作:石井聖岳 出版:イースト・プレス
スコップで穴掘りを始める一匹のワニ。
最初は小さな穴でしたが、仲間が集まり重機が入り、いつの間にか大工事。
一体なんのために掘っているのでしょう?
あらすじ
金魚の入った金魚鉢を、頭に乗せたワニがいました。
小さなスコップを持って笑っています。
あなぼこを掘っていると、他のワニたちもやってきました。
みんなで掘ると、あなぼこはどんどん大きくなっていきます。
そこへショベルカーを運転する仲間がやってきました。
さらにブルドーザーにダンプカー、ロードローラーに載った仲間まで。
一気に穴が広がります。
そこはまさに工事現場。
さらには鉄骨を組み始めるワニたち。
一体、なにができあがるのでしょうか?
あなぼこを掘った目的とは?
『ワニあなぼこほる』の素敵なところ
- どんどん規模が大きくなる穴掘り
- ガラの悪すぎるワニ
- 優しすぎる完成品
どんどん規模が大きくなる穴掘り
この絵本のおもしろいところは、どんどん規模感が膨らんでいく穴掘りでしょう。
最初はスコップ一本で始まった穴掘り。
それは子どもが砂場で穴を掘るくらいの規模感です。
そこへ、仲間が大きなスコップを持って参戦します。
が、まだまだ大人が本気で穴を掘っているくらいの規模感です。
けれど、ここにショベルカーが入ってくると話は変わってきます。
子どもたちも、
「え!?ショベルカー!?」
「ワニ、運転できるの!?
「すごい!工事じゃん!」
と、さすがにびっくり。
一気に規模感が大きくなり、もう工事の領域です。
さらに当たり前のようにブルドーザー、ダンプカー、ロードローラーまで集結。
アナボコはクレーターのように大きくなり、景観はまさに工事現場。
いつの間にか、事務所用のプレハブまで建っていて、ワニたちの本気度を感じます。
さらには穴を掘るだけだと思っていたのに、鉄骨を使ってなにかを作り始めてしまいます。
この頃には、最初は小さな穴を掘っていたことなど忘れていることでしょう。
この、1ページごとにインフレしていく、穴掘りの規模感がとてもおもしろいところです。
ガラの悪すぎるワニ
また、ワニのガラが悪すぎるのも、この絵本のおもしろいところ。
まず、見た目のガラが悪い。
吊り上がった目、鋭い牙、ガタイのいい体。
完全に悪者のフォルムです。
さらには、笑い方も「ぎっひっひ」や「ぐっひっひ」。
しゃべり方も片言で、
「んん!?あなぼこあなぼこ?」
「おう」
「うおーあなぼこ!」
と、ほぼ「うおー!」と「あなぼこ!」と「ぎっひっひ」で会話していきます。
ただ、悪そうなのですが妙に癖になるのが、このワニたちの魅力です。
あなぼこを掘ることだけに全身全霊の全力で挑むワニ。
余分な言葉やエピソードを挟まず、ただ穴掘りに集中するワニ。
なんのためにこんなにも一生懸命なのかはわからないけれど、心が一つになっているワニ。
そんな姿を見ていると、なぜか胸が熱くなり、ワニと一緒に心を一つにしている自分がいます。
心の中で「あなぼこ!」と叫んでいることでしょう。
そして、気付けば「ぎっひっひ」と笑うワニを大好きになっているのです。
優しすぎる完成品
さて、そんなワニたちが作っていたものも完成の時が訪れます。
おれは驚くほど規模の大きなものでした。
子どもたちも、
「すごい!」
「遊園地みたい!」
「こんなの作れるの!?」
と、驚きつつ大喜び。
ここでついに、これを作った目的が判明します。
その目的がものすごく優しいのが、この絵本のとても素敵なところです。
見た目やしゃべり方とのギャップがすごい。
「このためにみんなで力を合わせて、こんなに大きなもの作ったの!?」
と、サービス精神の旺盛さに感心してしまいます。
ワニたちの優しい心にも。
小さな親切を、最大規模の全力で実行する、ワニのかっこよさもこの絵本の大きな魅力です。
二言まとめ
ガラの悪いワニたちが、本気であなぼこを掘る姿と、どんどん大きくなる規模感がおもしろい。
その優しすぎる結末に、ワニたちを心からかっこいいと思わせてくれる絵本です。
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