文:乾栄里子 絵:西村敏雄 出版:ブロンズ出版
ある街に一人ぼっちのフクロウがいました。
友だちはお月様だけ。
これは、そのフクロウがお月様に届けたリンゴを巡る内緒の優しいお話です。
あらすじ
ある街の塔のてっぺんに、一羽のフクロウが住んでいました。
名前はダルトリー。
ダルトリーは、夜の街を飛び回り、人々を見ていますが、人々はダルトリーに気が付きません。
ダルトリーの話を聞いてくれるのは、空に浮かぶお月様だけでした。
けれど、そのお月様も時間が経つと、青白くなり痩せていってしまいます。
そんな時、ダルトリーは塔のてっぺんにいつもリンゴを置いておきました。
すると、次の日にはリンゴがなくなっていて、そのうちお月様は太り始めるのです。
なので、ダルトリーはお月様がリンゴを食べていると思っていました。
ある晩、ダルトリーが塔に置いたリンゴは、転がり落ちて、小さな煙突から家の中へ入ってしまいました。
そこは一人暮らしのおばあさんの家でした。
おばあさんはそのリンゴを見ると、思い立ってアップルパイを焼きお客さんを招きました。
ずっと訪ねてくる人もいなかったので、久しぶりのお客さんでした。
また、ある晩のリンゴはくたびれたロバの足元に転がり落ちました。
ロバは働いたご褒美かと、リンゴを食べると少し元気になりました。
川に落ちたリンゴもあり、そのリンゴは溺れかけていたネズミの子どもを助けました。
さて、そんな日が続いたある日、雨が何日も続いた時のことです。
お月様がとてもやせ細っていたので、ダルトリーは急いでリンゴを塔のてっぺんに運びました。
この日の風はとてもとても強く、置いたリンゴは風に飛ばされ、古いマンションの窓へと入っていきました。
そこは忙しい音楽家の部屋でした。
そのリンゴの匂いをかいだ音楽家は、故郷のリンゴの木のことをふと思い出したのでした。
これまで色々な人に幸せを運んできたダルトリーのリンゴ。
音楽家のもとに届いたリンゴは、一体どんな結末へと人々とダルトリーを導くのでしょうか?
『ふくろうのダルトリー』の素敵なところ
- 誰も本当のことを知らない内緒で幸せな物語
- 奇跡的だけれど現実的なおもしろさ
- リンゴから巡り巡って返ってくる素敵な結末
誰も本当のことを知らない内緒で幸せな物語
この絵本のなによりおもしろいところは、この幸せな物語の真相を誰も知らないところでしょう。
ダルトリーはリンゴをお月様が食べていると思っているし、
リンゴが転がってきた人々は、ダルトリーのことを知りません。
誰もそのことに気付かないまま、ダルトリーのリンゴが人々に幸せを運んでいるのです。
この構図がとても素敵でおもしろい。
知っているのは絵本を見ている子どもたちだけ。
なので、途中ではお月様のために一生懸命なダルトリーが少しかわいそうに思うことも。
でも、その分、幸せな結末を迎えた時の幸福感はひとしおです。
この、すれ違っているような噛み合っているような・・・。
けれど、みんな幸せになっていくという、温かな不思議さがこの絵本のとても素敵なところです。
奇跡的だけれど現実的なおもしろさ
また、物語の中の偶然の繋がりは奇跡的だけれど、ファンタジーではないのも、この絵本ならではの魅力です。
ダルトリーが話しかけるお月様は、おしゃべりするわけではありません。
「うんうん」と話を聞いている様なだけです。
もちろん、リンゴも食べず、現実のお月様と同じように満ち欠けをします。
転がっていくリンゴも、特別な力を持つわけではく、人々になにかのきっかけを与えるだけ。
幸せなことは起こりますが、出来事としてはただリンゴが転がり込んできただけなのです。
だけど、不思議な力が働いていないからこそ、奇跡的な偶然がより魅力的なものに見えてきます。
だって、自分たちの住む街で起こってもおかしくないと思えるのですから。
なんなら、自分にとっての「ダルトリーのリンゴ」をもう知っているかもしれません。
「この前、テーブルの上にリンゴが置いてあった!」
「道にミカンが落ちてた!」
色々なことがダルトリーの仕業に思えてきます。
このファンタジーな力が働かないからこその、身の回りで起こりそうな、自分の街にもダルトリーがいるような予感も、この絵本のとても素敵なところです。
リンゴから巡り巡って返ってくる素敵な結末
さて、リンゴを通して、気付かぬうちにみんなを幸せにしているダルトリー。
ですが、自分自身は一人ぼっちのままです。
そんなダルトリーに訪れる、幸せな結末もこの絵本のとても素敵なところです。
そのきっかけはやっぱりリンゴ。
でも、そのリンゴをきっかけに、様々なことが起こり、偶然が重なりこの結末を迎えます。
このすべてが絡み合っていく構図が本当におもしろい。
初めて見る時には、全てのリンゴが結末に繋がっていくなんて思いもしないことでしょう。
最後の結末を迎えた時、「全部繋がってる!」と感動が待っているのです。
ダルトリーの優しさから置かれたリンゴが、偶然の結果、街のみんなに優しさを配り、それが巡り巡って一番最後にダルトリーに返ってくる。
この驚きと安心感のある優しい結末も、この絵本のとてもとても素敵なところです。
二言まとめ
ダルトリーのリンゴが、知らず知らずのうちにみんなを幸せにしていく、奇跡的な偶然の重なりがおもしろい。
優しさがダルトリーに返ってくることで、幸福感と安心感を味わえる優しい内緒の物語です。
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