作:軽部武宏 出版:長崎出版
男の子が落とし物を探しに行く。
でも、夜の町にはそこかしこに不気味な影。
さて、男の子が探しているものとは・・・?
あらすじ
黄色いカッパを着た男の子が、夕暮れの町に出かけていく。
公園には帰らずに遊ぶ子どもたち。
よく見ると、顔が三つに、透明な子どももいる。
橋を渡る途中に見たヤナギには女の顔。
池の水面を揺らす主の影。
電柱の上には大男が座っていて、屋台を押すのは大きな黒猫。
たそがれの町を歩いているうちに、夜のしじまが降りてきた。
それはまるで、大きく羽を広げたコウモリのよう。
貨物列車の車庫を越え、墓地の前を通り過ぎ、町工場に、お稲荷さんを通り過ぎると・・・。
『こっそりどこかに』の素敵なところ
- 町に潜む不気味な影にゾッとする
- 男の子が探しているもの
- 男の子の正体をよくよく考えてみると・・・
町に潜む不気味な影にゾッとする
この絵本のなによりおもしろいところは、男の子が歩く町の不気味さでしょう。
暗い色合いの中、夕焼けだけが鮮やかな町。
その町には、様々な異形たちの姿があります。
ただ、この絵本が普通のホラーと違うのは、それらが襲ってきたり、怖がらせてきたりするわけではないところ。
ただただ、町の中で生活しているだけなのです。
当たり前のように町にいる。
だからこそ不気味さが際立ち、背筋に冷たい汗が流れるのでしょう。
さらには、その異形たちが日常的に目にするものからできているのも、不気味さを増幅させていると思います。
柳の枝葉がを髪にした女の顔や、池の揺らぎと陰影でできた主の姿、電柱に取り付けられたボックスが暗くなると誰か座っているように見える・・・。
などなど、影が偶然人の姿のように見えた時の恐ろしさのような、身近に潜む不気味さを嫌と言うほど体験させられます。
もしかしたら、この絵本を見たことで、これまで見えなかった町の不気味さが見えるようになってしまうかも・・・。
この、身近に当たり前にある不気味さを具現化した怖さが、この絵本ならではの怖くて素敵なところです。
男の子が探しているもの
ですが、こんな不気味な町を歩いているのに、男の子はまったく気にした様子がありません。
なにかを探すこととに大急ぎで、道に迷わないようにするのに必死です。
では、こんなに必死になにを探しているのでしょうか?
これを予想するのも、この絵本のおもしろいところです。
実は一番最初にヒントはあって、それを目ざとく見つけた子は、「これかな?」と予想がつきます。
けれど、もしそれだとしたら、この絵本の雰囲気にまったく似つかわしくない、とても子どもらしいもの。
予想をした子も、「そのためにこんな怖い所歩くかな?」と徐々に疑問が出てきます。
こうして、ヒントを見ながらも、最後までなにを探しているのか気になって、食い入るように見てしまうのです。
また、不気味な町だからこそ、それがどこに落ちているのかも気になるところ。
段々と暗くなっていく町。
路地に入っていく男の子。
一体どこに繋がっていくのか目が離せるはずもありません。
不気味さに目を逸らしたくなりながらも、男の子の行く末が気になってしまう。
そんなところも、この絵本のとてもおもしろいところです。
男の子の正体をよくよく考えてみると・・・
さて、落とし物を見つけ、急いで家まで帰る男の子。
ですが、最後の最後でこの絵本一番の不気味さを味わうことになります。
それがこの男の子の正体。
当たり前のように人間だと思っていた子どもたちに衝撃が走ります。
家に帰ってきた男の子の背景に吊るされた顔が浮き出たカッパ。
男の子が急いで夜明け前に帰ろうとしていた理由。
そして、最後のページの衝撃的な絵。
これらを組み合わせると、男の子の正体がわかってくるのです。
・・・が、それだけでこの不気味さは終わりません。
カッパがかかっているのは普通の家。
子どもたちの家でも、使った後は吊るして乾かしていることでしょう。
また、夜明けまでに急いで帰ってきたということは、夜しか存在できないことが予想されます。
と、いうことは「自分たちのカッパも夜には・・・」「着ている時に実は男の子が背中にいるのかも・・・」。
そんなことへ思い至ってしまうのです。
きっと、すべての異形たちが、身近なものから浮かび上がっているこの絵本だからこその不気味さなのでしょう。
この男の子の正体を考えた時の、異形との距離の近さにぞっとする感覚も、この絵本のとても素敵で背筋が凍るところです。
二言まとめ
身近なものが異形となった不気味な町を、歩いていく恐ろしさがたまらない。
見たらしばらく、自分のカッパの中に顔が見えてくるかもしれないホラー絵本です。
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