作:ゾシエンカ 訳:あべ弘士 出版:小学館
月にはお世話をする番人がいます。
今回、番人に選ばれたのはシロクマ。
でも、番人の仕事をする中で、ある異変に気が付きます。
あらすじ
シロクマのエミールに手紙が届いた。
夜の動物クラブが、大切な会議を開くという手紙だ。
エミールが会議に参加すると、新しい月の番人に選ばれた。
夜の動物たちにとってなくてはならない、月明かりを見守る番人だ。
エミールはさっそく準備に取り掛かり、必要なものをそろえると、日が暮れる前に93段の梯子を登った。
着いた場所は、月がよく見える高い木の上。
エミールは来る日も来る日も、月の番をした。
怪しい雲を掃除機で追い払ったり、コウモリが横切るのを注意したり。
静かな夜には、月と話もした。
けれど、ある晩、エミールはあることに気付いた。
月がまん丸じゃなくなっているのだ。
お隣さんに聞いても、「欠けているみたい」と同じ感想。
エミールは毎晩月をスケッチして見ることにした。
すると、少しずつ消えていく月。
でも、それを止める道具をエミールは持っていなかった。
エミールは月に悲しいことがあるのか聞いたり、遠くにいるヒョウへどんな形の月かを聞いたりした。
その間も、月はどんどん消えていき、ついには細い糸のようになってしまった。
そこへ大きな鳥がやってきた。
エミールは月のことを相談してみる。
すると鳥は、夜空を飛ぶ自分のことを見続けているよう言い、宙へと舞った。
すぐに見失ってしまうエミール。
エミールが暗闇の中を探していると、後ろから鳥の声がした。
そして、鳥はエミールにあることを語る。
とても大切で、エミールの悩みにも関わる言葉を・・・。
『つきのばんにん』の素敵なところ
- 月の番人というユニークでおもしろそうな仕事
- 月の満ち欠けを追う物語
- 見惚れてしまうほど美しい最後のページ
月の番人というユニークでおもしろそうな仕事
この絵本のなにより好奇心を刺激されるのは、月の番人という仕事でしょう。
「月明かりの番をする」
こんなにも幻想的で、不思議で、魅力的な仕事があるでしょうか。
それは、子どもたちも、
「どんなことするんだろう?」
「月に登るのかな?」
と、ワクワクしない訳がありません。
さらに、仕事が始まった後もそのおもしろさは続きます。
雲を掃除機で吸い取ったり、コウモリを追い払ったり。
そんな仕事ぶりをみていると、おもしろそうでやってみたくなってしまいます。
それだけではなく、想像力が掻き立てられるのも、月の番人という仕事の魅力。
他にも月の光を遮るのもが思いつくたび、
「飛行機はどうするんだろう?」
「UFOだったら友だちになっちゃえば!」
「台風の雲は吸いきれないかも・・・」
などなど、対処法を考えます。
この、月の番人という仕事の神秘性と、仕事内容の現実感に、好奇心と、興味と、想像力を描きたてらるところが、この絵本のとてもおもしろいところです。
月の満ち欠けを追う物語
こうして、月の番人の仕事をしているエミールですが、あることに気付きます。
それは、月が少し欠けていること。
スケッチしていくと、少しずつ欠けていき小さくなっていくことがわかり、「どうやったら止められるのか?」「なにが原因か?」に頭を悩ませてしまいます。
この、エミールの悩みを通して、月の満ち欠けという自然現象のおもしろさに目を向けさせてくれるのも、この絵本のおもしろいところ。
エミールのスケッチはまるで理科の教科書のように、月の段階的な満ち欠けの様子がよくわかります。
普段もよく見ている月ですが、こうして連続した月の欠けていく様子を見ると、その順序性や法則性がわかりおもしろい。
実際に、自分でも毎日の月を見上げて見たくなって、調べたくなってきます。
同時に、欠けていく月へ、物語的な解釈や見立てなどファンタジーな要素を感じられるのも素敵なところ。
欠けていく月を見て「お腹が空いて痩せてきたのか?」「悲しいことがあったのか?」と心配したり、
三日月を見て、「食べた後のスイカみたい」と例えたり、
細い月を「糸のよう」と表現したり・・・。
科学的な月の満ち欠けに興味を持たせつつ、ファンタジーな月の見方も同時に存在しているのです。
このバランスが、この絵本のとても素敵なところ。
月の番人の仕事や、月の満ち欠けを通して、月そのものへの興味を大きく高めてくれるのです。
きっとこの絵本を読んだ後に月を見上げたら、これまでとは違う月の見方が頭に浮かんでくることでしょう。
見惚れてしまうほど美しい最後のページ
さて、月が消えていくのを解決できないままに、ついに新月を迎えたエミール。
でも、悲しみはありませんでした。
それは鳥の言葉があったから。
この鳥の言葉の奥深さも素敵なところで、自然界の真理や、世界の輪廻を感じさせられます。
この哲学的な言葉を、月の満ち欠けと絡め、とても直感的に伝えているのも、とてもおもしろいなぁと思っています。
鳥の言葉を受け、安心して暗闇の中眠りについたエミール。
目を開けるとそこには、嬉しい出迎えが待っていました。
この場面も感動的なのですが、それから数日過ぎての、最後のページがこの絵本の大きな見どころ。
見開きの大きなページに、見惚れてしまうほど美しい光景が広がっているのです。
子どもたちも、
「おっきい!」
「すっごい明るいね!」
「きれい・・・」
と、感嘆の表情と言葉。
目を釘付けにしてしまう月の魔力が満ち満ちているのでしょう。
この、月ならではの美しさを十二分に感じられる、見惚れてしまうほど美しい最後のページも、この絵本のとてもとても素敵で幻想的なところです。
二言まとめ
月の番人という、ユニークでおもしろい仕事に、興味津々で想像力が掻き立てられる。
見れば、月の満ち欠けを、月の番人になった気分で見上げて見たくなる絵本です。
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