作:あさのますみ 絵:よしむらめぐ 出版:教育画劇
家から出たことのない黒猫のヨル。
ある日、ネズミから外の夜は楽しいのだと聞かされます。
家の中の静かな夜しか知らないヨルは、家を抜け出してみることに。
あらすじ
黒猫のヨルは、ミリちゃんの家暮らす男の子。
これまで一度も家の外に出たことがありません。
なので、ミリちゃんが、ヨルという名前が「夜空みたいな色だから」と言っても、ヨルの金色に輝く大きな目を「お月様みたい」と言ってもよくわかりませんでした。
そんなある日、子ネズミが壁に開いた穴に挟まっているのを見つけたヨル。
どうにか子ネズミを助け出すと、子ネズミは不思議な顔をしました。
ネコはネズミを食べるものだと思っていたからです。
安心したネズミは、ヨルとたくさんお話をしました。
その中でも、ヨルが興味を持ったのは夜の街の話です。
ヨルが「夜は真っ暗で、静かで、眠るもの」だとネズミに言うと、
ネズミは「夜はまぶしくて、賑やかで、おいしいもの」だと言うのです。
外に出たことがないヨルと、家で暮らしたことがないネズミでは知っている夜が違っていたのでした。
やがてネズミは、ヨルにまぶしくて、賑やかで、おいしい夜を見せてくれると約束すると、帰っていきました。
その日の夜。
ミリちゃんが眠りについたころ、ネズミが窓からやってきました。
ヨルは初めて、窓から部屋を抜け出しました。
最初にやってきたのは、高い高い時計台。
てっぺんまで登り、窓から顔を出すと、目の前には大きな月が輝いていました。
それはまさしくまぶしい夜でした。
次に向かったのは大通り。
レストランがたくさん並び、街の人たちが楽しそうに食事をしています。
そこには賑やかな夜が広がっていました。
そんなごちそうの匂いを嗅いでいると、ヨルはお腹が空いてきました。
目の前にはホットドックのお店があります。
すると、ネズミがどこからか、帽子とお金を持ってきました。
その帽子をかぶり、顔を隠してお店の人へお金を渡すようにと言うのです。
さらに、顔をあげて見つかればひどい目にあうから、絶対に顔をあげないようにとも。
ヨルは言われた通り、恐る恐るお金を渡しました。
お店のお兄さんは、お金を受け取りホットドックを作り始めます。
ヨルは待っているうちに、どうやって作っているのかが気になってきました。
そして、とうとうヨルは顔をあげてしまいます。
そのとたん、帽子が落ちて、ヨルの目とお兄さんの目が合ってしまいました。
ネズミはヨルに逃げろと言いますが、ヨルはその場から動けません。
一体、ヨルとネズミはどうなってしまうのでしょうか?
『ヨルとよる』の素敵なところ
- 人それぞれな夜の顔
- 初めての世界と出会うヨルのかわいい驚き
- もう一つの心地いい夜
人それぞれな夜の顔
この絵本のなによりも素敵なところは、夜へのイメージがひとそれぞれ違うことがわかるところでしょう。
「夜」という言葉だけ聞くと、みんな同じイメージを持っているように感じてしまいます。
ですが、話してみると、まったく違う世界をみているなんてよくあること。
それまで生きてきた世界によって、見方や感じ方はまったく違うのです。
それを見事に表現しているのが、ヨルとネズミの夜への認識の違いです。
ヨルは「真っ暗で、静かで、眠るもの」
ネズミは「まぶしくて、賑やかで、おいしいもの」
まったく正反対なイメージを持っています。
言っていることがまったく違うので、あっけにとられる2人。
でも、そこで終わらないのも素敵なところ。
実際にネズミの言う夜の世界を、見て確かめにいくことになるのです。
そして、その中でネズミが言っていることが本当だと実感します。
この流れはまさに、他者の価値観やものの見方に触れ、自分だけの世界を飛び出し、自分の世界を広げるていく現実の流れにリンクします。
子どもたちも、2つの夜を絵本の中で俯瞰して見ることで、
「夜お出かけする時は、賑やかな夜だよ!」
「今日はお出かけしないから、静かな夜」
など、自分たちも2つの夜を知っていることに気付いていました。
このヨルとネズミの関わりを通して、自分と相手では視点が違うこと、違う視点を認めると、もっと世界は楽しく広がることを自然に感じさせてくれるのが、この絵本のとても素敵なところなのです。
それを、新しい友だちと出会ったことで知ることになったというところも。
初めての世界と出会うヨルのかわいい驚き
こうして、ヨルは家の外へと夜を見に行くことになります。
そこでの、ヨルの驚きや感動のかわいさも、この絵本の大きな魅力の一つです。
通りをキョロキョロそわそわした様子で走るヨル。
美しく大きなお月様を見て、口がぽかんと開き、しっぽがふるふる震えるヨル。
ソーセージを焼く音と匂いに、好奇心を抑えきれないウキウキしているヨル。
そのどれもが、絵のかわいらしさと相まって、ものすごくかわいいのです。
それはまるで、後姿、表情、文章など絵本の中のすべてから、知らない世界に飛び込むワクワクドキドキが伝わってくるようです。
それは子どもたちにも伝わり、ヨルと同じように目をキラキラさせ、
「お月様おっきいね!」
「あー美味しそう~」
中でも、ホットドック屋さんと目が合った時の「あっ!!!」は、ヨルとまったく同じ表情をしていたので笑うのを我慢するのに苦労しました。
こんな風に、最初はヨルをかわいいと言っていた子も、次第にヨルと心が通い合い、ヨルそのものになって街を冒険できるのも、この絵本のとても素敵なところです。
もう一つの心地いい夜
さて、この物語の最後には、もう一つの夜も出てきます。
ネズミに「まぶしくて、賑やかで、おいしい夜」を見せてもらったヨルは、ネズミに「真っ暗で、静かで、眠る夜」を見せてあげようと言うのです。
この結末が本当に素敵。
子どもからすると、ネズミの夜の方が魅力的に見えがちですが、ヨルの夜の大切さや心地よさもしっかりと伝えてくれます。
特に、家で暮らしたことがないネズミが初めて味わう「真っ暗で、静かで、眠る夜」への反応は、なんだか心がじーんとしてしまうことでしょう。
安心して眠れる場所、安心して眠れる時間。
その大切さや心地よさが痛いほどに伝わってきます。
ヨルの夜とネズミの夜。
そのどちらも同じくらい魅力的に描かれて、ヨルにとってもネズミにとっても新しい世界を広げてくれているのが伝わってくるのも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
まったく正反対な2つの夜を、実際に見て体験して、両方の楽しさや心地よさを確かめられる。
同じ言葉でも、自分とは全然違う見方をしていることもあると気付かせてくれる絵本です。
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