くわずにょうぼう(4歳~)

絵本

再話:稲田和子 画:赤羽末吉 出版:福音館書店

昔、飯も食わずによく働く女が嫁に来た。

けれど、なぜか米は減っていく。

男がこっそりのぞいてみると・・・。

あらすじ

昔、うんと欲張りな男がいた。

その男は、飯は食わずによく働く女房が欲しいと考えていた。

そんな仕事の帰り道、後ろから一人の女がついてくる。

声をかけると、その女は飯を食わずよく働く女だと言う。

その姿の美しかったこともあり、男は女を女房にした。

一緒に暮らし始めると、女は飯を食わないのによく働いた。

男は、米がたまることを楽しみに過ごしていた。

ところが、一向に米は貯まらない。

それどころか、ごっそり減ってしまっている。

男は怪しく思い、出かけるふりをして、家の中を見張ることにした。

すると、男が家を出てすぐに、女は大きな窯いっぱいに米を炊き、たくさんの握り飯を作り始めた。

そして、できあがると、女は結っていた髪をほどき始めた。

男は女の頭を見て驚いた。

頭にぽっかりと口が開いていたのだ。

女は頭の口に、どんどん握り飯を放り込んでいく。

男はガタガタと震えながら、その光景を見届け、日が暮れるころ仕事から帰ってきた振りをして、「やっぱり一人暮らしがいいから」と別れを切り出した。

それを聞いた女は、男が秘密を知ったとすぐにわかり、たちまちでっかいおにばばになった。

さらに、すぐさま男を桶に放り込み、その桶を担いで山へと歩き出したのだった。

しかし、おにばばの動きを見ていると不思議なこともあった。

菖蒲やよもぎの生えたところは避けて通るのだ。

こうして、山道をかなり進んだ頃、おにばばはくたびれて、一休みすることにした。

と、その時、桶の上にちょうど木の枝が下がってきた。

男はここぞとばかり、木の枝にしがみつき、桶の中から逃げ出すことができた。

おにばばはそんなこと露知らず、桶を抱えてまた歩き出した。

このまま、男はおにばばから逃げることはできるのでしょうか?

『くわずにょうぼう』の素敵なところ

  • 頭に口という恐ろしいおにばばの姿
  • 連れていかれるのも、追いかけられるのも物凄く怖い
  • おにばばの意外な弱点

頭に口という恐ろしいおにばばの姿

この絵本のなにより盛り上がる瞬間は、女房の本性が垣間見える瞬間でしょう。

髪をほどいて現れる口は、まさに妖怪。

恐ろしさと、不気味さが入り混じっています。

絵のおどろおどろしさも相まって、子どもたちも、

「頭に口がある!」

「オバケだったんだ!」

と、口々に悲鳴をあげ、身を寄せ合っていました。

この、身の毛もよだつ恐ろしさを、容赦なく感じられるところが、この絵本のとてもおもしろいところです。

連れていかれるのも、追いかけられるのも物凄く怖い

ですが、怖さはこれだけでは終わりません。

おにばばが、本当の怖さを見せるのはここからなのです。

男はごまかして別れを告げますが、その嘘はすぐにばれ、あっという間に捕まってしまいます。

桶に入っている男。

それを軽々と担いで歩くおにばば。

この絵面からは、絶体絶命のハラハラ感が嫌というほど伝わってきます。

連れていかれたら、おにばばに食べられることがみんなわかっているので、なおさらです。

逃げなきゃいけないけど、逃げられるわけがないという絶望感。

それでも、どうにか逃げ出しますが、その後もやっぱり怖い。

それはもう恐ろしい形相と恐ろしい速さで追いかけてくるのです。

画面からは、その風のような速さがほとばしっていて。

逃げ切ることなど不可能だと直感的に感じさせてくれるほど。

その顔も、さっきまでのごちそうが食べられると安心した顔から一変。

怒り狂う般若のような形相になっているからさらに怖い。

これには子どもたちも、言葉を失い、ただただ成り行きを見守っていました。

この、最初から最後まで、ハラハラドキドキが止まらない緊迫感を生み出している、絵と文章の怖さも、この絵本のとても素敵なところです。

おにばばの意外な弱点

さて、こうしてあっという間に追いつかれてしまう男ですが、その命を救ったのは意外なものたちでした。

どちらも、昔から伝わる、悪いものを遠ざけてくれるものたちです。

子どもたちには、子どもの日などの行事で由来を説明しているかもしれません。

それらが実際におにばばを退ける姿が見られるのも、この物語のおもしろいところ。

実際に緊迫した物語の中で見ると、まるで神からの助け舟のようにも感じます。

きっと、子どもたちの心の中に、魔よけの力があるものとして、強く心に残ることでしょう。

そんな、昔からの言い伝えが、力を発揮するところを見られる、緊張感たっぷりの結末も、この絵本のとても素敵なところです。

二言まとめ

頭の口から握り飯を食うおにばばを、見るのも、捕まるのも、追いかけられるのも全部怖い。

欲張りすぎると、いいことがないと、とてもよくわかる昔話です。

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