文:神沢利子 絵:岩本康之亮 出版:チャイルド本社
有名なグリム童話『あかずきん』。
その中でも、程よく丁寧な場面描写が、ハラハラドキドキを大いに盛り上げてくれる、
年中・年長クラスにちょうどいい内容です。
あらすじ
あるところに、赤いずきんをのよく似合う女の子がいました。
女の子はみんなから「赤ずきんちゃん」と呼ばれていました。
ある日、赤ずきんちゃんは、病気のおばあさんのところへお見舞いに行くことになりました。
赤ずきんちゃんが森に来ると、オオカミが話しかけてきました。
オオカミは赤ずきんちゃんへ、花でも摘んでいくといいと優しい声で言いました。
赤ずきんちゃんは、花を持っていけばおばあさんも喜ぶかもしれないと、オオカミの口車に乗ってしまったのでした。
その間にオオカミは急いでおばあさんの家にやってきました。
そして、赤ずきんちゃんの真似をして、おばあさんの家へ入ると、おばあさんを一飲みにし、おばあさんに化けてベッドに入り、赤ずきんちゃんが来るのを待ちました。
そうとも知らない赤ずきんちゃんは、花を摘み終わり、おばあさんの家へと到着しました。
家の中に入り、おばあさんを見てみると、なんだか変です。
そこで赤ずきんちゃんは聞きました。
「おばあさんの耳、なんでそんなに大きいの?」
オオカミは「お前の声がよく聞こえるようにさ」と答えます。
「おばあさんの目、なんでそんなに大きいの?」
「お前がよく見られるようにさ」とオオカミ。
そして、赤ずきんちゃんが「なんて大きな口」と言った時・・・。
「お前を食べるためにさ!」とついに本性をあらわし、赤ずきんちゃんを一飲みしてしまったのでした。
お腹がいっぱいになったオオカミは、そのままおばあさんのベッドで眠ってしまいました。
ちょうどそこへ、猟師が通りかかりました。
いつもと違ういびきに違和感を覚え、家の中を見てみると、なんとオオカミが寝ています。
猟師はオオカミを鉄砲で撃とうとしましたが、思いとどまりました。
なぜなら、お腹の中で食べられた人が生きているかもしれないからです。
猟師はハサミでオオカミのお腹を切ってみることにしました。
すると、中から赤ずきんちゃんが飛び出してきたのです。
次に弱ったおばあさんも。
2人を助け出した猟師は、オオカミが寝ている間に、お腹に石を入れ縫い合わせました。
目を覚ましたオオカミは、猟師の姿を見て逃げようとします。
ですが、お腹が重すぎて、オオカミはそのまま死んでしまいましたとさ。
めでたしめでたし。
『あかずきん』の素敵なところ
- しっかり読むのに程よい文章量と場面描写
- 盛り上がるページめくりのタイミング
- 現実感のある猟師の助け方
しっかり読むのに程よい文章量と場面描写
この絵本の素敵なところは、程よい文章量で丁寧に場面描写をしてくれているところです。
文章量が少ないとわかりやすいですが、物語として物足りません。
文章量が多すぎると、ついてこれない子がでてきてしまいます。
そんな中、年中・年長クラスに読むのに、とてもちょうどよいのがこの絵本なのです。
道草をくわないというお母さんとの約束。
言葉巧みに赤ずきんを欺くオオカミとのやり取り。
オオカミとおばあさんとの会話。
赤ずきんとオオカミとのハラハラドキドキのやり取り。
そして、猟師が赤ずきんを助ける場面。
そのどれもが、しっかりとりた場面描写とセリフ回しで描かれます。
だからこそ、子どもたちも物語の世界に入り込んでしまうのでしょう。
オオカミが花を摘むように言う場面では「オオカミに騙されちゃダメ!」。
誘いに乗り花を摘み始めてしまうと「あ~行っちゃったよ~」と頭を抱え、
おばあさんには「オオカミだよ開けちゃダメ!」。
と、まるで絵本の中にいるように、登場人物に呼びかけていました。
この没入感は、しっかりとした文章量と場面描写があるからこそだと思います。
盛り上がるページめくりのタイミング
また、ページめくりのタイミングが、場面転換とピッタリ合っているのも、この絵本の素敵なところです。
家から出かけ、ページをめくると森の中へ。
赤ずきんが花を摘みはじめ、ページをめくると、赤ずきんは森の奥、オオカミはおばあさんの家へ。
というように、ページめくりで場面と時間経過が感じられるようになっています。
その中でも、特に重要なのがオオカミが襲い掛かる場面です。
おばあさんのところでは、ドアの前からオオカミが赤ずきんの真似をして、ドアを開けたところでページめくり。
ページめくりと、ドアが開くのが連動して、ものすごい臨場感が味わえます。
次に赤ずきんがおばあさんに化けたオオカミと会話する場面。
赤ずきんが大きな口のことを聞き「お前を食べるためさ」と言った瞬間にページをめくります。
すると、オオカミがおばあさんの衣服を脱ぎ捨て、赤ずきんに襲い掛かる絵になります。
まさにページめくりで、飛び掛かる勢いが表現されているのです。
この物語とページめくりのタイミングがピッタリで、読んでいて気持ちがいい。
子どもたちも、まるで映画でも見ているかのように、絵本から目が離せません。
このページめくりが仕掛けだと言えるくらい、物語とシンクロし大いに盛り上げてくれるのも、この絵本のとても素敵なところです。
きっと、読んだらそのページめくりの楽しさに、感動することでしょう。
現実感のある猟師の助け方
さて、そんな赤ずきんですが、絵本によって大きく変わる場面があります。
それが、最後の赤ずきんを猟師が助ける場面です。
猟師の人数がたくさんいたり、、銃で撃つなど、この場面は絵本によってバリエーションが豊富です。
その中で、この絵本はお腹を切って助けます。
ただ、ここでも丁寧な猟師のセリフが、物語を盛り上げてくれるのです。
最初はすぐに銃で撃って殺してしまおうとする猟師。
ですが、少し考えます。
食べた直後なら、助けれるかもしれないと。
子どもたちも、「たしかに銃で撃っちゃったら、おばあさんも死んじゃうもんね!」と納得。
こうして、お腹を切ることにし、赤ずきんたちを助けられたのです。
これは、ただオオカミを撃ったり、最初からお腹を切っていたら味わえなかった物語の深みと言えるでしょう。
猟師という職業上、まず撃とうとするのは自然です。
ただ、そこで働く洞察力は、まるで本当の人間のよう。
そのセリフや働きからは、猟師がただ赤ずきんを助けるピースではなく、その世界に生きている人間だと感じられるのです。
これもまた、この絵本が『あかずきん』という物語の世界に、これだけ引き込んでくれる要因の一つなのだと思います。
二言まとめ
程よい文章量での丁寧な場面描写と、物語にシンクロしたページめくりで物語の世界に引き込まれる。
年中・年長へ読むのにぴったりな、グリム童話『あかずきん』の絵本です。
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