火をぬすむ犬(4歳~)

絵本

文:松谷みよ子 絵:司修 出版:太平出版社

日食と月食が、なぜ起きるか知っていますか?

それは遠い昔、ある国の王様が光を欲しがり、

火の犬を太陽と月に放ったからなのです。

あらすじ

宇宙のあるところに、カマク・ナラと呼ばれる暗闇の国が浮かんでいました。

カマク・ナラから太陽は見えますが、その温かな光は届きません。

カマク・ナラの王様は、それが悔しくてたまりませんでした。

ある時、王様はいい考えを思いつきました。

火の犬に、太陽をくわえて持ってこさせようとしたのです。

こうして、火の犬は宇宙を駆け、太陽のもとへたどり着きました。

そして、太陽に噛みつきましたが、その熱いこと。

何回も噛みついてみましたが、とても持って帰ってはこれませんでした。

王様はその話を聞いても、光を諦めきれませんでした。

そこで、「太陽がダメなら」と、今度は月を持ってこさせようと考えました。

別の火の犬が月の元へ向かい、またガブリと噛みつきます。

今度こそ、火の犬は光をカマク・ナラへ持って帰って来られるのでしょうか?

『火をぬすむ犬』の素敵なところ

  • 太陽を盗むという壮大な計画にドキドキワクワク
  • 熱い太陽と冷たい月の対比
  • 本当の宇宙とリンクするおもしろさ

太陽を盗むという壮大な計画にドキドキワクワク

この絵本のおもしろいところは、カマク・ナラの王様による、前代未聞の計画でしょう。

太陽の光が欲しくなり、太陽そのものを盗んで来ようとするのですから。

これを聞いて、子どもたちもびっくり。

最初は「そんなことできないでしょ!」と言いながらも、火の犬が登場すると、「もしかしたらできるのかな?」と思い始めます。

この壮大な計画が実現するのか?

もし実現して太陽が盗まれてしまったらどうなるのか?

このドキドキワクワク感が、この絵本のとてもおもしろいところ。

火の犬が太陽や月に行くたびに、

「太陽を引っ張ってこれるの!?」

「さすがに大きすぎるでしょ!」

と言いつつも、火の犬が太陽に噛みつくと、

「噛みついた!」

「持ってこれるかも!」

など、期待感もでてきたり、ドキドキワクワクが止まらないのです。

実現不可能に思える計画を、「実現できるかも」と思わせる展開がこの絵本のとてもおもしろいところです。

熱い太陽と冷たい月の対比

こうして、太陽と月を盗みに行く火の犬たち。

ここでの、太陽と月、それぞれを盗もうとした火の犬たちの正反対の結末も、この絵本のおもしろいところです。

太陽は見た目の通り、とても熱く、噛みついてもとてもくらいついていられません。

これが描写にもよく表れていて、太陽に溶けてしまうのではないかという犬の苦しそうな様子や、

噛り付いた時「前よりも暑かったので、パッと放して転げまわりました」というように、その熱さが痛いほどに伝わってくるのです。

反対に月は青く氷よりも冷たい世界。

月につけた足はみるみる凍り、火傷をしそうなほど冷たいのです。

この対比がおもしろく、太陽の熱さは予想していた子も、次に行った月が冷たいのは予想外。

太陽とは真逆の展開に、どうなるのかと食い入るように見てしまいます。

前半の画面全体が赤やオレンジの太陽の世界と、後半の青や白の月の世界で、色合いがガラリと変わるのも気分を一新してくれ、見ている人の気分を盛り上げます。

この、太陽と月という同じ光でありながらも、近づいた時のまったく性質の異なる対比も、この物語のとてもおもしろく、夢中になってのめりこんでしまうところです。

本当の宇宙とリンクするおもしろさ

さて、そんな宇宙を舞台にした、壮大な物語ですが、物語の中に本当の宇宙とリンクするところがたくさんあるのも、この物語ならではのおもしろいところでしょう。

太陽が熱いというのは、感覚的にわかります。

ですが、月が氷よりも冷たいというのは、どこか科学的に思えます。

確かに、本当の宇宙の月は、太陽とは似ても似つかない冷たい星。

写真などを見るとよくわかります。

ただ、この物語は韓国の民話。

昔話なのです。

これは、青白い色や夜の光から、昔の人が感覚的に感じたものなのかもしれませんが、現在の宇宙の常識と同じだというのが、とても神秘的に思います。

他にも、宇宙にあるカマク・ナラが、太陽から遠いことで暗闇の国になっているなど、妙に科学的に納得いく部分が多く、現代でこの物語を読んだ時に、妙な説得力があるのです。

そして、この科学的な説得力と、物語ならではのおもしろさが、交差するのが最後の場面。

日食と月食が起こる理由です。

この物語の結末を見てから、日食や月食を見たら、きっとこれまでと違う見方になるでしょう。

もしかしたら「火の犬がいる!」という子も出てくるかもしれません。

そんな、様々なところで現実の宇宙とリンクするところも、この絵本のとてもおもしろいところです。

二言まとめ

光を手に入れるため、太陽や月を盗んでくるという前代未聞の壮大な計画に、ワクワクドキドキさせられる。

見たら、日食や月食の日に、火の犬が飛び回る姿が見えるようになるかもしれない絵本です。

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