【絵本】ナイトランチ(4歳~)

絵本

文:エリック・ファン 絵:ディーナ・シーファリング 訳:橋本あゆみ 出版:化学同人

ナイトランチは真夜中だけに開くレストラン。

店主はフクロウ。

今日も夜の街へとやってきたようですよ。

あらすじ

満月の真夜中、街に馬車がやってくる。

その馬車はナイトランチ。

ナイトランチが通ると、辺りにはコーヒーのいい匂い。

ナイトランチのベルが鳴ると、次々にお客さんがやってくる。

オーブンを温めたら準備完了。

キツネにはミンスパイ。

アナグマにはサンドイッチ。

蛾の集団客へは、1ダース分の目玉焼き。

コウモリにはソーセージとパプリカのサンドイッチ。

他にもバターロールに、ビスケット、プティングも置いています。

こうして、たくさんのお客さんが、おいしい食事をする中で、店の外ではネズミが一匹。

街を掃除しながらパンくずを探してる。

でも、パンくずも、コインも落ちていない。

空が明るくなってきたので、そろそろナイトランチは店じまい。

けれど、フクロウが外を見回すと、道の隅で震える小さなネズミが。

フクロウはコック帽を取ると、ネズミを店へと招き入れた。

ネズミが店内に入ると、そこにはとても素敵で温かな光景が・・・。

『ナイトランチ』の素敵なところ

  • 賑やかなのにどこか昼とは違う夜の雰囲気
  • 繊細で美しい絵画のような絵
  • ネズミへの優しいもてなし

賑やかなのにどこか昼とは違う夜の雰囲気

この絵本のとても特別なところは、夜の街ならではの雰囲気だと思います。

ナイトランチは夜の街にやってきます。

暮らしているのは動物たちですが、街並みや暮らしぶりは人間の街そのもの。

賑やかだけれど、夜ならではの静けさも入り混じった雰囲気が漂います。

それはまるで、繁華街に出る屋台のような雰囲気。

この雰囲気は、絵本全体がモノクロで描かれているからかもしれません。

けれど、一番の要因は文章にあると思っています。

言葉少なに、

「ぱからっ ぱからっ まよなか まんげつ ナイトランチが かけてくる」

「かちかち ブーン、オーブン あたため なべに スプーンが かちゃり かちゃり」

と、詩のように文章が綴られているのです。

料理もボリューミーで美味しそうだし、お客さんも明るく美味しそうに食べるのですが、このぽつりぽつりと語られる感覚が、そこに夜の街ならではの独特な静けさを加えてくれているのでしょう。

この夜の街で、食事をしているような、子どもは特に感じるであろう特別感を味わえるのが、この絵本のとてもすてきなところです。

繊細で美しい絵画のような絵

また、繊細で美しい絵も、この雰囲気づくりには欠かせないでしょう。

街並みも動物も、線の細い繊細な絵で描かれ、動物の毛並みまでよく見えるほど細かく描き込まれた絵。

これを見ているだけでも、うっとりと見惚れてしまいます。

ですが、それだけではありません。

馬車が通った後、路地に漂う煙のようないい匂いの軌跡。

街の動物が人間のように、シルクハットや衣服を身につけている姿。

美味しそうでよだれが出てしまう食べ物。

など、その描写のどれもが、この絵本へ子どもたちを釘付けにしてしまうのです。

いい匂いの軌跡はナイトランチへ行くワクワク感を。

衣服は動物感を薄れさせ、夜の街感を醸し出します。

食べ物は言わずもがなでしょう。

そして、なにより最後の場面に繋がる、ネズミの描写という伏線。

この見惚れてしまう美しさと同時に、この絵本ならではの世界観のおもしろさへ惹きこんでくれる絵も、この絵本に欠かせないところでしょう。

ネズミへの優しいもてなし

さて、そんなナイトランチへ最後にやってきたのがネズミです。

でも、お客さんとしてではありません。

なぜならネズミはお金を持っていなかったから。

ナイトランチを眺めながら、道の端で寒さに震えるネズミ。

そんなネズミを、フクロウは招き入れます。

このナイトランチ店内で過ごす、温かくて優しいひと時がなんとも魅力的。

ネズミサイズのティーセットやイスなどのかわいらしさに子どもたちも大喜び。

「ネズミさん用の小さい椅子だ!」

「かわいいお菓子!お姫様みたい!」

「フクロウ優しいね~」

などなど、子どもたちの心も温まっている様でした。

けれど、なにより素敵だと感じたのは、フクロウが招き入れる時に、コック帽をとったこと。

理由は語られませんが、店主としてではなく個人として招いたことで、お金は必要ないことを伝えようという心遣いのように感じたのです。

たった一つの小さい動作ではありますが、フクロウの優しい人となりに触れられる大切な場面だと思っています。

さらに、最後の1ページもとても素敵。

文章のないページのなかで、フクロウへ別れを告げる時のやりとりを想像させてくれるのです。

「あれはなんだろう?」

「きっとこうだよ」

というように。

このネズミとの優しくて温かくて美味しい時間とともに、そこでのやり取りを想像できる余白を残してくれているのも、この絵本のとても素敵なところです。

きっと、繰り返し読むことで、新たな発見や想像に繋がっていくことでしょう。

二言まとめ

 繁華街の屋台のような、賑やかさと夜ならではの静けさの二面性を味わえる。

わけ隔てないフクロウの心遣いに、こちらの気持ちも優しくなりつつ、お腹も空いてくる絵本です。

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