文:松谷みよ子 絵:司修 出版:太平出版社
日食と月食が、なぜ起きるか知っていますか?
それは遠い昔、ある国の王様が光を欲しがり、
火の犬を太陽と月に放ったからなのです。
あらすじ
宇宙のあるところに、カマク・ナラと呼ばれる暗闇の国が浮かんでいました。
カマク・ナラから太陽は見えますが、その温かな光は届きません。
カマク・ナラの王様は、それが悔しくてたまりませんでした。
ある時、王様はいい考えを思いつきました。
火の犬に、太陽をくわえて持ってこさせようとしたのです。
こうして、火の犬は宇宙を駆け、太陽のもとへたどり着きました。
そして、太陽に噛みつきましたが、その熱いこと。
何回も噛みついてみましたが、とても持って帰ってはこれませんでした。
王様はその話を聞いても、光を諦めきれませんでした。
そこで、「太陽がダメなら」と、今度は月を持ってこさせようと考えました。
別の火の犬が月の元へ向かい、またガブリと噛みつきます。
今度こそ、火の犬は光をカマク・ナラへ持って帰って来られるのでしょうか?
『火をぬすむ犬』の素敵なところ
- 太陽を盗むという壮大な計画にドキドキワクワク
- 熱い太陽と冷たい月の対比
- 本当の宇宙とリンクするおもしろさ
太陽を盗むという壮大な計画にドキドキワクワク
この絵本のおもしろいところは、カマク・ナラの王様による、前代未聞の計画でしょう。
太陽の光が欲しくなり、太陽そのものを盗んで来ようとするのですから。
これを聞いて、子どもたちもびっくり。
最初は「そんなことできないでしょ!」と言いながらも、火の犬が登場すると、「もしかしたらできるのかな?」と思い始めます。
この壮大な計画が実現するのか?
もし実現して太陽が盗まれてしまったらどうなるのか?
このドキドキワクワク感が、この絵本のとてもおもしろいところ。
火の犬が太陽や月に行くたびに、
「太陽を引っ張ってこれるの!?」
「さすがに大きすぎるでしょ!」
と言いつつも、火の犬が太陽に噛みつくと、
「噛みついた!」
「持ってこれるかも!」
など、期待感もでてきたり、ドキドキワクワクが止まらないのです。
実現不可能に思える計画を、「実現できるかも」と思わせる展開がこの絵本のとてもおもしろいところです。
熱い太陽と冷たい月の対比
こうして、太陽と月を盗みに行く火の犬たち。
ここでの、太陽と月、それぞれを盗もうとした火の犬たちの正反対の結末も、この絵本のおもしろいところです。
太陽は見た目の通り、とても熱く、噛みついてもとてもくらいついていられません。
これが描写にもよく表れていて、太陽に溶けてしまうのではないかという犬の苦しそうな様子や、
噛り付いた時「前よりも暑かったので、パッと放して転げまわりました」というように、その熱さが痛いほどに伝わってくるのです。
反対に月は青く氷よりも冷たい世界。
月につけた足はみるみる凍り、火傷をしそうなほど冷たいのです。
この対比がおもしろく、太陽の熱さは予想していた子も、次に行った月が冷たいのは予想外。
太陽とは真逆の展開に、どうなるのかと食い入るように見てしまいます。
前半の画面全体が赤やオレンジの太陽の世界と、後半の青や白の月の世界で、色合いがガラリと変わるのも気分を一新してくれ、見ている人の気分を盛り上げます。
この、太陽と月という同じ光でありながらも、近づいた時のまったく性質の異なる対比も、この物語のとてもおもしろく、夢中になってのめりこんでしまうところです。
本当の宇宙とリンクするおもしろさ
さて、そんな宇宙を舞台にした、壮大な物語ですが、物語の中に本当の宇宙とリンクするところがたくさんあるのも、この物語ならではのおもしろいところでしょう。
太陽が熱いというのは、感覚的にわかります。
ですが、月が氷よりも冷たいというのは、どこか科学的に思えます。
確かに、本当の宇宙の月は、太陽とは似ても似つかない冷たい星。
写真などを見るとよくわかります。
ただ、この物語は韓国の民話。
昔話なのです。
これは、青白い色や夜の光から、昔の人が感覚的に感じたものなのかもしれませんが、現在の宇宙の常識と同じだというのが、とても神秘的に思います。
他にも、宇宙にあるカマク・ナラが、太陽から遠いことで暗闇の国になっているなど、妙に科学的に納得いく部分が多く、現代でこの物語を読んだ時に、妙な説得力があるのです。
そして、この科学的な説得力と、物語ならではのおもしろさが、交差するのが最後の場面。
日食と月食が起こる理由です。
この物語の結末を見てから、日食や月食を見たら、きっとこれまでと違う見方になるでしょう。
もしかしたら「火の犬がいる!」という子も出てくるかもしれません。
そんな、様々なところで現実の宇宙とリンクするところも、この絵本のとてもおもしろいところです。
二言まとめ
光を手に入れるため、太陽や月を盗んでくるという前代未聞の壮大な計画に、ワクワクドキドキさせられる。
見たら、日食や月食の日に、火の犬が飛び回る姿が見えるようになるかもしれない絵本です。
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