作:ピーター・レイノルズ 訳:かとうりつこ 出版:主婦の友社
世界中の花が咲く自分の庭。
そんな庭を作るため、世界中を周り種を集めます。
でも、その庭に最初に咲いたのは紙で出来た花でした。
あらすじ
ローズには、世界中を旅するという夢がありました。
ある時、その夢を叶えるために、ティーポットの船に乗り、世界を周る旅へと出発するのでした。
ローズは、世界中を周り、世界中の花の種を集めました。
ティーポットが種で一杯になったころ、ローズは自分の庭を作りたくなりました。
ちょうどその時、海の向こうに大きな街が見えてきました。
その街に行ってみると、コンクリートだらけのとても忙しい街でした。
歩き回るうち、ビルの間に土がむき出しになっている、寂しい場所を見つけました。
ローズは、灰色の街の中、ここに色があったらどんなに素敵だろうと思いました。
ローズはさっそく土を耕しました。
そして、種を植えようとティーポットに戻ったのですが、あんなにいっぱいあったはずの種がほんの少ししか残っていません。
鳥たちに食べられていたのです。
ローズは、残った種を大切にポケットにしまい、耕した土にまきました。
じっと待っていましたが、芽は出ません。
雨の季節が過ぎ、夏がになり、秋の風が吹いて、雪に埋もれてもローズは待ち続けました。
やがて、雪解けの季節になる頃、諦めないで待ち続けるローズの噂が街の人たちに伝わっていました。
ある温かな春の日。
小さい女の子が、ローズへ紙で作った花を「あなたのお庭に植えてください」と持ってききました。
次の日、今度は小さな男の子が、手作りの花を持ってきました。
それから毎日子どもたちがやってきて、紙の花を渡し、ローズに声をかけてくれました。
すぐに庭は紙の花と色でいっぱいになりました。
ローズが喜んでいたその時、一匹のハチが・・・。
『ローズのにわ』の素敵なところ
- どこまでも前向きで諦めないローズ
- だんだんと色がついていく庭と街
- 飛んできたハチが向かった先は・・・
どこまでも前向きで諦めないローズ
この絵本の主人公ローズは、とても前向きで行動力のある女の子。
世界を周るという夢を叶えてしまうし、その中で世界中の花の種を集めてきます。
そして、一つの夢が叶ったら、新たに「自分の庭を作る」という夢まで作ってしまいます。
さらに、大きな街が見えてきたらすぐ行動。
庭を作る場所を、あっという間に見つけ、耕し始めます。
このどんどんやりたいことをやってしまう行動力が、ローズのとても素敵で、見ていて気持ちいいところです。
でも、それだけではありません。
予想外の悲しいことが起きても、前を向き行動できる強さも持っているのです。
世界中で一生懸命集めた種が、一瞬で鳥たちのお腹の中に消えている・・・。
こんなことが起こって、すぐに気持ちを切り替えることができるでしょうか?
そこでローズは、消えた種のことではなく、残った種に目を向けて、すぐに庭づくりに戻るのです。
鳥に恨み言を言ったりもせず。
この前向きな強さも、ローズとこの絵本のとても素敵なところです。
そこから1年芽が出ませんが、もちろん諦めることはありません。
雨の日も、猛暑の日も、雪の日も、ローズは種を見守り続けます。
そんな中でも、笑顔で希望を持ち続けるローズ。
この前向きで諦めない姿に、子どもたちも気付けばローズを応援し、ローズと一緒に芽が出ることを心から願っているのです。
だんだんと色がついていく庭と街
けれど、その姿を見守り、応援しているのは絵本を見ている子どもたちだけではありませんでした。
絵本の中の子どもたちも、ローズのことを見ていたのです。
諦めないロースの姿に心動かされた子どもたち。
自分にできる精一杯のことをして、ローズを応援しようと考えます。
それが紙で作った手作りの花と、ローズにかける言葉です。
この2つは、ローズにとってとても勇気をくれるものだったことでしょう。
その物語だけで、十分素敵なところなのですが、もう一つ素敵な仕掛けが隠されているのも、さらに素敵なところです。
それが、色の使い方。
この絵本は、最初の世界を旅するところからずっと、灰色で描かれ色がありません。
特に街のコンクリート感とよく合っていて、無機質な感じがよく出ています。
だからこそ、忙しさや寂しさが際立つのです。
そんな中、この絵本に初めて鮮やかな色が着く瞬間。
それが、紙で作った花です。
灰色の世界に、子どもの持っている一輪の花だけが、鮮やかな色を持っています。
それはまるで光り輝いているよう。
子どもたちが、色とりどりの紙の花を持ってくるごとに、絵本の中の色が増え、次第に賑やかになってきます。
そして、庭が紙の花でいっぱいになった時、一気に絵本の中が色づくのです。
この目の前いっぱいに色と花が広がる様子は圧巻で、灰色の世界から一気に色づいて世界に行くページめくりは、暗がりから一気に日差しの中へ飛び出したような感覚をもたらしてくれるでしょう。
子どもたちも、
「わあ・・・」
「きれい・・・」
「お花いっぱい・・・」
と心から声が漏れだしたように感嘆。
これまでの耐えてきた時間と相まって、色づいたことで心が一気に解放されるのです。
この素敵すぎる色の使い方が、この絵本の楽しく美しいところです。
飛んできたハチが向かった先は・・・
さて、紙の花だけでも十分素敵な花畑。
でも、忘れてはいけないのが、ローズのまいた種の行く末です。
もちろん、そこにも素敵な結末が待っていました。
それを知らせてくれたのが、1匹のハチ。
ハチが興味あるものは、紙の花ではありません。
紙の花では花粉が取れませんからね。
ということは・・・。
この気付かせ方が、なんとも素敵。
自然に詳しい子どもは、このハチにピンときます。
「紙の花なのにハチ・・・、あ!」
といち早く気付いていました。
そして、ハチが止まった先には・・・。
こうして、ついに苦労が報われたローズ。
でも、そこはすでにローズの庭ではありませんでした。
なぜなら・・・。
このタイトル回収しないところも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
ローズのどこまでも前向きな姿に、絵本の中の子も、絵本の外の子も、ローズのことを応援したくなる。
物語の中の色の使い方が、どこまでも美しく素敵な、心がぽっと温かくなる絵本です。
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