作:尾崎玄一郎・尾崎由紀奈 出版:福音館書店
押し入れにはこっそり住み着いている者がいる。
それがおしいれじいさんです。
その姿はなんと・・・ちょうちんあんこう!?
あらすじ
ある家の押し入れの中に、おしいれじいさんがこっそり住んでいます。
おしいれじいさんの見た目はちょうちんあんこうそのもの。
押し入れに積み上げられた布団の上で寝ています。
夜になり、人間が布団を敷くころになると起き、押し入れの奥へとふわふわ泳ぎ、見つからないように隠れます。
人間が布団を敷き終わり、押し入れを閉めたら、おしいれじいさんの時間が始まりです。
おでこについているライトをつけると、朝まで遊ぶなにをして遊ぶか考えるおしいれじいさん。
押し入れの下の段に泳いでいくと、そこには人間の荷物がしまってありました。
おしいれじいさんは、そこで遊んだり、本で調べ物をしたりするのです。
辺りを見回していると、奥に長い棒を見つけました。
引っ張り出してみると、棒の先には糸と針がついています。
こんなもの見たことがないおしいれじいさんは、さっそく本で調べてみることに。
すると、それは釣り竿で、「大物」を釣り上げるのに使うものだとわかりました。
しかし、押し入れの中で「大物」など見たことがありません。
おしいれじいさんは試しに釣りをしてみることにしました。
すると、針に引っかかったのは、クマのキーホルダー。
全然「大物」ではありません。
気を取り直してもう一度。
すると今度はハンガーが釣れました。
その後もチャレンジしますが、長靴、電車のおもちゃ、破れた凧・・・。
まったく「大物」は連れません。
やはり、押し入れに「大物」はいないのでしょうか・・・。
『おしいれじいさん』の素敵なところ
- 本当にいそうなおしいれじいさん
- 絶妙に笑える勘違い
- 押し入れに潜む「大物」
本当にいそうなおしいれじいさん
この絵本の素敵なところは、自分の家の押し入れにも、おしいれじいさんがいそうなこと。
おしいれじいさんは、当たり前のように押し入れに住んでいます。
なんなら、自分たちが使っている布団の上で寝ています。
でも、人間が布団を敷く時間になると、押し入れの奥へ隠れて見つからないようにしています。
これがなんともリアル。
押し入れの片方しか扉が開かない仕組みを、これでもかと活かしています。
のぞき込まないと奥まで見えない押し入れ。
しかも、奥は暗くてよく見えません。
さらには、上下段あり、同時に覗き込むのはほぼ不可能です。
最初は「いないよ」と言っていた子どもたちも、よく考えたらいるかもしれないという事実にドキドキし始めます。
おしいれじいさんには、完全否定できない絶妙なリアリティがあるのです。
絶妙に笑える勘違い
でも、そんなおしいれじいさんは、いても怖くありません。
むしろ絵本を読んでいるうち、いたら楽しそうだなと思えてきます。
なぜなら、おしいれじいさんがすることは、夜遊んで、朝になったら寝ることだから。
顔はちょっと怖いけれど、やっていることは子どもとなにも変わりません。
しかも、ちょうちんあんこうならではの、おちゃめなところも素敵です。
釣竿を見つけたおしいれじいさんですが、もちろん釣られる側なので、釣りのことなど知りません。
本で調べますが、そこに載っていたのはマグロを釣っている場面。
おしいれじいさんはマグロを釣るつもりで、釣りを始めます。
これには子どもたちも、
「押し入れにマグロはいないでしょ!」
「魚なんて釣れるの?」
と、不思議な光景にツッコミを入れていました。
もちろん魚は釣れません。
釣れるのは押し入れにしまってあるガラクタばかり。
でも、そのガラクタに対する反応も、ハンガーを骨だらけの魚だと勘違いしたりと、絶妙なおもしろさ。
見ている子どもたちはわかっているけど、おしいれじいさんは勘違いしたままという構図がなんともおもしろいのです。
押し入れに潜む「大物」
とはいえ、なにかすごいことが起こるかもと期待してしまうのが絵本の魔力。
「なんだかんだ大物が釣れるのではないか?」
という期待感はあります。
けれど、釣れるのは長靴や凧など、どれも押し入れにしまっていそうなものばかり。
おしいれじいさんも、子どもたちも「やっぱり押し入れか」とあきらめかけます。
ですが、そこでまさかの展開が訪れます。
竿にこれまでにはない手ごたえを感じるのです。
おしいれじいさんにも、子どもたちにも緊張が走ります。
そして、釣り上げたのは、なんとも押し入れらしい「大物」でした。
ここで、ファンタジーな要素が入ってこないのが、この絵本のなんとも素敵なところ。
押し入れというリアリティは壊さずに、「大物」を釣り上げてしまうのです。
これには子どもたちも、盛り上がりつつ妙に納得。
自分の押し入れの「大物」のことが頭に浮かんでいる様でした。
二言まとめ
とっても不思議なおしいれじいさんの、おちゃめな夜遊びがおもしろい。
不思議なおしいれじさんと、それ以外のリアリティのギャップが楽しい絵本です。
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