文:工藤直子 絵:あべ弘士 出版:童心社
生まれたのは、ボウフラと同じくらいの小さな竜。
色々な生き物に助けられながら、大きくなっていきます。
そして、その大きさと力は・・・。
あらすじ
小さな粒から、とても小さな竜が生まれた。
その竜は水がめの中のボウフラと一緒に踊っていた。
ちょうど大きさも、ボウフラと同じくらい。
竜はボウフラに、自分が何者かを聞いた。
すると、自分はちび竜で、ここから飛び出しでか竜になるのだと教えてくれた。
しかも、神通力を使えるようになり、なんでもできるようになるという。
最後に、ボウフラは、ちび竜のしっぽを雨踊りにぴったりだから、よい雨を降らせる竜になると励ましてくれた。
ちび竜はそれを聞き、ボウフラにお礼を言うと、水たまりから飛び立った。
ちび竜は、虹色の羽を羽ばたかせ、飛んでいく。
やがて、たんぽぽにとまったちび竜に、たんぽぽが話しかけてきた。
どこに行くのかと聞かれ、遠くへ行きたいのだと答えると、羽のまだ弱いちび竜に、たんぽぽは綿毛と一緒に飛んではどうかと提案してくれた。
ちび竜はその提案に乗り、綿毛につかまった。
風が吹き、ちび竜と綿毛は遠くへと飛んでいく。
綿毛は飛びながら、ちび竜は風と仲良しになれると励ましてくれた。
そんな綿毛に別れをつげ、ちび竜はまた飛んでいく。
この頃には、爪くらいだったちび竜も、手のひらほどの大きさになっていた。
ちび竜は、飛び方の訓練をしていたが、どうにもうまくいかず、フラフラとした飛び方になる。
それを見て、笑う者がいた。
トンボだ。
トンボの飛ぶ姿はとてもかっこよかった。
トンボは、ちび竜に飛び方や、羽の手入れの仕方、羽体操まで教えてくれた。
こうしてちび竜は飛び方の免許皆伝となった。
トンボはちび竜に、世界一かっこよく飛ぶ竜になると言ってくれた。
ちび竜はトンボにお礼を言い、別れを告げ飛び立った。
ちび竜はさらに大きくなり、少しずつでか竜になっていった。
ある日、水の中でフナに会い、ウロコ通信のやり方を教えてもらった。
ウロコ通信とは、ウロコで水の中のすべてを感じとるわざのこと。
やってみると、水の粒を伝って、遠くにあるものまで手に取るようにわかる。
ウロコ通信ができるようになると、フナはちび竜が水に兄弟になったと言ってくれた。
またある日には、モグラが土について教えてくれた。
土は匂いで合図をしてくれるという。
ちび竜が、土の匂いを嗅いでみると、木の根っこの匂いがするところは、考え事にぴったりなど、土の合図がわかった。
たくさんの土の合図を覚えた頃、モグラはちび竜を土の親友だと言ってくれた。
ちび竜はどんどんでかくなり、シカと角で相撲をとるまででかくなっていた。
そして、入道雲と肩を並べて空を飛ぶようになるまでに。
でも、ちび竜はもっともっとでかくなる。
一体どこまで大きくなるのか・・・?
『ちび竜』の素敵なところ
- 丁寧に描かれる神通力の原体験と大きくなっていくちび竜
- でか竜のとてつもない大きさが伝わってくる仕掛け
- 竜がいる場所
丁寧に描かれる神通力の原体験と大きくなっていくちび竜
この絵本のとても素敵なところは、丁寧に描かれるちび竜の成長でしょう。
ちび竜の成長が、アルバムを見ているかのように、一つずつゆっくりと描かれるのです。
最初はボウフラと同じ大きさだったちび竜。
ボウフラに、自分が何者かと、なんでもできる竜になれることを教えてもらい、その言葉を信じて訓練をしていきます。
訓練の途中で、たんぱぽと風に出会い、トンボに飛び方を教えてもらい、フナと水に出会い、モグラと土に出会い・・・。
色々な生き物たちとの出会いの中で、たくさんのことを学ぶ竜。
学ぶたび、少しずつ大きく、精悍になっていく竜の姿。
それは一緒に成長を体験しているような、子どもの成長を見守るような不思議な感覚をもたらしてくれます。
子どもたちも、ちび竜が小さい時には、
「ちび竜かわいいね!」
「まだ、ちっちゃいからうまくできなんだよ」
と、弟や妹を見守るような雰囲気でしたが、大きくなっていくにつれ、
「大きくなったね!」
「かっこいい!」
「雷も起こせるの!?」
と、自分と重ね合わせたり、憧れの声へと変わっていきました。
きっと、自分と同じくらいの大きさになったことで、見方が変わっていくのでしょう。
これはちび竜の成長を生まれてから大きくなるまで描く、この絵本だからこそのおもしろい感覚だと思います。
さらに、その全てのエピソードが、でか竜になった時に使う、すさまじい神通力の原体験として、繋がっているのも素敵なところ。
でか竜になったちび竜は、しっぽの一振りで夕立を作り、風に化けて海の波を作る手伝いをしたり、虹を作り出すことさえできてしまいます。
でも、そこには、ボウフラにしっぽを褒められたこと、綿毛と一緒に風に乗って旅したことなど、ちび竜だった時のエピソードとの確かな繋がりが感じられるのです。
どんなにすごい竜の力も、その力の元を辿っていくと、誰かとの出会いや、そこで褒められたり励まされたりしたことが、原体験になっている。
そう考えると、その力は小さな成長と地続きになっていて、ちび竜とは似ても似つかないでか竜も、ちび竜と地続きであることが感じられます。
このちび竜の小さな成長の連続と繋がって、とてつもない力を持つでか竜が存在していることを、物語から実感できるのが、この絵本のとても素敵なところなのです。
でか竜のとてつもない大きさが伝わってくる仕掛け
そんなでか竜は、十分大きく強力になった後にも、さらに大きく成長していきます。
そして、その大きさが想像をはるかに超え、最大になった時、絵本に仕掛けが施されます。
それは、折りたたんだページを開くと言う仕掛け。
「そしていま、ちび竜は・・・」という言葉に続き、折りたたみを開きます。
この時の、圧倒的大きさとスケール感の飛躍がすごい。
その前のページですら、ものすごく大きくなり、悠々と空を飛んでいたでか竜。
しかし、ページをめくった後は、およそその100倍くらいのスケール感になっているのです。
これには、子どもたちもびっくりを通り越して感嘆。
「うわ~!」
「こんなに大きくなったの!?」
「やっば・・・」
と、驚いたり言葉を失ったり。
ただ、大きいだけじゃなく、その光景の神秘的な美しさも合わさったのでしょう。
圧倒的なスケール感と、成長の喜び、自然を感じさせる神秘的な美しさ、その全てを感じさせてくれるこの仕掛けも、この絵本の本当に素敵なところです。
竜がいる場所
さて、ここまで大きく成長したちび竜。
でも、物語の最後で、ちび竜は一匹ではないことが語られます。
このちび竜は、こんな風に成長したけれど、他のちび竜には他の成長の仕方があるみたいです。
そんな竜が生まれる場所が、この絵本のとても素敵なところです。
それは、この世界のすべて。
竜はどこにでもいるのです。
外で吹く風も、急に降る夕立も、どこかのちび竜の姿かもしれません。
もちろん、外だけでなく内にもいます。
その場所はみんなの心の中。
みんな心の中に竜を住まわせ、育てることができるのです。
どんな訓練をして、どんな出会いを経て、どんな力を持った竜になるのかはわかりません。
でも、どんな大きさでも、できることが少なくても、一生懸命生きる竜が心の中にいるのです。
「自分の心の中の竜はどんな竜なんだろう?」
そんなことを考えるきっかけになるのも、この絵本のとても素敵なところ。
読んだ後に、自分の心の中の竜を絵に描いてみたり、物語を作ってみるのもおもしろいかもしれません。
二言まとめ
小さなちび竜から、大きなでか竜までの成長を、とても丁寧にゆっくりと描き出す。
小さな出会いや成長が、大きな力へ繋がっていくことを感じられる絵本です。
コメント