文:谷川俊太郎 絵:スズキコージ 出版:交通新聞社
でんでん虫の殻に乗るでんでんでんしゃ。
その行先は、天の国から、地の底まで、でんでん虫とは思えません。
でんでんでんしゃと、不思議な旅へ出発です。
あらすじ
大雨が降っている日。
男の子は傘を差し、でんでんでんしゃを呼びに出た。
すると、雨どいの排水管から、小さなでんでんでんしゃが現れた。
これでは乗れないと、男の子が大きくなるよう伝えると、でんでんでんしゃはみるみる大きく。
早速乗り込み、みんなを乗せて、のを越え山越え進んでいく。
大きな木のてっぺんまで登ると、でんでんでんしゃはそのまま空の雲へと走って行った。
天使と一緒に虹の川を下っていくと、ヘラジカの背中へ着地するでんでんでんしゃ。
ヘラジカの背に乗り進んでいくと、モグラの道へと辿り着く。
モグラの道が続く先は、悪魔が隠れる地の底だった。
大爆発する地の底で、でんでんでんしゃはどうなるのでしょう?
『でんでんでんしゃ』の素敵なところ
- でんでん虫とは思えない不思議で楽しい旅
- 独創的で気持ちいい、癖になる言葉たち
- 親しみやすくも幻想的で、夢の中にいるような絵
でんでん虫とは思えない不思議で楽しい旅
この絵本のとても魅力的なところは、でんでん虫とは思えない行動範囲の広さです。
でんでん虫の殻に乗る絵本は数あれど、ここまででんでん虫の限界を超える旅をする絵本は見たことがありません。
木に登ったかと思ったら、そのまま雲の上を走り出したり、モグラの穴から地獄のような地の底の世界へ入り込んでしまったり。
子どもたちも、
「空飛んじゃったよ!」
「カタツムリなのに!」
と、予想を超える進路に驚きの声を上げていました。
けれど、でんでん虫らしさは忘れません。
どこへ行くにも、きちんと這っているのです。
空に行くなら、木のてっぺんから、雲へと這って進みます。
地上に降りる時も、虹の川を這って戻ってきます。
こんな風に、でんでん虫らしさがしっかりあるからこそ、でんでん虫からぬ旅の不思議さが増しているのだと思います。
独創的で気持ちいい、癖になる言葉たち
また、この絵本のおもしろさは、物語だけではありません。
文章の中の言葉選びや、言葉遊びもとてもおもしろいところなのです。
でんでんでんしゃを呼ぶ時は、
「おーい ふーい どこにいるぅ あめなめらめるめ でんでんでんしゃ あめといっしょに ふってこーい!」
野を越え山越え進んでいく時は、
「どこへいくのか のこえやまこえ かわこえこえこえ まんがりみちも とんがりみちも ゆっくりどんどん みんなをのせて」
というように、感性に直接訴えかける言葉や、いつも使っている言葉を変化させたものがたくさん出てきます。
でも、語呂がよく、すっと読めて、聞いていても、口に出しても楽しくて気持ちいい。
歌のような詩のようなおもしろさが詰まっています。
これが、不思議な旅と相まって、独創的でこの絵本でしか味わえない魅力を形作っているのです。
親しみやすくも幻想的で、夢の中にいるような絵
さらに、ここに絵の魅力が加わってくるから大変です。
この独創的な世界と物語にぴったりはまる絵。
どこか子どもが描くような親近感がありつつも、ダイナミックで幻想的です。
見上げるような大きな木の迫力。
そこから繋がる空の雲。
雲の上ではスキーをしていたり、天使が輪っかで遊んでいたり。
虹の川を降りてくる時は、眼下に広大な大地が広がっています。
一方、地の底の世界での大爆発は、絵本の外まで爆風が来そうなほどのダイナミックさと、悪魔の国ならではの不気味さを兼ね備え、思わず息を呑んでしまいます。
この絵が、独創的な物語と言葉に、ピタリと組み合わさって、お互いをより楽しく、独創的で幻想的にしてくれているのです。
これらが溶け合って、見事に融合しているのが、この絵本のとても素敵で魅力的なところだと思います。
二言まとめ
リズム感のいい、直感的な言葉たちが読んでいても聞いていて気持ちいい。
でんでん虫とは思えない、想像を超えたでんでんでんしゃの旅にドキドキワクワクがとまらない絵本です。
コメント