作:マーカス・フィスター 訳:谷川俊太郎 出版:講談社
嘘と物語ってなにが違うんだろう?
これは大変な作り話をし続けていたら、
誰にも話を聞いてもらえなくなった魚のお話です。
あらすじ
海の中に、虹色のウロコを持つ魚にじおうが住んでいました。
ある日、昼寝をしていると、かっこいい背びれの魚が現れ、話しかけてきました。
その魚がウンベルトと名乗り、大事な知らせがあると言います。
ウンベルトは、海のどこかに栓があり、それを抜こうとしているやつがいると言うのです。
栓が抜けたら、海が空っぽになって干物になってしまうと。
けれど、ウンベルトならみんなを助けられるから、みんなに知らせるんだとにじうおをせかすのでした。
にじうおはみんなにこのことを伝えました。
他の魚たちは、信じる者、信じない者、様々でした。
魚たちは、きっとからかっているんだという結論になり、翌日ウンベルトに話を聞きに行くとこに決まりました。
翌日、魚たちがウンベルトに、海の栓の話を聞きに行くと、ウンベルトはそのことをすっかり忘れているようでした。
そして、もっと大変なことがあると、岩の反対側から攻めてくる魚がいるという話をし始めたのです。
魚たちは、ウンベルトの話が本当の話なのか訳がわからなくなりました。
その次の日、またウンベルトのところに行くと、今度は大クジラがプランクトンを全部食べてしまうという話をし始めました。
しかし、この話は嘘だとわかりました。
なぜなら、この大クジラは魚たちの友だちで、プランクトンを全部食べてしまうことはないと知っていたからです。
それからというもの、魚たちはウンベルトをほら吹きとして、話を本気にしなくなりました。
一人ぼっちになってしまったウンベルト。
その姿を見て、にじうおと友だちのあかひれは、ウンベルトのことがかわいそうになりました。
2人は、何かしてあげられないかと考えます。
そして、お話を作るのが得意なウンベルトに、ぴったりの考えを思いついたのでした。
『にじいろのさかなとおはなしさん』の素敵なところ
- 嘘か本当かわからない疑心暗鬼
- 楽しい作り話と嫌な作り話
- 個性を活かした素敵な結末
嘘か本当かわからない疑心暗鬼
この絵本のおもしろいところは、嘘か本当かわからないお話が続いていくことでしょう。
海の栓や、魚が攻めてくる話など、嘘か本当かわからない話をされるにじうおたち。
にじうおたちの間でも、信じる者、疑う者、反応は様々です。
そして、これは見ている子どもたちも一緒。
「海の栓が抜けたら大変だ!」
「本当のことかなぁ?」
「嘘言ってるんじゃない?」
などなど、それぞれに反応が違います。
特に絵本ということで、海の栓が抜ける展開もありえると思わせられるのもおもしろいところでしょう。
しっかりと絵でも描かれていることで、信じてしまう子もけっこういます。
話が進むごとに、疑う子は増えますが、でもまだ完全に嘘だとは言い切れない。
そんな疑心暗鬼に襲われるのも、この絵本ならではの感覚です。
これがまるで推理小説のようでおもしろいのです。
楽しい作り話と嫌な作り話
こうして話を聞き続ける魚たちですが、ついにウンベルトの作り話だとバレる時が訪れます。
全部作り話だとわかり、ウンベルトから離れて行く魚たち。
ウンベルトは「ほら吹き」や「おはなしさん」と呼ばれ、バカにされ、相手にされなくなり一人ぼっちになってしまいます。
ですが、そこでにじうおはあることが気になりました。
「自分たちはお話が好きなのに、なぜウンベルトのお話は嫌なのか?」と。
この疑問がこの絵本のとても素敵なところ。
自分たちも、多かれ少なかれ、嘘を言ったり、冗談を言ったり、作り話を作っています。
でも、それが場を盛り上げることもあれば、相手を不快にさせてしまうこともある。
その違いはどこにあるのかを深く考えるきっかけになるのです。
そして、にじうおの出した結論は、その疑問を考える中でとてもいいヒントになるでしょう。
普段、当たり前のように楽しんでいる作り話(もちろん絵本もその中の一つでしょう)と嘘が、紙一重のものであることに、この絵本は自然と気付かせてくれるのです。
そこを深く考えることは、人を楽しませることと、人を傷つけることの本質を考えることに繋がります。
「おはなし」というとても身近なテーマを通して、哲学的な問いを子どもに無理なく考えるきっかけをくれる。
それが、この絵本のとても素敵なところです。
個性を活かした素敵な結末
さて、一人ぼっちになってしまったウンベルト。
その姿を見て、かわいそうになったにじうおとあかひれは、何かできないかと考えます。
そして、おはなしを作るのが得意なウンベルトに、ぴったりの作戦を考えついたのです。
これがなんとも素敵で平和なものでした。
楽しいお話と嫌なお話、その線引きがこの結末の大切なキーワード。
それをウンベルトに伝えた上で、にじうおはある素敵な場を用意します。
これにより、ウンベルトは自分のなにがいけなかったのかを振り返り、どうしたらその個性を活かせるのかを考えます。
その上で、自分もみんなも楽しい結末へと繋がっていくのです。
このウンベルトの姿は、個性は活かし方次第だということを伝えてくれます。
ウンベルトのお話を作る才能は、嘘つきにもお話名人にもなれる才能です。
それをどう使うかは、ウンベルト次第。
でも、それはとても気付きにくいものなのでしょう。
だから、このお話ではにじうおがそれに気づき、手助けしてくれました。
この絵本を見ていると、1人の個性を活かすには、個性を持っている側だけでなく、その周囲にいる人もとても大切なことを感じさせられます。
そして、みんなで個性を活かすことで、お互いに幸せになれることも。
最後の場面を見た子が、
「ウンベルトは絵本も作れそうだよね」
「絵本できたら見てみたいなぁ」
と言っていたのが、とても印象的でした。
二言まとめ
ウンベルトの作り話を通して、「本当の話なのか?」と魚たちと一緒に疑心暗鬼を楽しめる。
楽しい作り話と嫌な作り話の違いを考えるきっかけになる、哲学的な絵本です。
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