再話:稲田和子 画:赤羽末吉 出版:福音館書店
昔、飯も食わずによく働く女が嫁に来た。
けれど、なぜか米は減っていく。
男がこっそりのぞいてみると・・・。
あらすじ
昔、うんと欲張りな男がいた。
その男は、飯は食わずによく働く女房が欲しいと考えていた。
そんな仕事の帰り道、後ろから一人の女がついてくる。
声をかけると、その女は飯を食わずよく働く女だと言う。
その姿の美しかったこともあり、男は女を女房にした。
一緒に暮らし始めると、女は飯を食わないのによく働いた。
男は、米がたまることを楽しみに過ごしていた。
ところが、一向に米は貯まらない。
それどころか、ごっそり減ってしまっている。
男は怪しく思い、出かけるふりをして、家の中を見張ることにした。
すると、男が家を出てすぐに、女は大きな窯いっぱいに米を炊き、たくさんの握り飯を作り始めた。
そして、できあがると、女は結っていた髪をほどき始めた。
男は女の頭を見て驚いた。
頭にぽっかりと口が開いていたのだ。
女は頭の口に、どんどん握り飯を放り込んでいく。
男はガタガタと震えながら、その光景を見届け、日が暮れるころ仕事から帰ってきた振りをして、「やっぱり一人暮らしがいいから」と別れを切り出した。
それを聞いた女は、男が秘密を知ったとすぐにわかり、たちまちでっかいおにばばになった。
さらに、すぐさま男を桶に放り込み、その桶を担いで山へと歩き出したのだった。
しかし、おにばばの動きを見ていると不思議なこともあった。
菖蒲やよもぎの生えたところは避けて通るのだ。
こうして、山道をかなり進んだ頃、おにばばはくたびれて、一休みすることにした。
と、その時、桶の上にちょうど木の枝が下がってきた。
男はここぞとばかり、木の枝にしがみつき、桶の中から逃げ出すことができた。
おにばばはそんなこと露知らず、桶を抱えてまた歩き出した。
このまま、男はおにばばから逃げることはできるのでしょうか?
『くわずにょうぼう』の素敵なところ
- 頭に口という恐ろしいおにばばの姿
- 連れていかれるのも、追いかけられるのも物凄く怖い
- おにばばの意外な弱点
頭に口という恐ろしいおにばばの姿
この絵本のなにより盛り上がる瞬間は、女房の本性が垣間見える瞬間でしょう。
髪をほどいて現れる口は、まさに妖怪。
恐ろしさと、不気味さが入り混じっています。
絵のおどろおどろしさも相まって、子どもたちも、
「頭に口がある!」
「オバケだったんだ!」
と、口々に悲鳴をあげ、身を寄せ合っていました。
この、身の毛もよだつ恐ろしさを、容赦なく感じられるところが、この絵本のとてもおもしろいところです。
連れていかれるのも、追いかけられるのも物凄く怖い
ですが、怖さはこれだけでは終わりません。
おにばばが、本当の怖さを見せるのはここからなのです。
男はごまかして別れを告げますが、その嘘はすぐにばれ、あっという間に捕まってしまいます。
桶に入っている男。
それを軽々と担いで歩くおにばば。
この絵面からは、絶体絶命のハラハラ感が嫌というほど伝わってきます。
連れていかれたら、おにばばに食べられることがみんなわかっているので、なおさらです。
逃げなきゃいけないけど、逃げられるわけがないという絶望感。
それでも、どうにか逃げ出しますが、その後もやっぱり怖い。
それはもう恐ろしい形相と恐ろしい速さで追いかけてくるのです。
画面からは、その風のような速さがほとばしっていて。
逃げ切ることなど不可能だと直感的に感じさせてくれるほど。
その顔も、さっきまでのごちそうが食べられると安心した顔から一変。
怒り狂う般若のような形相になっているからさらに怖い。
これには子どもたちも、言葉を失い、ただただ成り行きを見守っていました。
この、最初から最後まで、ハラハラドキドキが止まらない緊迫感を生み出している、絵と文章の怖さも、この絵本のとても素敵なところです。
おにばばの意外な弱点
さて、こうしてあっという間に追いつかれてしまう男ですが、その命を救ったのは意外なものたちでした。
どちらも、昔から伝わる、悪いものを遠ざけてくれるものたちです。
子どもたちには、子どもの日などの行事で由来を説明しているかもしれません。
それらが実際におにばばを退ける姿が見られるのも、この物語のおもしろいところ。
実際に緊迫した物語の中で見ると、まるで神からの助け舟のようにも感じます。
きっと、子どもたちの心の中に、魔よけの力があるものとして、強く心に残ることでしょう。
そんな、昔からの言い伝えが、力を発揮するところを見られる、緊張感たっぷりの結末も、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
頭の口から握り飯を食うおにばばを、見るのも、捕まるのも、追いかけられるのも全部怖い。
欲張りすぎると、いいことがないと、とてもよくわかる昔話です。
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