作:ジョン・バーニンガム 訳:へんみまさなお 出版:ほるぷ出版
ある日、海に遊びに来た家族。
子どもが海に遊びに行くと、向こうから海賊船が。
でも、両親は全然気づかずに・・・。
あらすじ
女の子シャーリーは、両親と犬と一緒に海へ遊びに来た。
海は冷たくて泳げないので、両親は椅子を置いて浜辺で休憩、シャーリーは犬と一緒に海を眺めることになった。
お母さんは他に遊んでいる子の仲間に入ればいいのにと言うけれど、
すでにシャーリーの頭の中では、船に乗って海へと漕ぎ出していた。
お母さんは、新しい靴を汚しちゃだめよと言うけれど、
シャーリーの船に海賊が迫り、今にも乗り移ってきそうな状況になっている。
お母さんは、犬をぶったらダメだと言うけれど、
シャーリーは海賊に捕まり、今にも甲板から突き落とされそう。
お母さんは、飲み物がいるか聞いてくるけれど、
シャーリーは縄を解いて、海賊と戦っているところだ。
お母さんは、石を投げちゃだめよと言うけれど、
シャーリーは海賊旗を、犬は地図を持って、海賊船から脱出するところだった。
お母さんは、海藻は家に持って帰れないと言うけれど・・・。
お母さんの小言と、シャーリーの冒険はまだまだ続く・・・。
『なみにきをつけて、シャーリー』の素敵なところ
- 左右のページを使った大人と子どもの世界
- 小言と冒険のスケール感の大きな違い
- シャーリーと一緒に想像を膨らませる楽しさ
左右のページを使った大人と子どもの世界
この絵本はおもしろい作りをしています。
左のページに両親、右のページにシャーリーと犬とい構図になっているのです。
両親はシャーリーがのんびり海を眺めていると思っているので、とってものんき。
緊迫感の欠片もありません。
一方、右のページでは、シャーリーたちの想像の世界での大冒険が繰り広げられ、息を吐かせぬ緊迫感。
片や、のんびりと小言を言いながら、お茶を飲む両親。
片や、海賊に捕まり海に突き落とされそうになっているシャーリー。
という風に、この左右のページのギャップが、たまらなくおもしろいのです。
小言と冒険のスケール感の大きな違い
これをさらにおもしろくしているのが、毎ページ言われる、お母さんからの小言。
「他の子と遊んだら?」「靴を汚さないで」「石を投げちゃダメ」「ぶっちゃダメ」と、子どもたちもどこかで聞いたことのあるような、よく言われる小言を連発してくるのです。
けれど、シャーリーの冒険はそれどころではありません。
だって、海賊と戦っているのですから。
「靴を汚さない」どころか、海に飛び込むし、
「ぶっちゃダメ」と言われても、剣で海賊とやり合っています。
さらには「海藻は持って帰れない」と言われる横で、もっとすごいものを持って帰ろうとしていたり・・・。
もう、小言のスケールの小ささと、シャーリーの冒険のスケールの大きさが違い過ぎておもしろいのです。
子どもたちも、
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
「海賊きてるから!」
と、おもしろがったり慌てたり。
両親とシャーリーのあまりの空気感の違いを楽しんでいる様でした。
この左右のページの空気感や、スケールの違いが、この絵本のとてもおもしろいところです。
シャーリーと一緒に想像を膨らませる楽しさ
さて、この絵本には、お母さんの小言には文章がありますが、シャーリーの想像には文章がありません。
なので、シャーリーの物語は、見ている人が、絵を見ながら想像していく作りになっているのです。
「あれ、海賊船じゃない!?」
「捕まっちゃったよ!」
「海賊船から逃げられた!」
「なんの地図だろう?」
と、どんどん想像が膨らみます。
さらに、読み聞かせで多人数に読むと、意見交換も行われます。
「どうやって縄をほどいたのかな?」
「犬が噛み切ったんじゃない?」
「あれって宝の地図?」
など、子どもの声から、さらに想像が膨らむのです。
特におもしろかったのが、最後に冒険が終わり、家族と家に帰る場面。
砂浜の砂利を見て、「これ宝物の金貨じゃない?」と言った子がいて、そこからページをよく見て「あーでもないこーでもない」と想像をさらに広げていたのです。
これは説明や文章がなかったからこそ、大きく想像の世界が広がったのだと思います。
この、シャーリーの想像の世界を借りて、一緒に冒険し、その中でさらに想像の世界を広げてくれる作りも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
左右にわかれた、大人の世界と、子どもの世界の、空気感とスケール感の違いがたまらなくおもしろい。
シャーリーと、小言に負けず、想像の世界を一緒に楽しめる絵本です。
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