文・絵:ピーター・レイノルズ 訳:なかがわちひろ 出版:主婦の友社
体が動いてしまう時、叫びたくなる時。
そんな時は、心の中で夢が渦巻いているんです。
だって、ぼくはハッピードリーマーだから!
あらすじ
ぼくはハッピードリーマー。
心の中に色んな夢が渦巻いて、じっとしてなんかいられない。
ハッピードリーマーはいろいろ言われる。
「静かにして」、「キョロキョロしない」、「ぼんやりしない」などなど・・・。
だけで、夢はいつでもひょっこり湧いてきて、心を弾ませるから体が動いてしまうんだ。
まぶしく輝く金色のトランペットが頭の中で鳴り響く。
でも、静かな夢も見る。
そんな時は、耳をすませ、心を広げ、ぼくだけの物語を追いかける。
夢がぼくを呼んでいる時は、叫びたくなる時もある。
夢は色んな色になってきれいだけれど、どんな色になるのかドキドキもする。
ぼくの心は夢がいっぱい散らかっている。
でも、ガラクタじゃない。
全部大切な宝物。
片付けろって言うなら片付けるけど、そしたらぼくがぼくじゃなくなっちゃう。
急に寂しくなる時もある。
でも、そんな時は目を閉じてゆっくり深呼吸。
そのうち段々、ぼくには夢の力があることを思い出す。
たとえ空からまっさか様に落ちてもへっちゃら。
また走り出すから。
だってぼくは・・・。
『ゆめみるハッピードリーマー』の素敵なところ
- 自由奔放な心の中の物語
- 「ぼく」を通して伝わる言葉にならない心の動き
- 「うまくいかない子」と周りの人に勇気をくれる
自由奔放な心の中の物語
この絵本のなにより素敵なところは、自由にならない自由奔放な心の動きを、とてもわかりやすい物語で描き出していることでしょう。
この物語はいわゆる「落ち着きのない子」の心の中を描いた物語になっています。
心の中に渦巻く、色とりどりの、夢、興味、空想、衝動・・・。
そんな自由にならない、自由過ぎる心の内を、この物語は見せてくれます。
ただ、これは「落ち着きのない子」に限らないような気がします。
「ちゃんと座る」「ちゃんと聞く」「背筋を伸ばす」など、当たり前に指摘されることを「ちゃんと」やる子の心の中にも、自由な気持ちが渦巻いているはずなんです。
それを抑え込んで「ちゃんとしている」だけだとしたら・・・?
もしかしたら、とてももったいないことをしているのかもしれません。
普段は目に見えない心の中の奔流を、目に見える形で描き出してくれているのが、この絵本のとても素敵でありがたいところなのだと思います。
「ぼく」を通して伝わる言葉にならない心の動き
そんな、心の奔流が、とてもわかりやすく、伝わりやすく描かれているのも、この絵本のとても素敵なところです。
じっと机に座っている灰色の気分から、夢がひょっこり湧いて身も心も弾ませる姿からは、思わず体が動いてしまう心の動きが伝わってくるし、
金色のトランペットを吹き鳴らす姿は、抑えきれない衝動が痛いほどに伝わってきます。
そりゃあ、金のトランペットが頭の中でなり響いたら、走り出してしまうことでしょう。
同時に、静かに自分だけの世界に入っていく姿も見せてくれます。
周りが見えないほど、自分の世界に深く深く入り込み、夢が広がって行くのです。
また、急に夢が消え去って、寂しく苦しくなる気持ちも。
それらが、絵と言葉を通して、とてもわかりやすく、優しく伝わってくるのです。
きっと、この心の奔流は、当の子どもたちが、言語化出来ず、正体もわからず、困ってしまいやすいところでしょう。
それを「ぼく」の姿を通して、可視化、言語化できることは、大きな勇気をもらえ、自己理解の後押しをしてくれるものだと思います。
この、見えないし、言葉にも出来ない、心の奔流を、「ぼく」の姿を通して表現できるようにしてくれるのも、この絵本のとても素敵なところです。
「うまくいかない子」と周りの人に勇気をくれる
こうして、自由過ぎる心の中を見せてくれるこの絵本。
きっと、「うまくいっていない子」が読んだら、背中を押して、勇気を与えてくれるものだと思います。
絵本の中でも出てきますが、
「静かにして」
「ぼんやりしない」
「キョロキョロしちゃダメ」
などは「うまくいっていない子」が言われがちなことでしょう。
言う方もきっとよかれと思って言っています。
こうして「落ち着きのない子」が出来上がってしまいます。
ですが、この絵本では「落ち着きのない子」に新たな名前を上書きしてくれます。
それが「ハッピードリーマー」。
「集中力がない」「落ち着きがない」という「欠点」を、「現実を飛び越えて夢を見ることができる」という「長所」へ塗り替えてくれるのです。
これがどんなに勇気を与えてくれることでしょう。
漠然とした「自分はダメな子」という感覚を、きっと晴らしてくれることでしょう。
また同時に、勇気を与えてくれるのは子どもに対してだけではありません。
周囲にいる大人へも、勇気と後押しを与えてくれるかもしれないのです。
その子の「欠点」だと思っているところを、「個性」として受け止める勇気を。
ぜひ、作者からの「読者のみなさんへ」という冒頭に書かれたメッセージも読んで欲しいと思います。
二言まとめ
「落ち着きのない子」の中にある、目には見えない自由過ぎる心の奔流を、目に見える形で描き出してくれる。
きっと「落ち着きがない子」もそうじゃない子も、その周りにいる大人たちをも明るい気持ちにしてくれる絵本です。
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