作:ブリッタ・テッケントラップ 訳:風木一人 出版:BL出版
町を囲う高い壁。
その向こうに何があるかを誰も知らないし、知ろうともしません。
1匹のネズミをのぞいては。
あらすじ
動物たちの町を取り囲むように、大きな赤い壁がありました。
どこまで続いているのか?
誰が、いつ、どうやって作ったのか?
それを知っているものはいませんでしたし、みんな気にもしていませんでした。
でも、知りたがりの小さなネズミは違いました。
壁の向こうに何があるのか気になって、調べてみることにしたのです。
まずは、怖がりのネコに、なんで壁があるのか聞きました。
すると、外にある怖いものから守ってくれているのだと言って、そそくさと行ってしまいました。
次に、クマのおじいさんに、壁は何のために作られたのか聞きました。
クマのおじいさんが思い出せないし、あるのが当たり前になってしまったのだと言いました。
ネズミが不思議に思ったことはないのかと聞くと、不思議がるには年を取り過ぎたと言って、のっそり行ってしまいました。
こうして、お調子者のキツネ、くたびれたライオンにも聞きましたが、誰も壁の外になにがあるのか知らないし、気にもしていないようでした。
そんなある日、壁の上から空色の鳥が飛んできました。
ネズミは思わず叫びました。
空色の鳥がどこから飛んできたのかと。
鳥は壁の向こうの世界からだと答えます。
それを聞いた動物たちは「嘘だ!」と思いました。
でも、ネズミだけは違います。
鳥に壁の向こうへ連れていくように頼んだのです。
こうして、鳥の背に乗って、ネズミはついに壁を飛び越えることができました。
そこには草花や生き物たちが溢れる、色鮮やかな世界が広がっていました。
鳥はネズミに言いました。
怖いと思うから怖いものが見える。本当のものを見る勇気があれば、壁が消え、その後には素晴らしい世界があるはずだと。
ネズミはみんなにもこのことを教えたいと思い、町へと引き換えしました。
すると、町では不思議なことが起こっていたのでした。
『かべのむこうになにがある?』の素敵なところ
- 気になる壁の向こう側
- 壁の向こうにある美しい世界
- 深いけどわかりやすい壁の正体
気になる壁の向こう側
この絵本のまず夢中になってしまうところは、壁と壁の向こう側の謎でしょう。
誰が、いつ、どうやって、なんのために作ったのかわからない謎の壁。
その向こう側を見たものはいません。
こんなことを言われたら、気にならない子どもなんていないでしょう。
「オバケの世界なんじゃない?」
「すぐ崖になってるのかも」
「動物たちを閉じ込めてるのかな?」
など、様々な想像が広がります。
そこからの動物たちへの聞き込みは、さながら謎解き小説のよう。
それぞれの意見を聞いていくことで、さらに想像が膨らんでいきます。
この壁の向こう側を見るまでの過程がまずおもしろく、子どもたちを強く惹きつけます。
そして、この序盤での流れが、壁の向こう側への興味をより高め、壁の向こう側を見た時の感動をより大きなものにしてくれているのです。
こうして、色々な動物に話を聞きましたが、結局誰も壁のことや、その向こう側を知るものはありませんでした。
壁の向こうにある美しい世界
そんなある日、壁の向こうから一羽の鳥が飛んでくることで、物語は大きく動き出します。
鳥に乗せてもらうことで、ネズミが壁を越えるのです。
そこから見える世界は、壁の内側からは想像もできない色に溢れた世界でした。
どこまでも続き、壁なんてありません。
見たこともない動植物がたくさんいて、ものすごく賑やか。
灰色をベースに描かれる町の中との、コントラストがさらに外の世界を色鮮やかにしています。
子どもたちも、外の世界を見たとたん、
「わ~!きれい!」
「ヘビもいる!リスもいる!」
「あそこ、お花が咲いてるよ!」
と、まさにネズミの視点から見た感動の反応をしていました。
きっとネズミと一緒に、壁のことを調べていたからでしょう。
この解放感をネズミと共有していたのだと思います。
壁の中から外の世界に出た時の、驚く程の美しさと解放感も、この絵本のとても素敵で見とれてしまうところです。
深いけどわかりやすい壁の正体
さて、こうして壁を飛び越えることができたネズミに、鳥が壁の正体を教えてくれます。
その内容が、とても深いのに、驚く程わかりやすいのも、この絵本の素敵なところなのです。
この壁の正体は、なんと心に自分で作った壁でした。
慣れ親しんだ環境から出る怖さが、自分の町を壁として覆ってしまっていたのです。
だから、それを飛び越え、美しい世界を見たネズミにはもう壁はありません。
どこまでも新しい世界を旅できるのです。
また、さらにこの物語の素敵なところが、この鳥の話は人生の中の色々な場面で関わってくるとても深いものだということです。
人は新しいことを始める時、新しい人に出会った時、心に壁を作りがちです。
必要以上に怖がることも多いでしょう。
すると、この町の住人のようになってしまいます。
この町の住人の話も、この壁が心の壁だとわかってから聞くと、
「もう年だから」と新しいことに興味を持たないクマのおじいさん。
「外の世界は怖い」と決めつけて逃げるネコ。
など思う所がたくさんあります。
もちろん、大人が読んで深いだけでなく、これが子どもにもわかりやすく描かれているのが、この絵本のすごいところ。
子どもたちにもそれぞれ、
「小学校に行くのが不安」
「やったことないから、できなさそう」
「失敗したら恥ずかしいからやらない」
など、心の壁を作ってしまうことはあるでしょう。
それらの壁が、絵本の中の壁とリンクするのです。
そして、リンクすると鳥の言葉がとても心に響くのです。
「本当のものを見る勇気があれば、壁は消える。全部消えた後にはきっと素晴らしい世界があるはずだよ」と。
普段は漠然としている素晴らしい世界も、この絵本の中では目の前に色鮮やかに広がっています。
この素晴らしい世界は、きっと心に壁を作っている子どもたちに、勇気を与え、きっと背中を優しく押してくれることでしょう。
二言まとめ
高い壁に囲まれた町で、その壁の正体や向う側がどうなっているのかとても気になる。
気になった分、壁を越えた時の解放感と美しさが素晴らしい、自分も壁を越える勇気をもらえる絵本です。
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