文:富安陽子 絵:西巻茅子 出版:福音館書店
ケンカオニは人間をケンカさせる鬼。
しかも、言ったことを本当にしてしまうから大変です。
「カエルに食べられちゃえ!」
なんて言ってしまったら・・・。
あらすじ
男の子ののぶちゃんととっちんが、同じ部屋で遊んでいた。
のぶちゃんがおもちゃ箱にボールを投げ入れようとしましたが、ボールはとっちんの背中にぶつかってしまいました。
その時、とっちんの頭に赤いケンカオニがくっついたのです。
とっちんは急に腹が立ち、怪獣のぬいぐるみをのぶちゃんに投げつけました。
ぬいぐるみがのぶちゃんの顔に命中した時、今度は青いケンカオニがのぶちゃんの頭に飛び乗りました。
二匹のケンカオニは、お互いにあっかんべーをして、戦いを開始しました。
赤ケンカオニがとっちんの頭を蹴飛ばすと、とっちんが叫びました。
「のぶちゃんなんか、カエルに食べられちゃえ!」
すると、庭の草むらから大きなガマが現れて、のぶちゃんを飲み込もうと口を開けました。
びっくりした青ケンカオニが、のぶちゃんの耳を引っ張ります。
今度はのぶちゃんが、
「カエルなんかヘビにのまれちゃえ!」
と叫び返しました。
すると、ヘビが現れて、大ガマを追いかけます。
それを見た赤ケンカオニが、とっちんの髪の毛を引っ張ると、
「ライオンに食われちゃえ!」ととっちん。
大ガマとヘビとライオンの追いかけっこが始まりました。
ライオンの爪がヘビの尻尾を掴もうとしたので、青ケンカオニが慌ててのぶちゃんの頭を蹴飛ばします。
のぶちゃんが「クジラにのまれちゃえ!」と言うと、大きなクジラが現れて、3匹とも一口で飲み込まれそうに・・・。
その時、赤ケンカオニがとっちんの頭をひっぱたき、とっちんが叫びます。
そこに現れたものとは・・・?
そして、このケンカはどこまでエスカレートするのでしょう?
『ケンカオニ』の素敵なところ
- イラっとする気持ちをよく表したケンカオニ
- 言ったことが本当になる怖さとおもしろさ
- ケンカをする時の大切な心得
イラっとする気持ちをよく表したケンカオニ
この絵本の素敵なところは、イラっとした気持ちを鬼として具現化してくれているところ。
物がぶつかったり、なにかを言われたりした時に、イラっとする気持ち。
そこからケンカになったり、口を利かなくなったりするものです。
このイラっとした得体のしれない気持ちを、鬼として目に見えるようにしてくれているのです。
きっと小さな子でも、イラっとしている時に、
「頭にケンカオニくっついてるよ」
と、言われたら、自分がどんな状態か自然とイメージ出来るでしょう。
ケンカオニの存在を知っていると、怒りをコントロールするきっかけになるのです。
しかも、ケンカオニの働きっぷりが、実際に怒っている時の自分と重なり合うのもおもしろいところ。
怒っている時の、頭の中から溢れてくる激しい感情は、頭を誰かに蹴飛ばされたり、引っぱたかれているような、憎しみを伴います。
言い返されたときに、さらに強い言葉で言い返すのは、まさにケンカの時の売り言葉に買い言葉。
終わりが見えません。
自分がケンカをしている時と重なり合うからこそ、ケンカオニが自分ごとになり、怒っている時に自分を見つめ直すきっかけになってくれるのだと思います。
言ったことが本当になる怖さとおもしろさ
そんなケンカオニが憑りついたケンカですが、ただのケンカでは終わりません。
言ったことが本当になってしまうのです。
これがハラハラドキドキ。
怖いけれどおもしろい。
どんどん強いものや大きいものへパワーアップしていく言葉。
カエル→ヘビ→ライオン、さらにはクジラまでも現れます。
子どもたちも、
「えー!ほんとに出てきた!」
「ライオン出てきたらやばいよ!」
「クジラ、どこから出てくるの!?」
と、大盛り上がり。
クジラの後に出てくるものには「ほんとに出てきたー!」と、さらにびっくりして大騒ぎしていました。
この、ただのケンカでは終わらない、鬼の力があるからこその大喧嘩も、大きな魅力の一つです。
ケンカをする時の大切な心得
さて、そんなケンカの結末は、予想外のものでした。
自分たちだけでは収拾がつかないところまで大きくなってしまったケンカ。
そこに助け舟が現れます。
そして、最後に言った一言が、この絵本のとても素敵なところです。
「ケンカをするな」なんて言いません。
「仲よくしろ」とも言いません。
でも、ケンカをする上でとても大切な心得を伝えてくれる一言なのです。
二言まとめ
言ったことが本当になってしまい、どんどん大きくなっていくケンカが恐ろしくもおもしろい。
自分の中にある「怒り」と、ケンカオニを重ね合わせて、自分の中のケンカオニに気付かせてくれる絵本です。
コメント