ドラゴン、火をはくのはやめて!(5歳~)

絵本

作:上野与志 絵:ヒョーゴノスケ 出版:ポプラ社

ドラゴンが火を吐き続ける国。

そこは、どんどん暑くなり、住みにくくなっていきました。

そんな国に住む子どもたち。

ある日、ドラゴンへ一言いうため、立ち上がったのです。

あらすじ

昔々、北の方に小さな国がありました。

そこには青い沼があり、一匹の巨大なドラゴンが住んでいました。

ドラゴンは「どんな願いもかなえてくれる」と言い伝えられていました。

その国は、冬が長く続き、作物はあまりとれませんでしたが、森の恵みはたくさんとれ、食べるのに困ることはなく、人々は慎ましく暮らしていました。

ある年の冬、青い沼にこの国の王様がやってきました。

王様はドラゴンに、「寒いせいで国も人も貧しいから、火を吐いて温めて欲しい」と言いました。

対価を求められると、金貨を10枚差し出しました。

ドラゴンは天に向かって、火を吐き出しました。

すると、たちまち冬が終わり、春がやってきたのでした。

こうして、国では作物がよく取れるようになり、王様の元には金貨が集まってくるようになりました。

人々の暮らしも豊かになり、王様の人気も高まってきた頃、王様は国が小さいことに不満を持ち始めました。

そこで、ドラゴンに頼み、トナリの国に火を吐いて、兵士たちを焼き殺すよう頼みました。

対価として、金貨1000枚を支払いました。

ドラゴンはトナリの国へ行き、火を吐きました。

たくさんの人々が焼き殺され、小さな国は大きな国になりました。

ですが、しばらくすると、どんどん暑くなり、作物も取れず、人も獣も倒れていくようになりました。

王様はまたドラゴンの元にかけつけ、火を吐くのをやめるよう言いました。

対価として金貨1万枚を払うと言いましたが、ドラゴンは受け付けません。

金貨なら100万枚必要だと言い、王様を追い返してしまいました。

王様は、涼しい国へと逃げ出したのでした。

王様もいなくなり、お日さまが照り付ける暑い国の町角に、やんちゃそうな子ネコたちが座り込んでいました。

自分たちも逃げ出そうかと相談していると、ミューという小さなネコが立ち上がり言いました。

「あたしは逃げない!この町が好きだから、ドラゴンに火を吐くのはやめて!ってお願いに行く!」と。

みんなが止める中、賛同する一人の声。

それは渡りネコのアキラでした。

アキラはギターを弾き、歌いながらミューと一緒に行くと言いました。

ミューも歌いながら、「火を止めないと、あたしたちの未来もなくなる」とみんなに訴えかけました。

すると、他の子ネコたちも立ち上がり、そんなのは嫌だと歌い出しました。

ミューと仲間たちは、歌いながら青い沼に向かいました。

ミューたちが歩いていくと、どこからか他の子どもたちも集まってきました。

ネコ以外の動物やヒトの子どももいます。

国中の子どもが集まってきたのです。

みんなに向かってミューが大きな声で言いました。

「ドラゴンの前に行ったらありったけの声で叫ぶのよ。『ドラゴン、火を吐くのはやめて!』って!」

みんなも大きな声で応じます。

そして、ついに青い沼に到着したのでした・・・。

『ドラゴン、火をはくのはやめて!』の素敵なところ

  • 少しずつ変わってしまう王様と国
  • 画面から伝わってくるドラゴンの強大すぎる力
  • 子どもたちの強い希望が未来を創る物語

少しずつ変わってしまう王様と国

この物語の素敵なところは、大人が壊してしまった国を、子どもたちが自分の力で取り戻すところでしょう。

小さな国はもともと、貧しいけれど幸せな国でした。

王様も欲はあれど、最初は国民のことも考え、国を豊かにしようと思っていたのでしょう。

しかし、一度豊かになると、欲は止まりません。

国民も、これまで慎ましく幸せに暮らしていたのに、国を豊かにした王様へ歓声を送ります。

さらには、他国を侵略し領土を広げるまでになり、これには子どもたちも、

「王様だめだよ!」

「ひどすぎる!」

「うわ~・・・」

と、かなり嫌な気持ちに。

ただ、これは王様だけでなく、国民も同じくらい欲に溺れた結果なのだろうなと、欲の怖さを感じます。

けれど、この欲によって醜悪になっていく姿が丁寧に描かれているからこそ、最後の場面が輝いていることも間違いありません。

画面から伝わってくるドラゴンの強大すぎる力

国が大きくなっていく中で、中心となってくるのがドラゴンです。

言い伝えにある伝説のドラゴン。

この絵本では、その言い伝えに負けないほど、強大で存在感があります。

「ふむ、お前の願いはわかった。だが、願いを叶えたら、なにをくれるのかね?」

など、重たく威圧感のある言葉。

天を焼き、一瞬にして夕焼けのように空を真っ赤にしてしまう炎の迫力。

トナリの国の空を、飛びながら火を吐き一掃する恐ろしい姿。

ドラゴンの一挙手一投足が、重たく、強大さをひしひしと伝えて来るのです。

そして、ここまでの強大さと無慈悲さがあるからこそ、最後の場面でのセリフやドラゴンの行動に、とても重みが加わります。

この重みがあるからこそ、子どもたちの成し遂げたことにも重みが生まれるのでしょう。

物語全体に、緊張感を生むドラゴンの存在と描き方も、この絵本のとても大きな魅力です。

子どもたちの強い希望が未来を創る物語

さて、そんな物語は、子どもたちの行動で大きな転換点を迎えます。

逃げる訳でも戦うわけでもありません。

自分たちの意思を伝えに行くのです。

自分たちの生まれ育った土地で、未来を創っていくと言う、本来なら当たり前のことを取り戻すために。

ミューが立ち上がり、賛同者アキラが立ち上がり、仲間に希望の灯がともっていく。

さらにそれが国中に広がり、みんな集まってくる。

そんな、少しずつ広がり大きな力になっていくのも、胸が熱くなるところです。

そして、ドラゴンに立ち向かった時、ドラゴンから帰ってくる言葉。

「願いを叶えたら、何をくれるのかね?」

これへのミューの答えが、この絵本の一番素敵なところです。

それに対する、ドラゴンの返答も。

子どもたちの希望が、未来を創っていくという物語自体が、この絵本のとてもおもしろく素敵なところです。

二言まとめ

ドラゴンをめぐる、小さな国の歴史を丁寧に描いた壮大な物語。

その中で、子どもたちが自分のできることを、精一杯やって未来を創っていく姿に、たくさんの勇気と希望をもらえる絵本です。

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