作:つるたようこ 出版:福音館書店
昔話『酒呑童子』での鬼退治。
その登場人物が野菜になってしまいました。
ハラハラドキドキ!でもどこか脱力感ある鬼退治をお楽しみください。
あらすじ
京の都では、野菜たちが平和に暮らしていました。
しかし、このところ、東の山から恐ろしい、コンニャクイモの鬼が降りてきては、都の娘をさらっていってしまうのでした。
そんなある日のこと。
お屋敷に住むひのな姫が、鬼にさらわれてしまったのです。
父親のしょうごいんかぶらは、すぐに都にいる知恵と勇気のある者を集めました。
集まったのは、タケノコ、マツタケ、カモナス、ミズナ、キントキニンジン、ホリカワゴボウの6人です。
さっそく6人は鬼退治へと出発したのでした。
険しい道を越え、山道を登っていた時のことです。
シシガタニカボチャおじいさんが、谷を渡れず困っていました。
すると、ホリカワゴボウが自分の体を橋にして、みんなを谷の向こうへと渡してくれたのでした。
おじいさんを家まで送り届けると、お礼にお酒をくれました。
そのお酒は、いい人が飲んだら力が湧き、悪い人が飲んだら力がなくなる不思議な酒だというのです。
6人は礼を言うと、また山を登り、鬼の屋敷へと向かったのでした。
鬼の屋敷に着くと、門の前には八つの顔を持つヤツガシラの門番が立っていました。
見るからに手ごわそうです。
それを見たカモナスが、任せてくれと、門番の前に飛び出します。
カモナスは門番に、誰が日本一強い門番なのかと尋ねました。
すると、八つの顔同士で、自分が一番強い門番だとケンカが始まります。
その隙に、他の五人は塀を越え、屋敷へと忍び込んだのでした。
屋敷の中を進んでいくと、ニンジンとゴボウが番をしていました。
そこで、キントキニンジンとホリカワゴボウが少しだけ顔を出します。
ニンジンとゴボウはここぞとばかり、槍をつきつけますが、全身を出したキントキニンジンとホリカワゴボウの大きさと立派さに、ニンジンとゴボウは腰を抜かしてしまったのでした。
その隙に、他の三人は奥へと入っていきました。
庭の入り口まで来ると、そこでは毒キノコが番をしていました。
ここで活躍したのがマツタケです。
マツタケは娘のふりをして、毒キノコへ近づいていきました。
そして、都で一番の舞子だから、舞を見て欲しいと訴えたのです。
毒キノコは疑いの目を向けつつも、踊ってみるよう言いました。
マツタケが躍ると、体からマツタケのよい香りが・・・。
その匂いをかぐと毒キノコはすっかり気持ちよくなり、眠ってしまったのでした。
その隙に、残りの2人が庭へと入っていきました。
庭に入ると、部屋の中に鬼がいました。
柱には都からさらわれた娘たちが縛り付けられています。
さあ、タケノコとミズナはこの強大な鬼へ、どう立ち向かうのでしょうか?
鬼を退治することはできるのでしょうか?
『やさいのおにたいじ』の素敵なところ
- 野菜たちの力を合わせたドキドキの鬼退治
- コンニャクイモならではの退治の仕方
- おとぎ絵巻のような可愛く美しいアートワーク
野菜たちの力を合わせたドキドキの鬼退治
この絵本のとてもおもしろいところは、なんといっても野菜たちが鬼退治に行くという物語でしょう。
鬼はコンニャクイモで、出てくる人物たちも全員野菜。
その中でも、鬼退治に行く野菜たちは、京都にちなんだ京野菜たちです。
京野菜たちが、力を合わせて京都の都と、民たちを助ける。
なんともロマンあふれる内容です。
さらに鬼退治の冒険はワクワクドキドキが詰っています。
谷が渡れないと、ホリカワゴボウが丸太のように橋になったり、
門番や番兵を、それぞれの野菜が知恵と勇気で受け流し、仲間を先へ進めたり、
ただ戦うだけじゃない、工夫を凝らした内容がとてもおもしろいのです。
特に鬼の屋敷に忍び込むところは、まるで忍者のように息を呑み、子どもたちもバレないように声を抑えていたのが印象的。
戦わないからこその、「どうなるんだろう?」「次はどうするんだろう?」というおもしろさが生まれます。
この「戦わずして勝つ」を地で行く物語が、まさに酒呑童子物語のおもしろさとも通じる、この絵本のとてもおもしろいところなのです。
コンニャクイモならではの退治の仕方
これはもちろん、鬼との戦いでも貫かれます。
そもそも酒呑童子が、酒で鬼を酔わせて寝ている隙に退治するという物語。
ここで普通に戦うわけがありません。
ただ、そのままそっくり同じ流れというのもおもしろくない。
ここで野菜の要素が輝きます。
鬼はコンニャクイモで、鬼と対するのはタケノコです。
そして、もちろんカギを握るのはシシガタニカボチャのおじいさんからもらった酒。
この酒を飲ませるまでのやりとりに、まずドキドキさせられます。
さらに、飲んだ後の攻防にハラハラ。
最後はコンニャクイモとタケノコならではの決着に、歓声と笑いの声が上がるのです。
この野菜同士だからこそ、ハラハラドキドキしつつも、ちょっと笑える鬼退治の結末も、この絵本のとても魅力的なところです。
おとぎ絵巻のような可愛く美しいアートワーク
さて、物語だけでも十分に魅力的なこの絵本。
実はそのアートワークにも、ものすごく魅力が詰っています。
まず絵の構図が絵巻物のように描かれているところ。
巻物を開いていくと物語が進んでいくかのように、俯瞰図で、1ページの中に道中の複数場面が描かれたりします。
特にこれを感じるのが、都から山までの道中。
見開き1ページに、水墨画のような雰囲気で、山を越え、川を渡り、嵐の中を進み、山に至るまでが描かれます。
他にも、要所要所で、「昔の絵」と感じられるような構図で描かれるので、まさに御伽草子を見ているような不思議な感覚を味わえるのです。
その感覚をさらに強いものにしてくれるのが、文章の字体です。
ゴシックのような字体ではなく、筆で書いたような字体が使われています。
これがより、昔書かれたもののような雰囲気を感じさせ、御伽草子感を醸し出しているのです。
さらには、文章と別に、漫画のように登場人物に添えられてセリフや効果音が書かれている時もあるのですが、そこはさらに筆と墨で書いたような字体になっていて、より昔感を演出しています。
この、アートワーク全体から、和の雰囲気や、御伽草子感を味あわせてくれるのも、この絵本のとても素敵なところ。
現代の絵本を見ているのに、とてつもなく昔の絵本を見ている感覚に、タイムスリップさせてくれるのです。
きっと、心の底から和の心地よさや特有の温かみを味わえることでしょう。
二言まとめ
野菜たちが紡ぐ、野菜ならではの特徴を活かした『酒呑童子』の物語が、ハラハラドキドキしておもしろい。
その和を追求したアートワークから、本当に御伽草子を見ているような不思議な感覚にさせられる変わり昔話絵本です。
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