文・絵:渡辺有一 出版:文研出版
ワニは、強くて恐ろしい、ワニらしく生きなくちゃいけない。
でも、人間に捕まって、芸を仕込まれてしまった。
こんなのちっともワニらしくない。
そんなある日・・・。
あらすじ
クロコダイルは、ワニの中で一番でかくて恐ろしい。
そんなクロコダイルが、川辺で眠り、海の向こうにあるワニの楽園の夢でも見ようとしていたら・・・。
急に網が降って来て、黒メガネの人間に捕まってしまった。
そのまま遠くまで運ばれて、着いたところは街の中にある黒メガネの家。
黒メガネは、クロコダイルにフラフープやボールの芸を覚えさせた。
そして、それを街の広場で見せ、お金を稼ぐのだった。
クロコダイルは思った。
「情けねえ。ワニの恥さらしだ。」
ある日、街中でワニ革の店を見つけた。
そこにある商品は、みんな仲間たちのもの。
それ以来、なにもかも嫌になり、黒メガネの言うことも聞かず、芸をするのもやめた。
お父さんやお母さんからの「ワニはワニらしく」という言葉を思い出したクロコダイル。
ワニらしくいるために、消火栓に繋がれた鎖を切ろうと引っ張った。
すると、消火栓が抜け辺りが水浸しに。
そして自由になったクロコダイルは街を・・・。
『おれはワニだぜ』の素敵なところ
- 一人称視点で描かれるワニの葛藤
- ワニらしさが溢れだす言葉遣い
- 驚きのワニの行く末と、まさかの伏線
一人称視点で描かれるワニの葛藤
この絵本のなによりおもしろいところは、すべてワニ目線で描かれる物語でしょう。
人間とはまた違った、ワニの常識で物語が描かれます。
主人公はワニの中でも恐ろしいクロコダイル。
体も大きく、顔も怖そう。
その性格も恐れ知らずで、強さこそがすべてという感じ。
絵本の始まりから、「クロコダイルって知ってるか?ワニの中で一番でかくて、恐ろしいんだぜ」と、自慢げに語りかけてくるところから、このワニの強さと恐ろしさが伝わってくるようです。
そんなワニが、ある日人間に捕まってしまいます。
芸をしないと魚が食べられないという環境。
屈辱を感じつつ、芸をする毎日です。
「こんなことさせやがって。おれはワニだぜ。いつかお前を食ってやる」
と言いつつ、頑張って色んな芸をする姿は、なんとも哀愁漂います。
さらに、ワニ革の店を見た時の、同じワニだからこその反応は、人間では気にもならなかった視点でしょう。
ワニの視点だからこそ気付かされるものだと思います。
この物語を通して、ワニらしく生きようとするけれど、うまくいかない葛藤が、おもしろいだけじゃなく、深みのある考えさせられる話にもなっているのです。
同時に、最後の結末の解放感をより高めてくれるものにもなっています。
ワニらしさが溢れだす言葉遣い
そんなワニらしさが語られるこの絵本。
言葉遣いにも、もちろんワニらしさが詰まっています。
タイトルからすでに滲み出ている、乱暴で荒々しい言葉遣いはまさにワニ。
捕まった時に「おいっ、黒メガネ。お前なんか、頭から丸かじりできるんだぞ!」と威嚇したり、
街についてやっと魚を貰った時に「久しぶりの飯も、死んだ魚じゃうまくねえな。」と文句を言ったり、
怖がる人を見て「こえーだろ、おそろしいだろ。」と嬉しそうにしていたり。
そんな言葉を聞いていると、自分もすっかりワニ気分になってくるから不思議なものです。
最初は、
「こわ~い!」
「そんなこと言っちゃダメなんだよ」
など、行儀よく聞いていた子も、終盤になるとすっかりワニの味方です。
「早く逃げて!」
「怪獣みたいでかっこいい!」
と、すっかりワニ目線で応援です。
ワニの言葉を借りて、普段とは違う自分、自由で強くて怖い自分になることができるのも、この絵本のとても素敵なところです。
驚きのワニの行く末と、まさかの伏線
さて、そんなワニの行く末ですが、消火栓を引き抜いて、自由の身になります。
その後の展開がすごい!
これまで人間の言いなりになっていた鬱屈した気持ち。
ワニ革を見た、理不尽への怒りと仲間への悲しみ。
それがすべて解放されるのです。
人間にとってはかなり恐ろしく迷惑な話ですが、これはワニの物語。
そんなの関係ありません。
まるで怪獣映画のようなシーンの数々に、心が躍ります。
見ている子どもたちはすっかりワニ。
この解放感を心から楽しんでいるのです。
その姿はまさに「おれはワニだぜ」と言わんばかりです。
そしてワニが向かう先。
それを知った時、「まさかあれが伏線になっていたとは・・・」と驚かされます。
大して重要じゃないと思っていたワードが、最後の最後出てくるのです。
この伏線があることで、最後の結末が突拍子もないものから、ものすごく納得感あるものになっています。
そのおかげで、ものすごい解放感とスッキリ感で物語が終わるのです。
二言まとめ
ワニの目線と、ワニらしさ溢れる言葉遣いで語られる、ワニの理不尽な気持ちがとても伝わる物語。
そこから解放された時、見ている人も「おれはワニだぜ」と言いたくなる、ワニによるワニのための絵本です。
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