文:木暮正夫 絵:斎藤博之 出版:ほるぷ出版
ある日、じさまの娘が鬼にさらわれた。
じさまが娘に会うため鬼の住処へ行くと、目の前に鬼の子が現れた。
その子は、娘と鬼の間に生まれた子どもだった・・・。
あらすじ
昔あるところに、じさまと娘が暮らしていた。
ある日、2人で畑を耕していると、黒雲に乗った鬼が現れ、あっという間に娘をさらっていってしまった。
鬼は娘を嫁にもらうと言い、西の山の方へ飛び去ったのだった。
娘は山奥の鬼の住処に連れていかれた。
仕方なく鬼と暮らすうち、鬼と娘には子どもができた。
子どもはこづなと名付けられ、すくすくと育っていった。
そんなことになっているとは知らないじさまは、娘の身を案じ、娘と会うため西の山に登っていた。
しかし、山は険しく、どこまで行っても鬼の住処は見つからない。
じさまがとうとう限界を迎えそうになったその時、どこからか機織りの音が聞こえてきた。
じさまはその音を頼りに、一軒の家を探し当てた。
じさまがその家の様子を見ていると、1人の男の子が遊んでいる。
よく見ると、男の子の頭には小さな角が。
じさまはここが鬼の住処だと気付いたのだった。
鬼の子こづなはじさまの話を聞くと、「おとうは留守でおっかあは機を織っている」と教えてくれた。
そして、おっかさんを呼んで来てくれた。
おっかさんに会うと、じさまはさらに驚いた。
それがじさまの娘だったからだ。
娘はじさまに今夜は泊っていくよう勧めた。
じさまは鬼に食われると恐れたが、娘とこづなが鬼を説得すると言ってくれた。
娘とじさまは積もる話をしていたが、しばらくすると鬼が帰ってきたのだった。
鬼はじさまを食いたくて仕方なかったが、娘の手前食うわけにはいかない。
そこで、鬼は縄のない比べをしようと言ってきた。
じさまが勝てば、食うのは諦めるが、鬼が勝ったらじさまを食うと言うのだ。
じさまは断るわけにもいかず、ない比べをすることになってしまった。
鬼の縄ないの速いこと速いこと。
とてもじさまに勝ち目はなかった。
けれど、こづながこっそりと鬼の縄を切っては、じさまの縄に継ぎ足してくれたことで、じさまは勝つことができた。
だが、鬼は諦めきれない。
今度は豆の食い比べを挑んできた。
ここでもこづなが、鬼のいり豆に小石を混ぜてくれたことで、じさまは勝つことができた。
さて、次の朝。
鬼が向うの山に出かけたので、娘はじさまに逃げ出すよう言った。
するとこづなが鬼の宝物の5百里車を持ってきて、3人で逃げようと言ってくれた。
こうして3人で5百里車に乗り込んで、鬼の住処を後にした。
山から帰ってきた鬼は、3人が逃げたことを知ると怒った。
そして、千里車で3人を追い、あっという間に追いついてしまったのだった。
果たして3人は無事に逃げ切ることができるのか・・・?
『おにの子こづな』の素敵なところ
- 優しくて賢い鬼の子こづな
- 鬼との緊迫した追いかけっこ
- 大笑いの一発逆転
優しくて賢い鬼の子こづな
この絵本で一番魅力的な登場人物は、鬼の子こづなでしょう。
鬼との子ということで、どんな恐ろしい人物かと思いきや、おてもかわいい男の子。
しかも、人間の味方です。
特に、鬼にバレないように、じさまを助ける姿は本当に頼りになる頭のよさ。
力では鬼にかなわない分、頭を使って鬼を出し抜きます。
それはまるで一休さんを見ているかのような、知的な痛快さが味わえることでしょう。
さらには優しさも人一倍持っているのもまた魅力的なところ。
娘がじさまを逃がそうとした時、娘の気持ちも考えて、一緒に逃げられるよう5百里車を持ってきてくれるこづな。
自分も一緒に逃げるところからも、人間の側にいたいという、こづなの気持ちが伝わってきます。
見た目は角を生やした鬼でありながら、心は人間そのものなこづな。
そんな小さなこづなが、鬼に立ち向かい、知恵と勇気で困難を乗り越えていく姿が、たまらなくドキドキワクワクさせてくれる、この絵本のとてもおもしろいところです。
鬼との緊迫した追いかけっこ
こうしてこづなの助けもあり、一夜を越えることができたじさまですが、もう一晩は耐えられそうにありません。
そこで翌日3人で、鬼の住処から逃げ出すことになりますが、この場面もまたとても緊迫感があるこの絵本の見どころの一つです。
逃げたことに気付かれたところから、このハラハラドキドキは始まります。
激怒する鬼の怖さ。
捕まったら絶対に食べられてしまうという緊迫感です。
さらに使う道具の設定が秀逸なのも、この追いかけっこよりドキドキさせてくれます。
朝一番に5百里車で逃げ出した3人に、普通ならば追いつくことができない鬼。
このタイムラグを埋めるのが千里車です。
その速さは5百里車の倍。
鬼はあっという間に追いついてきてしまいます。
普通なら、ここで追いつかれて捕まってしまうのですが、千里車には速い分弱点が設定されています。
それが川を越えられないこと。
5百里車は越えられます。
あと少しで追いつきそうというところに川が流れていて、間一髪鬼は渡ってこられないのです。
こうして一安心と思いきや、鬼は川の水を飲み込み始めます。
すると、安心から一転、またピンチが訪れて・・・。
というように、ドキドキと安心の緩急がジェットコースターのように訪れ、心を思いきり揺さぶってくるのです。
この道具の設定とうまく使った、ハラハラドキドキと安心の緩急のつけ方が、子どもたちの目を絵本に釘付けにしてしまう、この絵本のものすごくおもしろいところなのです。
大笑いの一発逆転
さて、そんな緊迫感が続いた追いかけっこにも終わりが訪れます。
この最後の場面が、これまでの怖さや緊迫感をすべて吹き飛ばしてしまうくらい大笑いできるものになっているのも、この絵本のとても魅力的なところです。
川の水をがぶがぶと飲み込んでいく鬼。
鬼の方へ引き寄せられていく5百里車。
ここでもやっぱり頼みの綱はこづなです。
でも、その打開策は、鬼の力を使うものでも、こづなにしかできないことでもありません。
子どもならではの、誰でも出来るようなことだったのです。
絵本を見ている子どもたちだってできるし、なんなら家でやっている子もいるでしょう。
そんな誰でもできるこの打開策に、鬼は完全にしてやられてしまいます。
同時に、見ている子どもたちも大笑い。
それまで「怖い・・・」と縮こまっていた子まで、前のめりになってしまいます。
きっと、子どもであれば大笑いしない子はいないことでしょう。
こうして、最初からずっと緊迫感の続いた物語でしたが、最後の最後に大笑いのとてもおもしろいお話に変化して終わるのです。
この物語の流れからは考えられないような、笑える結末も、この絵本をおもしろく、怖がりの子も楽しく見ることができる、とても素敵なところです。
二言まとめ
圧倒的な力を持つ鬼に、知恵と勇気で立ち向かう鬼の子こづなの活躍が、痛快でおもしろい。
とっても怖くてドキドキするのに、最後はみんなで大笑いできる、怖くて楽しい昔話絵本です。
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