作:ペトル・ホラチェック 訳:青山南 出版:化学同人
黒いペンギンの中に一匹だけ、青いペンギンが生まれました。
青いペンギンは、いつも仲間外れ。
そんな寂しい日々の唯一の救いが、白いクジラが連れ出してくれるという夢でした。
あらすじ
南極に住むペンギンの群れに、青色のペンギンが生まれました。
他のペンギンはみんな黒。
青色のペンギンなんて見たことのないペンギンたちは、青色のペンギンが「本当にペンギンなのか?と疑いました。
青色のペンギンは、他のペンギンができることはなんでもできました。
けれど、仲間たちは色が違うというだけで、青色のペンギンから離れて行きました。
青色のペンギンはひとりぼっちになりました。
昼は寂しいばかりでしたが、夜はよく見る夢がありました。
それは大きな白いクジラがやってきて、ひおりぼっちから連れ出してくれるという夢です。
青色のペンギンは、白いクジラの歌を作り、毎朝、海に向かって歌いました。
ある日、その歌にペンギンの群れにいたちびペンギンが気付きました。
ちびペンギンは、毎日、歌を聞いていました。
毎日、少しずつ青色のペンギンに近づきながら。
そして、ある日ちびペンギンは、青色ペンギンに話しかけました。
「その歌を教えて」と。
青色のペンギンは毎日、ちびペンギンに歌を教えました。
それだけじゃなく、一緒に歌ったり、遊んだりもしました。
2人はすっかり友だちになっていました。
ある夜、青色のペンギンは新しい歌を歌いました。
もちろんちびペンギンにも教えました。
こうして新しい歌を歌い終えた時、その歌の素敵さに、他ペンギンたちもみんな集まってきました。
みんなこの歌を歌いたくなったのです。
青色のペンギンは、さっそく輪になって、歌を教えようとしました。
・・・その時です。
海から大きな白いクジラが現れたではありませんか。
クジラは「私を呼ぶ歌が聞こえたのでやってきた」といいます。
やっと友だちができた青色のペンギン。
一体どんな選択をするのでしょうか?
『あおいろペンギン』の素敵なところ
- 一つの儚い希望を胸に孤独を耐える姿
- たった一人の友だちが変えてくれる世界
- もう悲しくない新しい歌
一つの儚い希望を胸に孤独を耐える姿
この絵本の心を締め付けてくるところは、仲間外れにされ、一人ぼっちで生きる青色ペンギンの姿でしょう。
色が違うというだけで、仲間外れにされる青色ペンギン。
昼間はいつも寂しく、唯一癒されるのは夢の中だけです。
その夢も、白いクジラがやってきて、寂しいところから連れ出してくれるというもの。
それは一種の現実逃避で、どうしようもない現実から逃れようとするものです。
この夢が、「友だちができる」「新しい仲間のところに連れていってくれる」ではないのが切ないほど現実的。
絶望的な現実の中で、そんな希望を抱けないほど、寂しさに押しつぶされていたのでしょう。
ただ「寂しくなくなる」ことさえ叶えば十分だという、青色ペンギンの深い悲しみが想像できてしまうのです。
青色ペンギンは、この夢が叶うことだけを希望に毎日を生きます。
高い氷の上から、毎日クジラを呼ぶ歌を歌い続けて。
その一人ぼっちの小さな姿が、見ている人の心を締め付けるのです。
この青色ペンギンの姿から、青色ペンギンの感じる孤独や寂しさが痛いほど伝わってくるところが、この絵本の心揺さぶられるところです。
たった一人の友だちが変えてくれる世界
しかし、青色ペンギンに大きな変化が訪れます。
毎日歌う歌を、聞いているペンギンがいたのです。
それは群れの中のちびペンギン。
青色ペンギンの歌に惹かれ、毎日少しずつ近づいてきます。
この場面がなんとも素敵。
最初は遠く高い氷の上で一人ぼっちの青色ペンギンに、少しずつ2人目のペンギンが近づいてくる構図。
見ている方は、「青色ペンギンのところにいってあげて!」と応援に力が入ります。
でも、すぐには近づけません。
ちびペンギンにも、「怖さ」「恥ずかしさ」「ワクワク感」など色々な思いがあるのでしょう。
毎日一歩ずつ少しずつ・・・。
だからこそ、青色ペンギンの側に行き、話しかけた時、心から「よかったね!」と思えるのでしょう。
この場面の感動は、青色ペンギンの孤独の強さを嫌というほど感じているからこそ、とても大きなものになっています。
それからは、2人で歌い、2人で遊び、本当に楽しそう。
たった1人の友だちが、青色ペンギンの寂しく孤独な世界を180度変えてしまうという、1人と2人の大きな違いを実感させてくれるのも、この絵本のとても素敵なところです。
もう悲しくない新しい歌
さて、2人になり、これまでの白いクジラを呼ぶ歌が必要なくなったその時に、白いクジラが現れます。
ずっと青色ペンギンの希望だった白いクジラ。
けれど、青色ペンギンにはもう新しい歌があります。
ちびペンギンと作った楽しくて新しい歌が。
この希望に満ちた新しい歌も、この絵本のとても素敵なところ。
新しい歌とともに、青色ペンギンは夢の世界を抜け出し、完全に現実の世界を生きることに決めたのでしょう。
この最後の場面での、白いクジラや、ちびペンギン、他のペンギンたちとのやりとりや、青色ペンギンの力強い言葉から、その変化や成長が強く感じられるのです。
歌の変化を通して、青色ペンギンの心の変化が伝わってくるところ。
そして、助けを求める古い歌から変化する、希望に満ちた新しい歌のまぶしさもこの絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
色が違うだけで仲間外れにされてしまった、青色ペンギンの寂しさや孤独が痛いほどに伝わってくる。
だからこそ、友だちができた喜びや、楽しさ、希望も強く強く伝わってくる絵本です。
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