作:マイク・スミス 訳:ふしみみさを 出版:ポプラ社
ある日、見たことのない道へ進んみることにした路線バス。
すると、目的地のないバスに、乗客がどんどん増える。。
満員になるたび増築されていくバスの、終着点は?
あらすじ
それはある火曜日の朝のこと。
いつも同じ時間に紅茶を飲み、準備をし、同じバスを運転する2階建て路線バスの運転手。
毎日同じお客さん、同じ道・・・、運転手は同じ毎日に飽き飽きしていました。
ですが、この日はいつもと違いました。
今まで見たことのない細い道が目に飛び込んできたのです。
運転手はバスのコースを外れ、細い道に入っていきました。
とてもワクワクします。
そのうち乗客の一人が、「どこに行くんすか!?」といつもの道じゃないことに気付きます。
運転手はウキウキと答えました。
「好きなところへどこまでも行けますよ!」と。
バスは初めての場所へどんどん進んでいきます。
間もなくバスは、ドキドキワクワクした人でいっぱいになりました。
けれど、次の朝、バスは海に突き当たってしましました。
これではもう進めません。
運転手ががっかりしていたその時、乗客の一人がフェリーに乗りましょうと提案してきました。
バスはさっそくフェリーに乗り、海を渡っていきます。
海の上で、フェリーの船員たちもバスに乗りたいと言ってきましたが、もうバスは満員です。
それを聞いた船員たちは、何かを作り始めたのでした。
そして次の朝、フェリーが向こう岸に着いた時、2階建てバスの上に、船員たちが作った3階が増築され、3階建てのバスになっていたのです。
バスの噂はどんどん広がり、乗客が殺到しました。
人が増えるたび、バスはどんどん増築され、階数が増えていきます。
2か月後には30階にプールが作られ、6か月後には超高層ビルよりも高くなり・・・。
そして、出発からちょうど1年経った時、バスは100階建てになったのです。
乗客たちはパーティーを開き、盛大にお祝いしました。
ところが次の日、バスはおかしな音を立て始め、ボンネットから煙が上がり、ついにはエンジンが吹き飛んでしまいました。
これはもうどこへも行けません。
肩を落とす運転手。
ですが、その時1人の乗客が声を上げました。
「なにか音がする!」と。
一体それは何の音なのでしょうか?
このバスは、さらに旅を続けることはできるのでしょうか?
『のせてのせて100階建てのバス』の素敵なところ
- 人々の思いでどんどん増築されていくバスのおもしろさ
- 好きなところへ行ける自由のワクワク感
- 高く高く高くを見上げる仕掛け
人々の思いでどんどん増築されていくバスのおもしろさ
この絵本のなによりおもしろいところは、どんどんバスが高くなっていくことでしょう。
人が増えるたびに、階層が増えていくバス。
ですが、最初は普通の2階建て路線バスでした。
そこに乗りたいけれど満員で乗れなかった人たちが考えた、どうにか乗るためのアイディアがバスを増築することだったのです。
そこにはなんとなく大きくなっていったわけではない、人々の思いを感じます。
手間暇かけて、一階ずつ時間をかけて作られていく100階建てのバス。
2か月、6か月・・・と少しずつ大きくなり、ついに1周年で100階に到達するのです。
その時の感動は、「100階建てのバスすごい!」ではなく、「ついに100階まで出来たんだ!」という、成長を見届ける気持ち。
それはまさしく、乗客たちの気持ちでもあるのでしょう。
きっと、だからこそ、100階到達のパーティーの時には、子どもたちも一緒に喜び、バスが故障してしまった時は、運転手と同じように肩を落としていたのだと思います。
100階建てのバスを見るおもしろさだけじゃなく、その成長をまるで乗客になったような気持ちで感じることができるところが、この絵本のとても素敵なところです。
好きなところへ行ける自由のワクワク感
こんな風に、成長していったバスですが、なぜこんなにも人が集まってきたのでしょう?
そこも、この絵本の忘れてはいけない素敵なところです。
このバスに人が集まってきた理由。
それはこのバスがとても自由でワクワクするものだったから。
このたびの始まりは、決まりきった毎日に嫌気がさした運転手が、見たことのない道へ進むことから始まりました。
お客さんもいつも同じ時間に乗ってきて、同じ場所まで行く人たちばかり。
最初は焦る乗客ですが、徐々に運転手のウキウキ感が伝染し、新しい世界に魅せられ、旅を楽しむようになってきます。
ついにはベビーカーを押した女の人が、フェリーに乗って向う岸へ行こうと言い出すのだから、もうワクワクが止まりません。
こうして、新しい地に行った時、必ず新しいお客さんに聞かれることがあります。
「このバスはどこまで行くの?」。
それに対して、このバスには合言葉があります。
それが、「好きなところへどこまでも!」。
この言葉にはまさに自由が詰まっています。
子どもたちも、すっかりこの言葉が気に入り、
物語の終盤では、一緒に「好きなところへどこまでも!」と声を合わせて、バスと一緒に走っていました。
それだけ、自由というものへは抗えない魅力があるのでしょう。
この自由への憧れを、100階建てのバスという形で叶えてくれるところも、この絵本のとても素敵なところです。
高く高く高くを見上げる仕掛け
さて、そんな100階建てのバスですが、物語の中で1階ずつ見ていくような形にはなっていません。
10階くらいまでは順を追って大きくなりますが、そこからは2か月で30階、6か月で超高層ビルよりも高く・・・。
というように、段階的に描写されます。
なので、物語の中盤まで、100階の全体図を見ることはないのです。
子どもたちからも、「この下はどんな風になってるんだろう?」という疑問の声。
ですが、そんな心配を吹き飛ばす、大きな仕掛けがこの絵本には用意されていたのです。
それが、空を見上げる場面で、地上から100階までを見上げていくように、ページを上に開いていく仕掛けです。
開いても開いても、上がある仕掛け。
そこには1階ずつすべての階が細かく描かれ、そこに暮らす人々の様子もわかります。
その仕掛けとともに、普通のページでは入りきらない、バスの全体像を見ることができるのです。
この高さが、まさに圧巻。
「100階ってすごい高い!」と実感させてくれることでしょう。
この、予想よりはるかに高い高い高い仕掛けも、このバスがどれだけ大きく、どれだけ多くの人を乗せているかが直感的にわかる、とてもおもしろくて、素敵なところです。
最初は、物語を追うためにあまりじっくり見ていられないかもしれませんが、繰り返し読んでいくと色々な階に様々な発見があることでしょう。
改めて、じっくりと見て色々な発見を楽しむのも、この絵本の素敵な楽しみ方の一つです。
二言まとめ
100階建ての大きさが直感的にわかるほど、高い高い高い仕掛けがおもしろい。
バスの大きさに驚くだけじゃなく、それを作った人々の自由へ憧れる思いまで伝わってくる乗り物絵本です。
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