そんな電車の旅へと誘ってくれたのが運転手のおじいさん。

このおじいさんの正体に近づいていくのも、この絵本のおもしろいところです。

急に水槽の中に現れ、電車を運転するおじいさん。

初めてあったはずなのに、てつおの名前を知っていて、呼んできます。

旅の中で、てつおはおじいさんと色々な話をし、その中で少しずつおじいさんの正体へ近づいていくのです。

これがミステリーをひも解いていくようでおもしろい。

電車の旅を楽しみながら、「このおじいさんは一体誰なんだろう?」という疑問が常に頭の中に浮かびます。

「もしかしたらおじいちゃん?」など、色々な想像をしながら進んでいき、最後に明かさる正体。

この正体を知って、最初から見ると「そういうことかー!」と発見がある演出もにくいところです。

また、なぜ出てきたのかを考えると、そこには深い愛情が感じられるのも素敵なところ。

その気持ちがしっかりと伝わったのがわかる結末に、心が温まるのです。

成長するてつお

さて、この絵本の中でとてもあっさりと語られますが、かなり大切で素敵なところがてつおの成長です。

お母さんと2人でおじいちゃんの家に引っ越してきたてつお。

最初は、学校にも行けずに一人で留守番をしています。

おじいちゃんのことも怖いと思っていて、新しい生活に馴染めません。

かなり色々なことが考えられますが、深く語られることはありません。

そんな中、変わるきっかけになったのが海底電車でした。

最初は消極的だったてつお。

ですが、電車が進み危機を乗り越えるごとに、どんどん積極的になっていきます。

そして、旅が終わった時、てつおの日常生活にも大きな変化が表れています。

しかし、そこもさらっと語られるだけ。

でも、それはてつおにとって非常に大きな成長になっています。

あえて前面に出して語らず、自然に物語の中に入れこまれているからこそ、物語全体の美しく静かな雰囲気と、てつおの成長する姿の調和が保たれているのかもしれません。

二言まとめ

美しく幻想的な中にも、ドキドキワクワクなスリリングさが味わえる海底電車の旅。

運転手のおじいさんの優しさが、みんなに光を与えてくれる不思議で温かい物語です。

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