【絵本】へそもち(3歳~)

絵本

作:渡辺茂男 絵:赤羽末吉 出版:福音館書店

避雷針の由来を知っていますか?

それは昔々、地上に降りてへそをとる雷様への、

人間たちの工夫から始まったものだったのです。

あらすじ

昔、空に浮かぶ黒い雲にかみなりが住んでいました。

かみなりの仕事は雨を降らすことです。

けれど、雨を降らすだけでなく、時々高い木や家に飛び降りるから困ったもの。

この日も、牛小屋の屋根に飛び降りると、ウシのへそをとっていってしまったのでした。

さらに次の日は桶屋の屋根に飛び降り、桶をたくさん壊した挙句、桶屋のへそを取り、

また次の日は、瀬戸物屋さんに飛び降りて、瀬戸物を割り、瀬戸物屋さんのへそをとっていってしまったのです。

さて、その次の日、かみなりの乗った黒い雲がやってきたのは、お寺の上でした。

今日はここに落ちてくると思ったおしょうさんは考えます。

そして、一本の槍を、お寺で一番高い五重塔のてっぺんへ刺したのでした。

しばらくして、かみなりはお寺の上へ飛び降りました。

けれど、トラの毛皮のパンツが、槍に引っかかってしまい動けません。

かみなりは必死に助けを求めました。

けれど、村の人はかんかんで、殺してしまと訴えます。

そこでおしょうさんは、なぜ悪さをするのかと聞きました。

すると、かみなりは悪さはもうしないけれど、おへそを食べないと雨を降らすことができないと言うのでした。

雨が降らないのでは困ります。

おしょうさんは考えました。

そして、いい考えを思いついたのです。

かみなりの運命や一体・・・?

『へそもち』の素敵なところ

  • 悪くて間抜けでどこか憎めないかみなり
  • 見ても聞いても楽しい絵本の作り
  • 現代と繋がるへそもちと避雷針

悪くて間抜けでどこか憎めないかみなり

この絵本のおもしろいところは、なんといってもかみなりの存在でしょう。

このかみなりのなんとも悪いこと。

村に降りて来ては、へそをとっていくのです。

しかも、降りる時に桶や瀬戸物を粉々に破壊していくのです。

これには子どもたちも、

「ひどい!」

「かみなり悪すぎるよ!」

と、憤りの声。

さらに、かみなりにへそをとられたものは、力が入らなくなり仕事もできなくなってしまうオマケつき。

なんともやっかいこの上ありません。

ですが、このかみなり。

どこか間抜けで憎めないのもおもしろいところです。

おしょうさんが仕掛けた槍へ見事に降りてきて、パンツが挟まり動けなくなる姿の情けなさは格別。

これまでの力強さが嘘のように、手足をバタバタさせて子どもみたい。

その上「たすけてくれぇ!」と人間に助けを求めてくるのです。

村の人の怒りはもっともですが、どこか愛嬌があり憎めないかみなり。

ちょっとかわいそうになってくるから不思議です。

この悪さと情けなさのギャップが、この絵本のとても楽しいところです。

また、本物のかみなりの特性を備えているのもおもしろいポイント。

落ちるところは高い木や、屋根の上など本物のかみなりと一緒。

だからこそ、五重塔に槍を仕掛けたのも、そこにピンポイントで落ちたのもうなずけます。

子どもたちも、

「かみなりは高いところに落ちるからね。」

とおしょうさんの行動に、妙に納得感があるようでした。

見ても聞いても楽しい絵本の作り

こんな風に、空と地上を行き来する物語であるこの絵本。

だからこその工夫が、この絵本にはされています。

その一番大きなものが、最初から最後まで縦開きで読む作りになっていること。

これにより、画面が縦に長くなり、空の上にいるかみなりの高さや、降りてくる時の落下の躍動感などが十二分に味わえます。

空の高さを表現するのに、こんなにも適した作りはないことでしょう。

上から下に目線を落とす動きはまさに落下。

子どもたちも目を離せないようでした。

けれど、子どもたちを惹きつけるのはそれだけではありません。

この絵本には随所に子どもたちが思わず笑ってしまう、驚いてしまう仕掛けが散りばめられているのです。

まず、かみなりが落ちる時の決まり文句「ぴか ぴかぴか どろどろ どどん」。

これはまさにかみなりが落ちる時の描写そのもの。

思わず「きゃー!」と叫びたくなってしまいます。

そして、落ちた時に壊すものの数。

桶屋の桶は「四百五十六」も壊してしまい、瀬戸屋のお茶碗は「二千五百三」壊してしまいます。

このたくさんの数字と端数が子どもにはたまりません。

直感的な「たくさん」感が単純に楽しいのです。

さらに、へそをとられた者の力の入らなさ。

牛は「もうもう」と鳴けず「ほうほう」と鳴くようになり、桶屋さんは「うん」と力を入れようとすると「すん」と抜けてしまいます。

この力の抜けた感じに、子どもは笑ってしまいます。

言葉遊びのようなおもしろさも、この絵本には詰め込まれているのです。

縦開きの絵本の作りから始まり、文章の中に散りばめられた、子どもへ引っかかる言葉の数々など、物語をより楽しくする作りがたくさん考えられているのも、この絵本のとても素敵なところです。

現代と繋がるへそもちと避雷針

さて、そんな楽しい昔話ですが、実は現代と繋がっている点がいくつかあります。

それがへそもちと避雷針です。

へそもちは由来と言うより、とんちのようなものかもしれません。

きっと、へそもちを食べた時に、このお話を思い出すことでしょう。

もう一つの避雷針は、まさにこのお話が由来になっているように感じます。

昔の人がかみなりを避けるために、屋根の上に槍を刺す。

これはとても理にかなったものであり、現代の避雷針と同じ考え方です。

なにより、子どもたちが避雷針の存在に自然に気付くのがおもしろいところ。

この絵本を見てから、子どもたちが、

「あ!あの家槍が立ってるよ!」

と避雷針に気付くようになりました。

きっと子どもたちには、避雷針が昔の槍に見え、もしかしたらそこにパンツが引っ掛かったかみなりの姿も見えているのかもしれません。

この、昔話を通して、現代の生活に繋がるところ。

同時に、その生活の知恵に気付き、身近に感じるようになるところ。

それが、この絵本のとても素敵なところだと思います。

二言まとめ

ものすごく悪いけれど、どこか憎めないかみなりの、躍動感と力強さと間抜けさがたまらなくおもしろい。

読めば、現代の家に立つ槍が見えるようになり、昔と今の生活が見事にリンクする昔話絵本です。

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