作:内田麟太郎 絵:村上康成 出版:すずき出版
春が来ました。
空にはなぜか動物が浮かんでいます。
地上のウシが理由を聞くと、とても春らしい理由が・・・。
あらすじ
春です。
空にブタが浮かんでいます。
空にネコさんも浮かんでいます。
カエルさんも、タヌキさんも、クマさんも浮かんでいます。
浮かんでいないウシが、ブタにどうして空に浮かべるのか聞きました。
すると、こいのぼりさんが教えてくれたと言います。
さっそくこいのぼりさんに聞いてみると、
「春風をお腹いっぱいにね。」
という返事。
ウシも春風をお腹いっぱい吸い込んでみると・・・。
『はるのごほうび』の素敵なところ
- 春のフワフワとした気持ちよさに浮かんでしまう体
- 気になる浮かんでいる理由
- 一緒に春風を思いきり吸い込みたくなる
春のフワフワとした気持ちよさに浮かんでしまう体
この絵本のなにより心地よいところは、春ならではのフワフワとした気持ちよさや温かさを体全体で感じられるところでしょう。
気持ちよさそうに空に浮かぶ動物たち。
そのまるで昼寝でもしているかのような、脱力した姿と表情は、まさに春のポカポカとした温かさを全身で表現しているよう。
春ならではの言葉にならない心地よさが、こちらまで伝わってくるようなのです。
目を閉じたら浮かんでしまいそうな心地よさ・・・。
また、絵本全体ののんびり感も、春らしさの一つでしょう。
気持ちよさそうな動物たちが、見開きの1ページに1匹ずつ、フワフワ飛んでくることの繰り返し。
そののんびり感は、まるで休日の昼下がりといった雰囲気を醸し出しています。
理由もわからず飛んでくる動物たちに、普通ならツッコミが入りそうなものですが、
「なんで飛んでるんだろう?」
と疑問に思いつつも、
「気持ちよさそうだね~」
「カエルさんも飛んでる~」
と心地よさの方が上回るのか、次第にこの絵本ののんびりペースに引き込まれてしまいます。
この、のんびり温かで心地いい、春を体現したかのようなふわふわとした空気感が、この絵本の春を感じられるとても素敵なところです。
気になる浮かんでいる理由
ですが、浮かんでいる理由もちゃんと明かされます。
それを知っているのがこいのぼりさん。
確かに、こいのぼりは動力などついていなくても浮かんでいます。
そんなこいのぼりが教えてくれたのは、
「春風をお腹いっぱいにね」
というなんともオシャレな言葉でした。
ここで現実とリンクするのが、とてもおもしろいところ。
動物たちが浮かぶというファンタジーな世界観に浸っていた子どもたち。
でも、こいのぼりが春風を吸い込んで浮かぶのは、ファンタジーではありません。
とても身近な現実の現象です。
こいのぼりが浮かぶのだから、動物の身体も浮かぶという理屈が出てきたことで、妙に説得力が増すのです。
子どもたちも、
「確かにこいのぼりの身体浮かんるよね!」
「そういうことか~」
と妙に納得。
実際に見たことのある光景だからこその説得力は強力です。
この、こいのぼりが言うことによって、「たしかに!」と思わされてしまう妙な納得感も、この絵本のとてもおもしろいところの1つです。
一緒に春風を思いきり吸い込みたくなる
さて、この説得力は、絵本が終わった後にも続きます。
自分も春風を吸い込んだら、飛べる気がしてくるのです。
外に出て春風をお腹いっぱい吸い込む子どもたち。
でも、もちろん体は浮き上がりません。
すると、「浮かばないね~」という声とともに、
「あ!浮かんできた!」と自分からジャンプする子。
「気持ちよくて浮かんでる気分~」と目をつむる子。
「お腹の中まであったか~い」と春風を味わう子。
など、色々な方法で心を浮かばせる子が。
きっと頭の中では絵本の動物たちがイメージされているのでしょう。
実際に体が浮かび上がらなくても、しっかりと春のごほうびを味わっているようでした。
この、見た後に春風を味わい、イメージ遊びに繋がることで、より春を全身で感じさせてくれるのも、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
春ならではの温かなフワフワとした心地よさが、動物たちの気持ちよさそうに空に浮かぶ姿からひしひしと伝わってくる。
見たら、自分も春風をお腹いっぱい吸い込みたくなる、心も体もふわふわ浮かび上がってしまう絵本です。
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