再話:愛甲恵子 絵:ナルゲス・モハンマディ 出版:福音館書店
豆から生まれたとても小さな女の子ノホディ。
ある日、大きな怪物にさらわれてしまいます。
そんな怪物へ知恵と勇気で立ち向かう、イランの昔話です。
あらすじ
昔あるところに、仲の良い夫婦が暮らしていました。
2人は幸せでしたが、子どもができませんでした。
豆粒くらい小さくてもいいから子どもが欲しいと思っていたある日。
おかみさんがノホド豆(ひよこ豆)でスープを作っていると、豆が一粒、床へ落ち、そのとたん女の子の姿になりました。
けれど、おかみさんは気付いていませんでした。
ちょうどそこへ、近所の奥さんたちがやってきて、娘たちを落穂ひろいに行かせるから、おかみさんにも娘を出してくれと言ってきました。
おかみさんは、子どもがいない自分をからかっていると思い怒って言い返したその時、後ろから「お母さん!」という声が。
驚いて振り向くと、そこには小さな女の子が立っていました。
おかみさんは大喜びで、ノホド豆のように小さいからノホディと名付けたのでした。
そして、ノホディは他の家の娘たちと、落穂ひろいに出かけていきました。
ノホディたちは、たくさんの落穂を拾いました。
落穂を拾い終えると、娘たちは帰り支度を始めます。
けれど、ノホディがまだ遊びたいと言うので、娘たちはもう少しだけ付き合ってくれることになりました。
しかし、遊んでいると、すぐに辺りは真っ暗に・・・。
急いで帰り支度をして歩き出した娘たちでしたが、少し行った森の中で怪物に出くわしてしまいました。
怪物はノホディたちを連れ帰り、ゆっくりと食べてやろうと思いました。
そこで、ノホディたちを心配するふりをすると、言葉巧みに、ノホディたちを怪物の家へ連れて帰ってきたのです。
ノホディたちをベッドに寝かせると、しばらくして怪物は眠っているか確かめるために声をかけました。
すると、ノホディが返事をします。
なぜ寝ないのか聞くと、うちでは毎晩お母さんが、甘いお菓子と目玉焼きを作ってくれて、それを食べないと眠れないのだと言います。
仕方なく、怪物はお菓子と目玉焼きを作りました。
出来上がるとノホディは娘たちを呼んで、一緒に食べた後、ベッドへと戻りました。
しばらくすると、また怪物が声をかけてきました。
またノホディが答えます。
なぜ寝ないのかと聞かれると、うちでは毎晩ご飯の後水を飲むからと言います。
しかも、そのミズハ水晶山の向うの、光の海からザルで汲んだ水だと言うのです。
仕方なく怪物は、ザルを持って出かけていきました。
ノホディは急いで娘たちを起こし、怪物の家から逃がします。
けれど、ノホディだけは、ベッドの上にあった金のスプーンを持って帰るため、もう一度怪物の家の中へ入っていくのでした。
ところが、ノホディが怪物の家に戻ると、すでに怪物は帰ってきていました。
ノホディが娘たちを逃がしたと気付くと、怪物はノホディを捕まえ、袋の中に入れてしまったのです。
そして、叩くための棒を取りに部屋を出ていったのでした。
絶体絶命のノホディ。
このまま食べられてしまうのでしょうか・・・?
『ノホディとかいぶつ』の素敵なところ
- かわいくてたくましいノホディ
- ノホディと怪物のどこか気の抜けるやり取り
- どんなピンチでも諦めないノホディの勇気と知恵
かわいくてたくましいノホディ
この絵本の大きな魅力は、ノホディにあるでしょう。
ノホド豆から生まれた、豆粒ほどの大きさの女の子。
この時点でかわいらしさがあるのですが、それだけではありません。
その小さな体の中に、たくさんの知恵と勇気とたくましさを持ち合わせているのです。
親指姫がまさにお姫様といったかわいらしさだとしたら、ノホディはお転婆な町娘。
自分の力で道を切り開いていく、頼もしさが感じられます。
でも、「まだ遊びたい」と娘たちにわがままを言う妹的なかわいさもあり、とても魅力的な人物になっているのです。
きっと、これにはお人形のような絵のかわいさも影響しているのでしょう。
表情や仕草が、まるで小さなお人形のようで、とてもかわいらしいのです。
だからこそ、堂々と怪物に立ち向かい、はきはきとしゃべる姿に大きなギャップと頼もしさを感じるのだと思います。
ノホディと怪物のどこか気の抜けるやり取り
そんなノホディの一番の見せ場、この絵本の見どころが怪物との対峙です。
ここでノホディは言葉巧みに、ご飯を作らせたり、家から追い出したりしていきます。
とても緊張感のある場面・・・のはずですが、ここに妙な脱力感があるのが、この絵本のおもしろいところです。
怪物とのやり取りは、起きているかの確認から始まります。
怪物が「寝てるの誰だ?起きてるの誰だ?」と声をかけると、
ノホディが「寝てるのみんな。起きてるのあたし。」と返事をします。
普通ならここで怪物が怒って「早く寝ろ」と言いそうなものですが、この怪物は「どうして寝ないんだ?」と理由を聞いてくれます。
さらには、ノホディの言ったことを素直に聞いて、お菓子と目玉焼きを作ったり、水を汲みに行ってくれるのです。
これには子どもたちも、
「本当に作ってくれるんだ・・・」
「怪物優しいね。」
「ザルじゃ水すくえないでしょ!」
と、驚きや笑いやツッコミまで。
さらわれた時には、緊張していた子どもたちも、段々と笑顔になって、やり取りを楽しむようになってきます。
この、怪物とのやり取りとは思えないほどの脱力感は、この絵本ならではの魅力でしょう。
一生懸命に料理をする絵とも相まって、なんだか怪物がかわいく見えてくる感覚は、ぜひとも味わってほしいところです。
どんなピンチでも諦めないノホディの勇気と知恵
さて、そんな脱力感あるやり取りも、ずっとは続きません。
騙されたことと、娘たちが逃げたことがわかると、怪物は怒り狂います。
少しかわいいかもと思った怪物はどこへやら。
一気に緊迫感が高まり、子どもたちも息を呑みます。
袋に入れられ、絶体絶命のノホディ。
けれど、ここで諦めないのがノホディとこの絵本の魅力です。
もちろん、袋に入れられたまま叩かれるのを待っている訳もなく、突破口を見つけます。
ところが、一難去ってまた一難。
立て続けにピンチがやってくるのです。
けれど、そのどれもを機転と知恵で切り抜けていくノホディ。
この中盤までとは打って変わった緊迫感や本当のピンチと、それを切り抜けていくおもしろさがたまらなくおもしろいところです。
こうして最後はついに・・・。
この緊迫感が高まれば高まるほど、際立っていくノホディの知恵と勇気も、この絵本のとても魅力的なところです。
二言まとめ
ノホディが言葉巧みに、怪物を手玉に取っていくやり取りが、痛快でおもしろい。
どんなピンチにも決して諦めないノホディの知恵と勇気が魅力的なイランの昔話絵本です。
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