作:たかおゆうこ 出版:講談社
かたい殻のクルミの実。
そんなかたい殻の中には、たまに変わったものが入っているみたい。
もし、クルミを振った時に、不思議な音がしたのなら・・・。
あらすじ
一粒のクルミが置いてある。
このクルミを揺らした時に、シャリンチリン・・・といい音がしたら・・・。
中には金銀のキラキラとした王冠や鏡など、小さな宝物が詰ってる。
一粒のクルミが置いてある。
もし、それがリスの隠したクルミなら・・・。
中には小さな針刺しが入った、リスの裁縫箱。
一粒のクルミが置いてある。
もし、そのクルミに小さなドアがついていたら・・・。
それは小さな小さなおじいさんとおばあさんが住んでいる家。
一粒のクルミが置いてある。
クルミを耳に当てた時、カラーンカラーン・・・と微かに音が聞こえたら・・・。
中には小さな町があり、時を知らせる鐘を鳴らしている。
冬になると、町には雪が降り積もり、小さな町の人たちは、静かに春を待っている。
一粒のクルミが置いてある。
もし音もなく、しっとりと重かったら、そっと土に埋めてごらん。
するとクルミは・・・。
『くるみのなかには』の素敵なところ
- 想像が広がるクルミの中に詰まっているもの
- クルミへ試してみたくなる様々なアプローチ
- クルミの本物の中身とは・・・
想像が広がるクルミの中に詰まっているもの
この絵本の素敵なところは、クルミの中に様々なものを想像させてくれるところです。
固くて、中が見えないクルミの殻。
その中に、詰まっている色々なもの。
宝物や裁縫箱、さらには人まで住んでいます。
それはどれも予想もしなかったものばかり。
予想外過ぎて、最初は「そんなのないよ」と言っていた子もいましたが、読み進めていくうちに、すっかりこの絵本の魔法にかかり、真剣に見ていたのが印象的でした。
きっと、クルミの殻がとても固いというところからくる、「リスだったら裁縫箱に使うかもしれない」「小人だったら住むのにちょうどいいかもしれない」とった、絶妙なリアリティがあるからかもしれません。
また、静かで落ち着いた語り口なのも、クルミの中の小さな世界に存在感を持たせてくれています。
特に「ちいさなちいさな」という言葉が、クルミの中に入ってしまうくらいの小ささを感じさせてくれ、自然とクルミの中に入ってしまうくらい小さな人々や町を想像させてくれるのです。
こうして想像していると、クルミの中に入りそうなものがさらに頭に浮かんできます。
「冷蔵庫もあるかもしれない」
「遊園地もあるかな?」
など、さらに小さな世界の想像が広がって行きます。
この中身が見えないものへの、興味や想像力をかきたててくれるのが、この絵本のとても素敵なところです。
クルミへ試してみたくなる様々なアプローチ
けれど、この絵本のおもしろいところは想像するだけで終わりません。
クルミや木の実への、想像を広げる関わり方まで伝えてくれているのです。
この絵本では、「揺らしてごらん」「見つけてごらん」「よく見てごらん」など、クルミの中身を調べる方法も出てきます。
揺らした音が聞こえるかもしれない。
見つけたものは落ちているものではなく、生き物が隠したものかもしれない。
よく見たら、ドアがついているかもしれない。
こんな風に、クルミへ様々なアプローチをすることで、より想像力が広がります。
ただ、見ているだけだと、想像力には限界があります。
しかし、見たり触ったりと五感を使って関わると、新たな気付きがあり、それが想像力の広がりへと繋がっていきます。
この絵本では、そんな想像力を広げるために、どうやってクルミと関わればいいのかまで描かれているのが、とても素敵なところなのです。
この絵本を見た後に、クルミや木の実を拾ったら、自然と揺らしたり、耳を当てたりすることでしょう。
もしかしたら、想像と現実の世界が繋がって、
「中から音がするよ!」
「葉っぱの下にあったから、リスさんが隠してたのかも!」
というような素敵な体験が待っているかもしれません。
クルミの本物の中身とは・・・
さて、クルミの中には色々なものが入っていましたが、それらはみんなクルミ本来の中身ではありません。
きっと、クルミの中を空にして、そこに住んだりしまったりしているのでしょう。
では、クルミの本来の中身はなんなのでしょうか。
この絵本では、そんな本来のクルミの中身と、その働きも描かれているのが本当に素敵なところです。
その本来の働きとは、もちろん植物の種としての働きです。
音もなくしっとりと重いクルミ。
それはまさに多くの普通のクルミです。
そんなクルミを地面に埋めるとどうなるのか?
そこからは想像の世界から飛び出して、本物のクルミの成長が見られます。
あまり知られていない、クルミの木や花、クルミの果実を知ることができます。
クルミの中身を想像することから始まったこの絵本。
そこで芽生えたクルミへの興味を、クルミの成長する姿を見ることで、さらに興味深いものにしてくれているのです。
この想像と現実のクルミを両方描き出し、自然物のおもしろさや雄大さを感じさせてくれるのが、この絵本のとてもとても素敵なところです。
二言まとめ
中身が見えないからこその、クルミの中への想像力を広げてくれる。
クルミや木の実を見つけた時、揺らしたり、耳に当てたりと、自然と中身を調べたくなる絵本です。
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