【絵本】たろうとつばき(5歳~)

絵本

作・絵:渡辺有一 出版:ポプラ社

離島の利島に住むたろう。

ある日、お母さんが倒れて、東京の病院へ。

たろうはお見舞いのため、1人で東京へと向かいます。

あらすじ

利島は島中がやぶ椿に覆われた島。

椿島とも呼ばれています。

そんな利島にたろうという男の子が住んでいました。

たろうは小学校1年生。

家は椿の実から椿油を作る工場をやっています。

学校が終わると、お母さんが椿の実を拾う手伝いをさせられます。

休みの日は工場の手伝いも。

たろうは友だちと遊びたい中、家の手伝いをしています。

やがて冬がやってきた頃、たろうのお母さんが倒れて、東京の病院へ入院することになりました。

ヘリコプターで、東京へと運ばれていきます。

それから4日後。

東京に住むおばさんから電話がかかってきました。

翌日手術をするということです。

お父さんは行ってやりたいけれど、工場の仕事で手が離せません。

そんな話を聞いていたたろうは、決意を固めました。

1人で東京に行ってくると。

お父さんに地図を描いてもらい、お土産の箱を持って東京に向かいます。

まずはボートでフェリーへ乗り換えます。

フェリーは大島を経由して、東京へと出発します。

しかし、その船の揺れること。

たろうは船に酔ってしまいました。

それを見ていた船長さんが声をかけてくれ、操舵室へ招いてくれたのでした。

旅の目的を操舵室の人たちに伝えると、みんなたろうを励ましてくれます。

船旅の間、船員さんが気にかけてくれ、たろうは無事に東京へ着きました。

地図を見ながら電車に乗っていると、外では雪が降り始めました。

吹雪の中、たろうはバスに乗りかえます。

そして、ついにお母さんの入院している病院へ到着しました。

ですが、面会時間を過ぎてしまっています。

警備員さんがそのことを伝えると立ち尽くしてしまうたろう。

それを見て、警備員さんがオマケをしてくれ、どうにか病院へ入ることができたのです。

お母さんの病室に行くと、元気そうなお母さんがたろうを出迎えてくれました。

お父さんからのお土産を渡すと、中には1輪の椿と、手紙が入っていました。

手紙には、お母さんへの励ましと、

「男の子ならじろう、女の子ならつばきにしよう」という言葉が。

それを読んだお母さんが、たろうをある場所へ連れて行ってくれました。

そこにいたのは小さな女の子の赤ちゃん。

ちょうど今朝、産まれたのです。

たろうが来てから2週間後。

お母さんが退院する日がやってきました。

今度はお母さんと赤ちゃんも一緒に、フェリーへ乗り利島へと向かいます。

久しぶりに帰る利島では・・・。

『たろうとつばき』の素敵なところ

  • 自分たちとは全然違う離島での暮らしぶり
  • たくさんの親切に支えられたドキドキの1人旅
  • 新たな命との神々しさすら感じる出会い

自分たちとは全然違う離島での暮らしぶり

この絵本でまず驚くのは、離島での暮らしぶりでしょう。

自然豊かな景観もさることながら、学校が終わると家の仕事を手伝ったり、休みの日も工場を手伝ったりしています。

遊び方も、浜にある漁船を使った海賊ごっこなど、都会の子にはあまりなじみのないものだと思います。

他にも、役場のおじさんが緊急を知らせる吹き流しのようなものを持って村を回るなど、離島や村ならではの生活様式が散りばめられています。

ですが、特に驚くのは入院するために、ヘリコプターで東京へ運ばれていく場面でしょう。

当たり前のように身近にある病院が、利島にはないのです。

利島では、病気や出産などの時は、東京に行くというのが当たり前。

この場面には、離島で暮らす大変さが凝縮されています。

こんな風に、離島ならではの自然あふれる魅力とともに、そこでの苦労も当たり前に描かれることにより、離島での暮らしがとてもリアルに描かれているのです。

だからこそ、子どもはその違いに驚きつつも、そこでの暮らしを追体験し、自然とたろうの目線に立つことができるのでしょう。

この離島の暮らしがありのままに描かれることで、自分もそこで暮らしている感覚になれるのが、この絵本のとても素敵なところです。

たくさんの親切に支えられたドキドキの1人旅

そんな中、東京で入院することになったお母さん。

お見舞いのため、たろうは1人で東京へ向かいます。

もちろん初めての体験です。

たろうもドキドキしているでしょうが、

「1人で船に乗っていくの!?」

「大丈夫かな・・・」

「たろう勇気あるね!」

と、見ている子どもたちもドキドキです。

きっと、たろうが一年生という、自分たちにとても近い年齢ということもあるのでしょう。

自分事として、たろうの旅を見つめているようでした。

こうして旅に出たたろう。

ですが、やはり一筋縄ではいきません。

船酔い、大雪、人生で2回目のバス、面会時間など、様々な困難に出会います。

そのたびに、助けてくれるのは見ず知らずに大人たち。

船長さんに、タバコ屋の人、バスの運転手に、警備員のおじさんなど、たろうの困っている様子を見た大人が手を差し伸べてくれるのです。

この当たり前のようにしてくれる親切に、心が温まりほぐされます。

大雪の寒そうな景色とは正反対に、大雪も含めてとても温かく感じられるから不思議です。

子どもたちも「たろう大丈夫かな?」と心配しますが、

手を差し伸べてくれる人を見て、「優しいね」「よかったね」と安堵の表情。

たろうの表情が明るくなるのと一緒に、子どもたちの表情も明るくなるのが印象的でした。

この、1人で成し遂げるのではない、たくさんの人に支えられた旅もまた、この絵本のとても素敵で温かなところです。

新たな命との神々しさすら感じる出会い

さて、こうして無事に病院へたどり着いたたろうが出会ったのは、とても小さな新しい命でした。

その赤ちゃんを見た時のたろうの表情は、嬉しさや驚きや安心など、色々な気持ちが入り混じったもの。

でも、きっと初めて自分の妹を見た時は、こんな顔をするのだろうなという表情です。

特に下の子がいる子どもたちは、

「ぼくも赤ちゃん見た時嬉しかった!」

「わたしの赤ちゃんはしわしわだったなー」

「うちも、産まれるよって電話きて、お父さんと病院行った!」

と、自分たちの赤ちゃんとの出会いをたろうと重ねている様でした。

けれど、ここで終わらないのも、この絵本の素敵なところ。

利島へ帰ってきてからの、父親と赤ちゃんの出会いや、2週間ぶりの利島の様子も描かれるのです。

特に、父親と赤ちゃんの出会いは印象的。

日の出の頃に港へ着いたことで、黄金色の朝日が辺りを包む中、お父さんが初めて赤ちゃんをだっこします。

その場面は神々しさすら覚えるほどで、朝日の神々しさと利島の自然、そこにお父さんの嬉しそうな泣き出しそうな表情が合わさって、利島の全てが新しい命の誕生を祝ってくれているようです。

さらに、2週間ぶりの利島の大きな変化も、生命の息吹を感じさせてくれ、利島の魅力を最大限に目に焼き付けてくれることでしょう。

子どもたちも、子の利島の変化に、

「まっかだね!」

「椿だ!」

「きれい!いってみたい!」

と、感動と感嘆の声。

うっとりと、この美しい椿島を見つめていました。

この新たな命の誕生と重なり合った、利島の美しい情景も、この絵本でしか味わえないとても素敵なところです。

二言まとめ

道行く人の親切に支えられた、厳しくも温かな離島から東京への1人旅に、心が優しい気持ちで満たされる。

生命の誕生の美しさと、利島の情景の美しさが重なり合った、利島の椿の中を歩きたくなる絵本です。

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