【絵本】山おとこのてぶくろ(4歳~)

絵本

文:松谷みよ子 絵:田島征三 出版:ほるぷ出版

昔、恐ろしい山おとこがいた。

山おとこは女子をさらっては同じことを言っていた。

大きな手袋を飲んでおけ、飲まねば殺すと・・・。

あらすじ

あるところに、父さん、母さん、娘3人の家族が暮らしていた。

ある日、父さんが山で木を切っているうちにあくびをすると、どこからか山おとこが現れた。

山おとこは、あくびをしたから娘を一人もらわなければいけないと言う。

言うが早いか、山おとこは一番上の娘であるお月を連れていってしまった。

家に連れ帰ったお月に、山おとこは言った。

出かけている間に、手袋を飲んでおけと。

そして、飲まなければ殺すと。

さらにもう一つ。

鍵のかかった部屋が二つあるが、どちらものぞくな。

のぞいたら殺すと。

そうして、山おとこは出かけて行った。

お月は困った。

その手袋は大きすぎて、とてもじゃないが飲み込めない。

そこで、お月は床の下に手袋を投げ込んだ。

それから、鍵のかかった部屋を開けてみた。

一つ目の部屋には宝の山がしまってあった。

けれど、もう一つの部屋には、人の骨が積んであった。

それを見たお月はそのまま気を失ってしまった。

帰ってきた山おとこは、お月に「部屋をのぞいたな?」と聞いた。

お月は嘘をつき、のぞいていないと返事した。

山おとこは目をぎらりと光らせ、「手袋は飲んだか?」と聞いた。

お月はまた嘘をつき「飲んだ」と答えた。

すると、山おとこは手袋に出て来いと呼びかけ始めた。

その声を聞くと、なんと手袋が自分から床下から出てきたではないか。

嘘がバレたお月は、鍋で煮られてしまった。

さて、父さんと母さんが畑仕事をしていたある日。

またあくびをしてしまった。

すると、山おとこが現れて、また娘をもらわねばならないと言うと、2番目の娘お星を連れていってしまった。

そして、お月とまったく同じことが起こり、お星も鍋で煮られてしまった。

さてまた、父さんと母さんが、縄をないながら、思わずあくびをしてしまった。

するとやはり山男が現れて、末娘のお花を連れていってしまった。

ある日、山おとこはお花にも、手袋を飲んでおくこと、部屋をのぞかないことを言いつけ出かけて行った。

お花はすぐに2つの部屋を開けてみた。

1つ目の部屋には宝。

2つ目の部屋には積み上げた骨が入っていた。

けれど、2つ目の部屋の骨の奥からなにやらうめき声がする。

中へ入ってみると、なんと肩に刀が刺さった若者が倒れているではないか。

お花は、若者の刀を抜き、手当てをした。

そうしてしばらくすると、若者は目を開けた。

お花は若者に、どうやって手袋を飲んだらよいか聞いた。

若者は、切り刻んで粉にして飲めという。

さっそく、お花は切り刻み、石臼で挽いて粉にすると、手袋を飲んでしまった。

ちょうどその時、山おとこが帰ってきた。

山おとこは「手袋を飲んだか?」と聞く。

さあ、本当に手袋を飲んだお花はどうなるのでしょうか?

『山おとこのてぶくろ』の素敵なところ

  • 昔話だからこその理不尽さ
  • 恐ろしい繰り返しだからこそのドキドキ感
  • 心にチクリとなにかが残る終わり

昔話だからこその理不尽さ

この絵本の恐ろしくも魅力的なところは、なんとも理不尽な物語の展開にあるでしょう。

だって、仕事の途中にあくびをしただけで、山おとこが現れて、娘を一人連れていってしまうのですから。

しかも、巨大な手袋を飲めという無理難題を押し付けられ、できなかったら殺されてしまうのです。

こんなに理不尽なことはありません。

ですが、本当は怖いだけのはずなのに、ドキドキしながら楽しめてしまうのはなぜなのでしょう?

それはきっと昔話だからなのだと思います。

もっと言うと、「めでたしめでたし」が待っていると確信しているからなのでしょう。

だからこそ、『さるかに合戦』や『かちかち山』の理不尽にも読み続けられるのです。

そういう意味では、この絵本の理不尽さは、昔話の中でも群を抜いているのではないでしょうか?

出てくる理由、娘たちの末路・・・。

どれをとっても理不尽この上ありません。

子どもたちも、

「怖くなってきちゃった」と後ろに下がったり、

「食べられちゃったよ」と身を寄せ合ったり、

「あくびしちゃだめ!」と身を固くしたり・・・。

ちゃんと怖がっています。

この雰囲気は、昔話の中でも、この絵本ならではのものだと思います。

恐ろしい繰り返しだからこそのドキドキ感

さらに、この怖さは繰り返しでより増幅されます。

あくびをすると山おとこが来る。

山おとこにさらわれたら何を言われ、どうなるかがわかる。

これは繰り返しだからこそ。

1回目と2回目でまったく同じことが起こる物語。

2回目は、子どもたちが危険を事前に察知しますが、それを回避できない歯がゆさと恐ろしさを感じます。

ですが、恐ろしい繰り返しだからこそ、希望の光も察知できるのがおもしろいところ。

全く変化がなかった2回と違い、3回目はこれまでと違います。

すると、子どもたちは「もしかして今度こそは?」とおびえていた子も身を乗り出してくいつきます。

これも繰り返しだからこそのおもしろさ。

怖さで目を離せなかったのが、希望で目が離せなくなるのです。

若者を助け、手袋まで飲んでしまったら、どうなるのか見届けないわけにはいきません。

この怖さと希望のドキドキ感も、この絵本のとてもおもしろく、子どもを夢中にさせてしまうところです。

心にチクリとなにかが残る終わり

さて、そんな物語の結末は勧善懲悪とはまたちょっと違うものでした。

もちろん、完全に悪いのは山おとこです。

ですが、山おとこにも一つの目的があり、それはとても人間味あふれるものだったのです。

そのために、涙すら流します。

でも、全てが遅すぎました。

願いは純粋なものでしたが、手段を間違ってしまったのです。

子どもたちも、最初は「よかった!」と「めでたしめでたし」なムードでしたが、一番最後のお花の一言で、チクリと胸にトゲのようなものが刺さります。

なによりも、この一言を、姉二人を失ったお花が言っているところがとても重い。

最終的には「よかったね!」というムードでなく死者を悼むような静謐な空気感で終わったのがとても印象的でした。

子どもの「ちゃんとそう言えばよかったのにね」という言葉も・・・。

二言まとめ

とてもとても悪くて理不尽な山おとこに、恐れおののきながらも目が離せない。

恐ろしくて憎いはずなのに、なぜか山おとこに憐みと悼む気持ちが生まれてしまう昔話絵本です。

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