なんにもせんにん(4歳~)

絵本

文:唯野元弘 絵:石川えりこ 出版:すずき出版

ある日、拾った小人は「なんにもせんにん」。

拾い主が、なんにもしないで遊んでいると、どんどん大きくなっていく仙人です。

大きくなった仙人を小さくするする方法は?

あらすじ

昔ある村に、仕事もせず遊んでいる若者がいた。

その日も、朝からぶらぶらしていると、小さい壺が転がっているのを見つけた。

壺の中を覗き込むと、そこにはとても小さな男が入っていた。

男はとても小さな声で、「なんにもせず遊んでいる者が好きだから、連れていってくれ」と頼んできた。

若者はおもしろがって、壺を持ち帰った。

若者は家に帰ると、小さい男を手に乗せて遊んでいた。

けれど、次の日になるとそれも飽きて、小さな男を家において外に遊びに行った。

日が暮れるころ家に帰ると、家の中で太った大男が気持ちよさそうに寝ていた。

それは、壺の中に入っていた男だった。

話を聞くと、一緒に暮らしている者が遊べば遊ぶほど大きくなるのだと言う。

次の日も若者が遊んで戻ってくると、男はさらに大きくなっていた。

若者は寝る場所がなくなり、土間にわらを敷いて寝た。

そのまた次の日も、若者は遊びに出かけた。

家に戻る頃には、男はもっと大きくなり、家から頭と手足が飛び出していた。

若者は「これ以上大きくなると家が壊れてしまう」と心配しながら外で寝た。

次の朝、外で寝ている若者を見て、近所の人が声をかけてきた。

稲刈りが忙しくて、手伝って欲しいということだ。

若者は渋々稲刈りを手伝った。

仕事終わりに手間賃を貰うと、若者はなぜか嬉しくなった。

仕事が終わり、家に戻ると男は朝より小さくなり、家の中に納まっていた。

どうやら、一緒に暮らしている者が働くと、小さくなるようだ。

若者は、それから毎日、あちこちの稲刈りを手伝った。

そして、男は・・・。

『なんにもせんにん』の素敵なところ

  • 毒にも薬にもならないゆる~い仙人
  • ゆる~く働く楽しさを知っていく若者
  • なんにもせんにんらしい最後の願い

毒にも薬にもならないゆる~い仙人

この絵本のとてもおもしろく魅力的なところは、なんにもせんにんのゆる~い生き様でしょう。

仙人の目的はただ一つ。

遊んで暮らしている人と一緒に暮らすこと。

それ以上でもそれ以下でもありません。

一緒に暮らす人が遊んでいると大きくなりますが、別にそれで力をつけてなにかする気はありません。

一緒に暮らす人が働き始めて小さくなっていっても、別にそれを妨害したり止める訳でもありません。

こんなにも受け身で、人任せな仙人見たことがありません。

名前の通り、本当になんにもしないのです。

でも、大きくなりながらだらだらする姿や、小さくなりながらの寂しそうな表情には、なんとも言えない愛くるしさがあり、ちょっと一緒に暮らしてみたなってしまう魅力があります。

なんにもせず、家に住めなくなるなど、間接的に迷惑はかけているけど、毒にも薬にもならないこの不思議な感じが、なんにもせんにんの素敵で癖になるところです。

ゆる~く働く楽しさを知っていく若者

そんな仙人を拾う若者もまたゆる~いのが、さらにおもしろいところ。

なんにもせんにんが「遊んでいると大きくなる」と言っているのに、遊び続ける若者。

寝る場所がなくなってきても、遊び続ける若者。

家が壊れる寸前になっても、どうにかしようとはしない若者。

普通なら、大きくしないために遊ぶのをやめたり、小さくする方法を探すところです。

ですが、まったく対策せず、日に日に寝る場所が狭くなり、最後は外でひざを抱えて寝ています。

びっくりするくらい受け身!

物語後半で働き始めますが、これも村の人に声をかけられ渋々働き始めるだけ。

別に危機意識とかではありません。

けれど、働いてお金をもらうことに充実感を抱き始める若者。

働く楽しさに目覚めていくのです。

ここでも、普通なら「なんにもせんにんをどうにかするため働く」みたいな動機づけがあるでしょう。

しかし、この物語は違います。

なんにもせんにが大きくなり過ぎて、外で寝るしかなくなり、外で寝ていたことで村人の目に留まったという間接的な影響はあります。

でも、若者が働き始め、その楽しさを知っていく過程に、特になんにもせんには影響しません。

若者は若者で働くようになり、なんにもせんにんはなんにもせんにで、勝手に小さくなっていく。

この2人のよく考えると、あんまり影響を与えてないゆる~い関係性もこの絵本のおもしろいところです。

ただ、あまり影響を与えてないからこそ、無理やり働いている感なく、純粋に働くことの楽しさが伝わってくるのでしょう。

それがこの絵本の素敵なところなんだと思います。

なんにもせんにんらしい最後の願い

さて、どんどん小さくなっていくなんにもせんにん。

すっかり働き者になった若者に、最後の願いを伝えます。

これがなんともなんにもせんにんらしいもの。

「働かずに遊んでくれ」と言うわけでもありません。

まさに毒にも薬にもならないお願いです。

最初から最後まで、相手に影響をまったく与えようとしない姿には美学すら感じます。

この最後までゆる~く、受け身でなんにもしないところも、この絵本のとても素敵なところです。

二言まとめ

驚くほどなんにもしないなんにもせんにんと若者の、ゆる~いやり取りと、関係性がおもしろい。

読んでいると「働いてみようかな」と思わせてくれる、ゆる~い昔話です。

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