作:長新太 出版:フレーベル館
ノコギリザメの、ボロボロになったノコギリを直します。
そのために、ノコギリをとってしまう海のオバケ。
代わりにつけたのは・・・?
あらすじ
海の底で、ノコギリザメのおじいさんが困っていました。
頭についているノコギリが、ボロボロになってしまっていたからです。
おじいさんは涙を流しました。
そこへ海のオバケがやってきました。
海のオバケは、ノコギリを直してくれると言います。
おじいさんがどうやって直すのか聞くと、オバケは「任せておけ」と言い残し、どこかへ行ってしまったのでした。
おじいさんは涙を流しました。
しばらくすると、オバケは袋を持って帰ってきました。
そして、おじいさんのノコギリを掴んでとってしまったのです。
おじいさんは涙を流しました。
ノコギリをとったオバケは、袋からタコを取り出し、ノコギリの代わりにつけました。
それを見たおじいさんは泣きました。
タコはすぐに取れてしまいました。
またしばらくして、今度はオバケがイソギンチャクを持ってきました。
おじいさんの頭につけましたがやっぱりだめ。
イソギンチャクもすぐに取れてしまいました。
おじいさんは涙を流しました。
その後も、ウニやサンゴ、オバケがくっついたりしましたが、やっぱりだめ。
おじいさんは涙を流しました。
さらに色々持ってくるオバケ。
果たして、おじいさんにぴったりなノコギリの代わりは、見つかるのでしょうか?
『ノコギリザメのなみだ』の素敵なところ
- オバケの雑な解決策に大笑い
- 癖になる独特な言い回しとおじいさんの反応
- 毎ページ流れる涙の伏線
オバケの雑な解決策に大笑い
この絵本のなによりおもしろいところは、おじいさんの頭に色々なものがつけられるところでしょう。
ノコギリがボロボロになって困っているおじいさん。
オバケがそれを解決すると言いますが、その解決策がものすごく雑です。
まず、最初からノコギリをとってしまうという力技に、子どもたちもビックリ。
「えー!?」
「ノコギリとっちゃったよ!」
「掃除してあげるんじゃないんだ!?」
と、驚きの声が上がります。
どうするんだろうと、ドキドキした気持ちで見守る子どもたちの目の前に出てきたのは、なんとタコ。
しかも、特に工夫もなく、ペタっと雑にくっつけます。
子どもたちも「タコ―!?」とやっぱりビックリ。
さらに雑につけたから、すぐに取れるのを見て「やっぱりくっつかないじゃん」とあきれ顔。
でも、最初は驚いてばかりの子どもたちでしたが、このおもしろさ、じわじわボディーブローのようにきいてきます。
イソギンチャク、ウニ、サンゴ・・・と、どんどんつけていくうちに、驚きの声は笑い声に。
オバケがつくころにはみんは、大爆笑で笑い転げてしまいます。
けれど、止まらないオバケの攻撃。
みんな息ができなくなるんじゃないかと心配になるほど大笑い。
もう、なにをつけてもおもしろいのだから仕方ありません。
このオバケの雑な解決策の、シンプルゆえにすさまじ過ぎる笑いの破壊力が、この絵本のとてもおもしろく、笑いの絶えない素敵なところです。
癖になる独特な言い回しとおじいさんの反応
ですが、おじいさんのオバケに対する反応も、オバケのおもしろさに負けてはいません。
ノコギリがとられた時には「ひぇーっ」っと涙を流し、
タコがつけられた時は「こんなの、だめだめ」。
オバケがくっついた時には「みんなにオバケザメといわれるよ。だめだめ」。
などなど、ダメな理由や言い回しがなんとも独特で、癖になる面白さがあるのです。
これがオバケの雑な解決策と相まって、じわじわとこの独特な絵本の世界に、子どもたちを引きずり込んでいきます。
独特な言い回しは、おじいさんだけじゃなく、オバケのセリフや、ナレーションも同様。
絵本全体から、この絵本ならではの、ゆる~い雰囲気が漂ってくるのです。
だからこそ、オバケの力技もすんなりと受け入れられるのでしょう。
この独特の言い回しや、セリフの間も、この絵本でしか味わえないとてもおもしろいところです。
毎ページ流れる涙の伏線
さて、変化とユーモアに富んだこの絵本ですが、実は一つだけ、毎ページ変わらない部分があります。
それが、ページの最後におじいさんが涙を流すこと。
そして「おじいさんの涙が、静かに流れて行ったよ」という一文です。
この絵本は、なにかの出来事があって、それに対しておじいさんが涙を流すという繰り返しでできているのです。
しかも、この流した涙が、結末への伏線になっているのがなんともにくいところ。
最初は、大人も子どもも、おもしろ表現と、タイトル回収で涙を流しているのだと思ってしまいますが、まさか伏線だったとは。
さらに、この結末がなんともほのぼの、ホッとした気持ちにさせてくれるのも素敵なところ。
これはずっとおじいさんが泣き続けてきたからこそ、感じるものなのだと思います。
この、流した涙が結末への伏線になっていた驚きと、これまでの大笑いが嘘のように、ホッとした穏やかな気持ちにさせてくれる結末も、この絵本のとても素敵なところです。
二言まとめ
オバケの雑過ぎる解決策と、独特過ぎる会話劇に、子どもたちの笑いが止まらない。
次にオバケがなにを取り出すか、楽しみで仕方がない絵本です。
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