作:丸山陽子 出版:BL出版
サンタクロースの息子には悩みがある。
それは、クリスマスにいつも一人ぼっちだということ。
だから、星にお願いをした。
「パパと一緒にいられますように」
あらすじ
学校に通う男の子。
この男の子には秘密がある。
それは、パパがサンタクロースだということ。
だから、パパはクリスマスの日になると、世界中の子どもにプレゼントを配りに行ってしまう。
男の子は毎年、一人ぼっちのクリスマスを過ごしていた。
ある年の秋の終わり。
男の子は一番星に願いをかけた。
「今年のクリスマスは、パパと一緒にいられますように」と。
そして、クリスマスイブの朝が来た。
いつも通り、パパが出かけようとしたその時だった。
玄関の階段から転げ落ち、足の骨を折ってしまったのだ。
プレゼントを配りに行けないので、パパは苦しそうに頭を抱えている。
それを心配して窓からトナカイが見ている。
その光景を見て、男の子は気が付いた。
パパの他に、トナカイのソリを引ける人間がいることに。
男の子はパパに、自分が代わりにプレゼントを配りに行くのはどうかと聞いてみた。
パパは驚いた顔をしていたが、男の子に託すことにした。
男の子に合うサンタ服は無かったので、見た目はブカブカ。
でも、その姿を見たパパは「大切なのは見かけじゃない・・・」と言いかけたので、男の子は「こころだ!」と継いで返した。
パパはまた驚いた顔をした。
外に出ると、トナカイたちが待っていた。
ソリに乗り手綱を引くと、トナカイが大きくジャンプする。
行き先はトナカイが知っている。
物凄い速さに、振り落とされそうになるけれど、手綱をしっかり握り放さなかった。
ようやく街の明かりが見えてきた。
トナカイはさらにスピードを上げて、街へと向かった。
男の子は次々にプレゼントを配った。
トナカイも手伝ってくれた。
でも、とてもとても大変だった。
パパの仕事の大変さを男の子は知った。
そうして、なんとかすべてのプレゼントを配り終えることができた。
ソリに乗り、家へと向かう男の子。
その途中、街はずれに小さな家があるのが見えた。
すると、トナカイたちはその家に向かって走り出したのだ。
けれど、プレゼントは一つも残っていない。
その家も誰も住んでいないように見えた。
しかし、トナカイは「ここ!」と目で合図して動こうとしない。
男の子は煙突を通り、家の中へ入ってみることにした。
中では、1人の女の子が眠っていた。
ベッドのそばには、使い古したバレエシューズ。
ベッドには靴下が吊るしてあり、中にはサンタクロースへの手紙が入っていた。
手紙には、「夢でバレリーナになり、雪の妖精を踊っていたけれど、私は雪を見たことがないから、クリスマスに雪を降らせてほしい」と書いてあった。
でも、男の子の力では、この願いを叶えることはできない。
男の子が悩んでいると、窓の外から鈴の音が・・・。
そして、窓から大きな影が部屋へと入ってきたのだ。
その影の正体は一体誰なのでしょう?
女の子の願いは叶うのでしょうか?
『リトルサンタ』の素敵なところ
- 子どもがサンタになり、プレゼントを配る体験ができる
- 男の子の様々な気持ちがストレートに伝わってくる
- 最後に叶う願い
子どもがサンタになり、プレゼントを配る体験ができる
この絵本のとても素敵なところは、パパに代わり、子どもがサンタクロースの仕事をするところでしょう。
この仕事内容が、とてもシンプルで、サンタクロースと言えばこれという内容ばかり。
ソリに乗り、すごい速さで空を駆け、大急ぎで街から街へ。
煙突から入り、プレゼントを置いては出てきて、次の家へ。
これらのサンタクロース定番の仕事がとても丁寧に描かれます。
そのスピード感の凄さや、一軒一軒煙突を昇り降りして、大量のプレゼントを配る大変さまで。
だからこそ、その仕事にとても真実味が生まれるのです。
まるで、自分もリトルサンタになり、プレゼントを配りに行っているように。
この真実味には、きっとこの絵本の臨場感も大きく影響を与えています。
特に、ソリに乗っている時の臨場感は凄まじく、
「手綱を引くとトナカイたちは走り出し、大きくジャンプすると、空に駆け上がったんだ」と、家がどんどん小さくなっていく場面や、
猛吹雪でまったく前が見えない中「ソリは右に左に大きく揺れた。ぼくは何度もソリから振り下ろされそうになったけど、手綱をしっかり握って、決して放さなかった」という場面など、
本当に手綱を握っているような、手に汗握る臨場感があるのです。
この臨場感は、同時に一晩で世界中の子どもにプレゼントを配るサンタクロースの大変さも物語っていて、リトルサンタを通して、サンタクロースというものをより現実感を持って感じられることでしょう。
このリトルサンタとリンクして、伝統的なサンタの仕事を体験し、その凄さや大変さを実感できるのが、この絵本のとても素敵なところです。
男の子の様々な気持ちがストレートに伝わってくる
そんな、男の子と気持ちがリンクする物語ですが、そこには男の子の気持ちがとてもストレートに伝わってくることも関係しているかもしれません。
この絵本では、男の子は様々な気持ちを抱きます。
クリスマスに一人ぼっちで寂しい気持ち。
星に願ったら、パパがケガをして後悔する気持ち。
プレゼントを配れるのは自分しかいないと、自信はないけれど挑戦する気持ち。
願いが叶えられない無力感。
これらのたくさんの気持ちが、
ケガをした時には「こんなことお願いしたかったんじゃない!」。
モジモジしながら「もしぼくがパパの代わりにプレゼントを配りたいって言ったら配らせてくれる?」。
暗い顔をしながら「ぼくはこの子の願いを叶えられない」。
といった男の子の言葉や表情から、とても強く伝わってくるのです。
そこには、特別な強さなどはまったく感じられず、絵本を見ている子たちと同じような等身大の子どもらしい姿が感じられます。
悲しみ、悩み、ちょっぴり勇気があるような。
きっとだからこそ、安心して自分を重ねられるのでしょう。
この素直な男の子の気持ちが、物語のそこかしこからストレートに伝わってくるのも、この絵本をとても魅力的にしているところです。
最後に叶う願い
さて、こうしてサンタの仕事を頑張ったリトルサンタ。
ですが、その力には限界があります。
さすがに雪を降らせることはできません。
自分自身がそのことを一番よくわかっています。
そんな時に来てくれたのが、男の子の大好きな人物でした。
この人のおかげで、女の子の夢は叶います。
けれど、その夢が叶うのは、その人の力だけではありませんでした。
リトルサンタの力があってこそだったのです。
この願いの叶え方がなんとも素敵で、リトルサンタにはリトルサンタにしかできないこと、その人にはその人にしかできないことを全力で果たしたからこそ、女の子の願いは叶いました。
そして、その子の願いが叶ったことで、もう一人願いが叶った子が・・・。
この願いもまた、自分のできることを全力で全うしたからこそ、叶った願いだというのがこの絵本のなんとも素敵で温かな結末です。
二言まとめ
サンタクロースの仕事を、リトルサンタの姿を通して臨場感たっぷりに体験できる。
サンタクロースの子どもだからこその、悩みや大変さ、やりがいや達成感を味わえるクリスマス絵本です。
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