文:竹下文子 絵:鈴木まもる 出版:金の星社
6色のクレヨンが空を飛んで絵を描きます。
描いたものにさらに描き足し、どんどん広がっていく絵の世界。
最後にはとても巨大な・・・。
あらすじ
クレヨンの箱を開け、6人の小人が6本のクレヨンで絵を描き始めた。
赤、黄色、青、水色、黄土色、茶色。
まずはみんなで線を描く。
クレヨンは空も飛べる。
空を飛びながら描いた波線はロケットみたい。
グルグルやギザギザなど、色んな線を描くこともできる。
空とぶクレヨンは、なんでも描ける。
黄色でバナナ、赤でリンゴ、青で魚、水色で鳥、茶色でトカゲ、黄土色でサル。
みんなで力を合わせたら、もっともっと色んなものをカラフルに描けちゃう。
さっき描いたバナナやリンゴも、パワーアップ。
いろんな色が混ざり合って、なんだかとても大きな形ができてきた。
大きな大きな楕円形。
どんどん色を塗っていくと、大きなクジラに見えてきた。
すると、そのクジラが大きな口を開けて・・・。
小人とクレヨンを丸呑みに。
クジラのお腹の中には、今まで描いた絵もみんな飲み込まれている。
6人の小人は迷子にならないよう、空飛ぶクレヨンを追いかける。
果たして、小人とクレヨンは、クジラの中から出て来られるのでしょうか?
『そらとぶクレヨン』の素敵なところ
- クレヨンで描かれたたくさんの自由で壮大な絵
- まるでSF映画のようなドキドキワクワクの脱出劇
- 大きな紙にクレヨンで絵が描きたくなる
クレヨンで描かれたたくさんの自由で壮大な絵
この絵本のとても楽しいところは、絵本の中で描かれる絵が、すべてクレヨンで描かれていることでしょう。
それも、子どもが使う太いクレヨンです。
クレヨンならではの太い線や、色合いなどは、どれも馴染み深いもの。
その絵も、上手過ぎず、まさに子どもが描いたような絵ばかり。
そんな絵たちを見ていると、とても親近感が湧いてきます。
最初は、バナナやリンゴなど、その色ならではのわかりやすいものが描かれますが、この絵本の真骨頂はその後です。
絵の発想は自由になり、絵の世界ならではのものたちが生み出されていきます。
その中で、さっきのバナナはタイヤと運転席がついて車になったり、
リンゴは体と表情が足され天使になったり・・・。
他にも、虹色の木や、手の生えた魚、たてがみの生えた牛など、自由過ぎる発想の絵がどんどん描かれていくのです。
これには子どもたちも、
「あの生き物はなんだろう?」
「トカゲから葉っぱ生えてるよ」
「あれは悪魔みたいだね」
など、驚きと発見が止まりません。
絵を描いているページだけで、ずっと見ていられるほど、独創的でおもしろく、魅力的な絵でいっぱいなのです。
この、描いているうちに、楽しい気持ちと発想がどんどん出てきて世界が広がっていく感覚を、絵本の中で見事に表現し、それを見ている人に感じさせてくれるところが、この絵本のとても素敵なところです。
まるでSF映画のようなドキドキワクワクの脱出劇
こうしてどんどん描いていくうちに、一つの大きな絵に収束していきます。
色が混ざり合い、どんどん青みを増していく楕円形。
この色の重なりも、クレヨンならではの美しさがあります。
こうして描き出されたのが大きなクジラ。
このクジラが現れたことで、のんびりと楽しく絵を描いていた物語に、急展開が生まれます。
小人もクレヨンも、みんなクジラに飲み込まれてしまうのです。
こうしてお腹から脱出しなくてはならなくなった小人たち。
急いで空とぶクレヨンを追いかけます。
子どもたちも、さっきまでの平和に笑っていたのが嘘のように真剣な顔で食い入ります。
この大きな緩急の変化も、この絵本の素敵なところ。
クジラのお腹からの脱出は、ドキドキワクワクの緊張感を生み出します。
その脱出劇も、色の波を飛んでいくクレヨンを追いかけ出口を目指すという、スピード感あふれる展開。
一つの出口に収束していく色の波を進んでいく姿は、SF映画の爆発する宇宙船からの脱出をほうふつとさせ、脱出出来た時の解放感は格別なものとなっています。
この緩急の変化によるドキドキワクワクも、この絵本のとても素敵なところです。
大きな紙にクレヨンで絵が描きたくなる
さて、こうして、自分でも描けそうな絵のタッチで、どこまでも自由な発想と絵の世界の広がりを見せてくれるこの絵本。
見ていたら、自分も描いてみたいという気持ちがむくむくと湧いてくるのが素敵なところ。
「自分だったらこんな絵を描きたい」
「この色を使って描きたい」
「こんな模様を描いたらおもしろそう」
など、子どもの中に様々な気持ちが渦巻きます。
また、絵だけではなく、色についても試したくなるのがこの絵本の魅力。
背景色が、たくさんの色を重ねた線で優しくも色鮮やかに描かれていたり、クジラの輪郭や塗りつぶしの色が一色ではなく、色を重ねることで深みのある色になっていたりと、クレヨンの新たな使い方に気付かせてくれるのです。
「よく見たら、緑が入ってる」
「赤も混ざってるよ」
と、子どもたちにも新たな発見があるようで、実際に色を重ねて試してみたくなってきます。
さらに、この絵本では6色ですが、基本的には12色くらいのクレヨンが多いので、この絵本にはない色でも試してみたくなる。
こうして、色んな方向からクレヨンへの興味を広げて、描きたい気持ちをかきたててくれるのです。
読み終わった後、大きな紙に自由に、のびのびと絵を描く時間を作れば、この絵本の世界はさらに広がることでしょう。
二言まとめ
空とぶクレヨンが描く、カラフルで自由で壮大な絵の世界に引き込まれる。
読めば、自分もクレヨンを使い、自由な絵の世界へ飛び立ちたくなる絵本です。
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