くれよんがおれたとき(5歳~)

絵本

作:かさいまり 絵:北村裕花 出版:くもん出版

友だちだから言えない。

友だちだから許せない。

でも、友だちだから許せた。

一本のクレヨンをきっかけに、様々な感情が揺れ動きます。

あらすじ

小学生の女の子、ゆうちゃんとさくらちゃん。

2人はとても仲良しで、毎朝おいかけっこしながら、学校へ行っていた。

今日は校庭で写生会。

ゆうちゃんはニワトリ小屋をのぞき、すぐにニワトリを描くことに決めた。

ゆうちゃんはすぐに決められる。

けれど、さくらちゃんは、いつも迷ってしまう。

さくらちゃんがようやく花壇の花を描くことに決め、絵を描いていると先生が言った。

「出来上がらない人は宿題にします。」

するとゆうちゃんが「一緒に描こう」と声をかけてきて、一緒にさくらちゃんの家で描くことになった。

ゆうちゃんがうちに来ると、さくらちゃんは新品のクレヨンを見せた。

まだ一回も使ってないピカピカのクレヨン。

ゆうちゃんが自分のクレヨンで、どんどん描き進める中、さくらちゃんはクレヨンを使うのがもったいなくて、なかなか描き始められずにいた。

その時・・・。

白が足りなくなったゆうちゃんが、「ちょっとだけ白貸して」と言ってきた。

さくらちゃんは、「まだ使ってないのに・・・」と思いながらも、「ちょっとだけならいいよ」と答えた。

ゆうちゃんはぐいぐい力を入れて描く。

さくらちゃんは気になって自分の絵が描けない。

クレヨンのぽきって折れた音がした。

でも、ゆうちゃんは夢中になって絵を描いている。

ゆうちゃんはお礼を言って、小さくなったクレヨンを返した。

そして、やっとさくらちゃんが全然描いていないことに気付いた。

「だって・・・」と理由を言えないさくらちゃん。

二人ともしゃべらない変な空気が流れる。

ゆうちゃんは片づけをして、黙って帰っていった。

その夜、さくらちゃんはなかなか眠れなかった。

心の中に嫌なものがたまっている。

クレヨンをいっぱい使ったゆうちゃん。

返してって言えない自分。

クレヨンのせいで絵が描けなかった自分。

こんなことを考えている自分。

全部が嫌だった。

次の日。

学校でゆうちゃんが新しい白のクレヨンを渡してきた。

でも、意地を張って受け取らなかった。

ゆうちゃんの握りしめる手の中から、クレヨンの折れた音がした。

だけど、しらんぷりをした。

素直にありがとうと言えない自分がいた。

ゆうちゃんと話をしない毎日が過ぎた。

そんなある日。

先生が「ゆうちゃんの絵をコンクールに出すことが決まった」と発表した。

みんながゆうちゃんをお祝いする。

けれど、さくらちゃんは「よかったね」って言えなかった。

すると、ゆうちゃんが先生に言った「わたしの絵出さないでください!」と。

びっくりするみんな。

2人の仲は一体どうなってしまうのでしょう・・・。

『くれよんがおれたとき』の素敵なところ

  • 友だちだからこそのジレンマが、とてもリアルに描かれている
  • 丁寧に、子どもの言葉で描写される揺れ動く心
  • 友だちだからこその「ごめんね」じゃない解決法

友だちだからこそのジレンマが、とてもリアルに描かれている

この絵本では友だちだからこそ、断れなかったり、許せなかったするジレンマがとてもリアルに描かれています。

友だちだからと、空気が悪くならないよう本当は嫌だけど「いいよ」と言ってしまう時。

相手と感覚がすれ違ってしまっている時。

仲がいいからこそ、素直に許せない時。

そんな経験は誰でもあると思います。

その時の、気まずい空気感や、本当は嫌な気持ち、それに気づかない相手とのすれ違い感・・・。

それらが、現実の世界そのままに描かれるのです。

だからこそ、2人のすれ違う気持ちを見て、感情移入できるのでしょう。

「ゆうちゃん使い過ぎだよ!」

「いいよって言えればいいのに」

「仲直りできたらいいな・・・」

と、自分もその場にいるような子どもたち。

こんな気持ち経験したことのある子は、その時の気持ちを思い出しながら見ている様でした。

まだ経験したことがない子は、2人を通して経験しているのでしょう。

リアルだからこそ、とても心に訴えかけてくるのだと思います。

丁寧に、子どもの言葉で描写される揺れ動く心

そんなジレンマの中、色々な感情が揺れ動きます。

その心理描写がものすごく丁寧で、かつ子どもの素直な言葉で表現されています。

ゆうちゃんの無神経さへの嫌な気持ちはもちろん、

断れなかった自分や、嫌なことをずっと考えている自分への自己嫌悪もしっかりと描かれます。

さらには、謝罪を素直に受け入れられなかったり、祝うことができなかったり。

わだかまりがある時の、意地を張ってしまう気持ちや、独特の気まずい空気感まで丁寧に描かれるのです。

始まりは相手への怒りでも、最終的には自分への自己嫌悪に結び付く。

友だちとのけんかでは、よくあることだと思います。

そんな気持ちに気付かせてくれ、言語化してくれるのがこの絵本のとても素敵なところです。

きっと、けんかしている時にこの絵本を見たら、自分の気持ちを整理するきっかけになるのだろうなと思います。

友だちだからこその「ごめんね」じゃない解決法

さて、そんな気まずい空気が続く物語の結末は、大好きな友だちだからこその、とても気持ちが晴れやかになるものでした。

そのきっかけを作ったのはゆうちゃんです。

さくらちゃんの表情を見て、コンクールへ絵を出すことを辞退するゆうちゃん。

きっとものすごい葛藤があったことでしょう。

それを見たさくらちゃん。

ゆうちゃんの苦しみに気付いたのでしょう。

これまでの気持ちを吹っ切るように勇気を出します。

「ごめんね」を言ったわけでもありません。

クレヨンを弁償したわけでもありません。

ですが、心が通じ合い、お互いにスッキリして、元の関係性に戻っていく。

そんな友だちだからこそできる、わだかまりを解決する姿が、「友だちっていいな」と思わせてくれるのです。

そして、「ごめんね」と謝ることだけが、けんかの解決策じゃないことにも気付かせてくれるのです。

二言まとめ

ぶつかり合うわけではない、静かなけんかの気まずい空気や、その心情がリアルに描かれる。

友だちだからこその葛藤と、友だちだからこその仲直りに、「友だちっていいな」と温かい気持ちになれる絵本です。

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