作:野坂勇作 監修:根本順吉 出版:福音館書店
気付けば空にそびえ立っている入道雲。
そんな入道雲が出来上がり、通り過ぎるまでを、
まるで写真のように描き出した絵本です。
あらすじ
弟のまさるくんとお兄ちゃんのまことくんは、朝のラジオ体操に来ていました。
その日はどんよりとした曇り空の夏の日でした。
お日さまが高く昇るにつれ、雲は消え、真っ青な青空が広がります。
2人はセミ取りに出かけていきました。
2人がセミ取りに夢中になっている頃、空では綿雲が行列を作り始めます。
セミ取りを終え帰る頃には、山の上にたくさんの綿雲が集まっていました。
2人が家に着いた頃、綿雲たちは背伸びを始め、白く輝きながらぐんぐん伸びあがっていきます。
入道雲の誕生です。
お母さんとおばあちゃんが出かけたので、2人は家で留守番。
まさるくんが、入道雲が帽子をかぶっているのを見つけました。
とうとう入道雲は空の天井にぶつかり、横に広がり始めます。
大きく広がった入道雲が近づいてくると、辺りは急に真っ暗に。
風が急に冷たくなって。稲妻が走ります。
2人が急いで家に入ると、空は一面もわもわとした黒雲に覆われています。
入道雲が家の真上に来ているのです。
と、その時すごい雷鳴とともに、雷が近くの松の木に落ちました。
バケツをひっくり返したような土砂降りの雨も降り出します。
2人は息を殺して、部屋の隅でじっと雨がやむのを待ちました。
・・・どれだけの時間が経ったのか、雨がピタリとやみました。
そして、入道雲が通り過ぎた空には・・・。
『にゅうどうぐも』の素敵なところ
- 入道雲の出来上がり方が丁寧に美しく描かれる
- 入道雲の大きさを表現するための縦開き
- きれいなだけじゃない入道雲の秘密
入道雲の出来上がり方が丁寧に美しく描かれる
この絵本のとてもおもしろいところは、入道雲ができるまでの一部始終を見ることができるところでしょう。
入道雲のことは知っていても、入道雲が小さい時のことは、意外と知らないのではないでしょうか?
真っ青な雲一つない空に、最初は小さな綿雲が集まって、そこから上にぐんぐん伸びる。
そんな赤ちゃんのようなところから、入道雲の成長を見せてくれます。
特に、入道雲が伸びきった後、天井にぶつかり横に広がるなどは初耳でした。
こんな身近なところに大気圏を目視する方法があったとは驚きです。
こうして、入道雲の変化が丁寧に描かれるのを見ていると、自分でも見てみたくなるもの。
きっと、見た後には、綿雲が集まっているところを見て「入道雲になるのかな?」と予想を立てたり、入道雲を見つけた時、天井にぶつかるかを観察したりすることでしょう。
この、丁寧に描かれた入道雲の出来上がり方を見ることで、入道雲への興味がどんどん強まっていくのが、この絵本のとてもおもしろいところです。
また、この絵本を語る上で忘れてはいけないのが、雲や空の美しさ。
空の雲を眺めていると、その美しさに心奪われてしまうことがあると思います。
この絵本ではその美しさがそのまま描き出されているのです。
雲のモコモコとした形や、くっきりとした陰影の美しさ。
特にすごいのが、空の天井にぶつかり、広がって行く場面です。
モコモコとした形が、ほどけて広がって行くコントラストが本当に美しい。
まるで、宇宙を見ているような感覚すら覚えます。
この絵本を見て、入道雲の魅力に強く惹きつけられるのには、この美しさもまた大きな要因となっているのだと思います。
入道雲の大きさを表現するための縦開き
そんな入道雲の特徴は、なんといってもその大きさ。
見上げるような、空を覆い尽くすような大きさで、空にそびえ立つところでしょう。
この絵本では、その大きさを視覚的に表現するため、ある仕掛けが使われています。
それが縦開きで進んでいくところ。
縦の見開きを1場面にして、物語と入道雲の成長が進んでいくのです。
特におもしろいのがその構図。
まさるくんとまことくんの物語は、すべてシルエットかつ、画面の下1/4程度の狭いスペースで進みます。
対して、空と入道雲は画面の上3/4を目いっぱい使って描かれるのです。
その空の広いこと。
まるで、建物一つない場所で空を見上げた時の様な解放感を味わえます。
この広い画面で、のびのびと大きくなっていく入道雲。
完成した時は、本当に目の前にそびえ立っているような迫力を感じることでしょう。
この、縦開きで空と入道雲の大きさを視覚的に体感させてくれる仕掛けもまた、この絵本のとてもおもしろく迫力を感じるところです。
きれいなだけじゃない入道雲の秘密
さて、こんなにも雄大で美しい入道雲ですが、恐ろしい性質も持っています。
それが、雨と雷を連れてくるというところです。
遠くから見ている分には、美しい入道雲ですが、近づいてくるにつれてあっという間に空が真っ暗になり、雷鳴が聞こえてきます。
その恐ろしさも、しっかりと臨場感たっぷりに描かれているのもまた、この絵本の素敵なところ。
広がり始めたとたん、向こうの方から暗い空が迫ってくる様は、まさに本当の空を見ているような迫力で、雨が近づいているのを直感的に感じます。
そこからの、遠くの空に光る稲光のリアルさといったらありません。
子ども達も思わず、身を寄せ合い小さくなる様子は、まさに本当に雷が鳴っている時のよう。
すごい臨場感で描かれます。
特に松の木に雷が落ちる場面は鮮烈で、音と絵、両方のインパクトで子どもたちの体もビクッ!と反応。
まさに積乱雲のもたらす嵐のような雨を体感できるのです。
けれど、入道雲のいいところは、そんな大雨がずっとは続かないところ。
少ししたら、嘘のように雨も雷もやみ、お日さまが顔を出します。
そして、急な強い雨から、一気に晴れた時にはあるご褒美が見られることも。
この、入道雲の恐ろしさを十二分に描き出しつつ、その一過性や通り過ぎた後の美しさまで描き出しているのもこの絵本の本当に素敵なところです。
見たら、入道雲の美しさ、魅力、自然的な特徴など、その全てに魅せられてしまうことでしょう。
二言まとめ
入道雲が出来上がり、通り過ぎていくまでを、本物そっくりに臨場感たっぷりに描き出す。
その雄大さや美しさ、恐ろしさに気付けば心を奪われている自然科学絵本です。
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