作:おのりえん 絵:タダサトシ 出版:こぐま社
家族と離れ、おじいちゃんの家で過ごす初めての夏休み。
大丈夫だと思っていたけど、やっぱり寂しくなってきます。
そんな時、側にいてくれたのは虫たちでした。
あらすじ
男の子は、夏休みにおじいちゃんの家へ遊びに来ました。
でも、いつもとは違い、今回は家族と離れ、1人でおじいちゃんの家に泊まります。
おじいちゃんの家に着くと、おじいちゃんがいきなり麦わら帽子を、男の子の目の前に振り下ろしました。
男の子がびっくりしていると、おじいちゃんは麦わら帽子から、今捕まえたチョウを取り出し、ウェルカムチョウチョだと教えてくれました。
そのチョウはジャコウアゲハ。
さっそく、飼育箱に入れて観察していると、あっという間に羽の粉で飼育箱がくもってきます。
おじいちゃんは、チョウが「出せ」って言っているんだと教えてくれました。
男の子はチョウを逃がしてやることにしました。
その夜、男の子は中々眠ることができませんでした。
1人で寝るのが怖くなってしまったのです。
怖さから、天井の木目が顔に見えてきたその時・・・
木のきしむ音がして、ふすまがスーっと開きました。
と、顔を出したのはおじいちゃん。
男の子が寂しがっていると思い、友だちを連れて来てくれたのです。
その友だちとは、木の葉についたエメラルドグリーンのチョウのサナギ。
サナギを見ていると、ぐっすり眠ることができました。
翌朝、おじいちゃんの朝は早く、男の子は眠い目をこすりながら、一緒に虫取りに出かけました。
けれど、少し行くと、男の子の目はパチッと目覚めました。
なぜなら、取り放題なほど、トンボがたくさんいたからです。
トンボの捕まえ方をおじいちゃんから教えてもらい、さっそく試してみると大成功。
トンボをたくさん捕まえました。
おじいちゃんと男の子が、丘の上で寝転び一休みしていると、目の前を大きなトンボが通りました。
おじいちゃんは、すぐにギンヤンマだと言い、縄張りをパトロールしているのだと教えてくれました。
そして、ニヤリと笑い、寝転んだまま虫網を手繰り寄せると・・・
虫網をトンボにかぶせ、寝転んだままギンヤンマを捕まえてしまいました。
家に帰ると、部屋の中にトンボを放して遊びます。
そこはまるでトンボの国。
自由に飛び回るトンボを眺めて楽しみました。
その日の夜。
寝ようとしていた男の子の元へ、おじいちゃんがやってきました。
夜の虫のレストランに行くというのです。
男の子は「起きていちゃダメな時間だよ」と言うと、「夏休みなんだから気にすんな」とあっけらかん。
2人は懐中電灯を持って、夜の林へと出かけることにしました。
しばらく歩くと、ねらい目の木に着きました。
その木を見ると、いるわいるわ、虫たちがたくさん集まっていました。
カブトムシに、クワガタムシ、カミキリムシに、スズメガ・・・
数えきれないほどの虫がいます。
と、その時、おじいちゃんが王様が来たことを教えてくれました。
その王様とはオオミズアオ。
きれいなエメラルドグリーンの大きな羽を持つ蛾です。
翌朝、男の子は寝坊しました。
朝ごはんなんてお腹に入りません。
すると、おばあちゃんが、茹でたトウモロコシを出してくれました。
勢いよくかぶりつく男の子。
しかし、勢いがよすぎたのか、上下の前歯が変な方向を向いてしまいました。
これは歯医者に行くほかありません。
男の子が嫌がっていると、おじいちゃんは本物のクワガタがやっている歯医者なのだと教えてくれました。
それを聞いたら行かないわけにはいきません。
さっそく、行ってみると、歯医者の先生は普通の人間。
名前が「くわがた」というだけでした。
でも、歯医者の先生が「クワガタに治療してもらいたいなら、目をつむりたまえ」と言うので、目をつむってみると、本当にクワガタに治療してもらっている気分に。
無事、前歯を抜いてもらうことができました。
こうして、家へ帰り昼寝をしようと思っていたのですが、それどころではなくなりました。
毎晩一緒に寝ていたサナギが、羽化を始めたのです・・・。
『わっははぼくのなつやすみ』の素敵なところ
- たくさんの虫たちとのかけがえのない素敵な出会い
- 美しく、生き生きと描き出される虫たち
- 親と離れて過ごす夏休みだからこその体験
たくさんの虫たちとのかけがえのない素敵な出会い
この絵本のとても素敵なところは、おじいちゃんの家での虫たちとの出会いでしょう。
それはどれもキラキラと輝いていて、どれもかけがえのない出会いばかり。
おじいちゃんの家についたとたん、出迎えてくれるウェルカムチョウチョ。
早朝にところ狭しと飛び回るトンボたち。
夜の林で、木に集まるカブトムシやクワガタムシ。
その中でも、特に大切な出会いが、サナギとの出会いでしょう。
大丈夫だと思っていたけれど、夜、布団に入ると急に怖くなってくるおじいちゃんの家の不思議。
そんな時に、側にいてくれたのが、おじいちゃんの持ってきてくれたサナギでした。
怖い夜、常に側にいてくれて、見ているとぐっすり眠れるチョウのサナギ。
きっと、このサナギがなければ、昼間はいつも楽しくても、夜になるたび不安な気持ちを抱えていたことでしょう。
物語の最後で、このサナギが羽化する時の感動は、この絵本の絶対に見逃せないところ。
出会いがドラマチックだった分、羽化の瞬間にも気持ちが強く入ります。
こんな風に、この絵本では、楽しい時、怖い時、眠い時、痛い時まで、いつも近くに虫たちがいるのです。
この、たくさんの虫たちとのかけがえのない出会いと、そこでの貴重な体験が、この絵本のとても楽しい素敵なところです。
美しく、生き生きと描き出される虫たち
こうして、たくさんの虫たちとの出会いがたくさん描かれるこの絵本。
その虫たちの描き方が、美しく、生き生きとしているのも、とても素敵なところです。
まず、目を引くのが虫たちの絵。
本物と見間違うくらい、そっくりに描かれています。
羽の筋、足の節、爪・・・など、細部に至るまで描き込まれ、まるで図鑑を見ているよう。
捕まえたギンヤンマのアップなどは、リアル過ぎて少し気味悪さを感じるほど。
特に、夜の森で出会う、オオミズアオの美しさは、夜の森の雰囲気と相まって、ファンタジー世界の生き物かと思えるほど幻想的。
思わず見とれて、しばらくページをめくれなくなってしまうほどです。
また、絵の美しさだけではなく、どの虫たちもとても躍動的に生き生きと描き出されているのもすごいところ。
ウェルカムチョウチョのジャコウアゲハが、飼育箱の中で羽を激しくばたつかせ、粉で真っ白にしていく様は、狭い世界から、広い空へと向かう力強さを感じ、
捕まったギンヤンマが尾や足を振り回して逃げようとする姿からは、生きる残るための生命力を感じます。
他にも、樹液目指して飛んでくるカブトムシの力強くかっこいい姿や、雄大に空を泳ぐオオミズアオなど、どの虫たちも生き生きと描かれています。
その中でも、特に生命力を感じるのはやはり、サナギが羽化する場面。
羽化して羽を広げ、初めて飛び回る姿に宿る溢れんばかりの生命力は必見。
チョウの美しさとともに、生命の力強さも同時に味わう、感動的な体験が待っていることでしょう。
この、虫が絵本の中で生きていると感じさせるほどの、虫の美しさと生命力を生き生きと描き出しているのも、この絵本のとても素敵なところです。
親と離れて過ごす夏休みだからこその体験
さて、ここまで虫たちに焦点を当てて見てきましたが、この絵本には大きな見どころがもう一つあります。
それが、親のいないおじいちゃんの家での夏休みと言うところ。
この設定が抜群にワクワクするのです。
おじいちゃんの家だからこその、都会では見ることのできない虫がいる環境というのはもちろんのこと。
昼間は平気でも夜になると、その静けさや、床のきしむ音、天井の木目が顔に見えるなど、突如として不安に襲われるあの現象(みなさんも一度は体験したことがあるのではないでしょうか?)。
普段は起きることのない、早朝の虫取り散歩。
いつもは寝かせられる時間の虫取り。
しても怒られない朝寝坊・・・。
などなど、孫に甘いおじいちゃんとおばあちゃんとの生活だからこその楽しさや、気兼ねなく甘えられる親がいないからこその不安など、その醍醐味が目一杯詰まっているのです。
中でも、とてもおじいちゃんの家での夏休みらしいなと思うのが、おじいちゃんの張り切り方。
孫に様々な体験をしてほしいと、早朝の散歩に連れていき、トンボの捕まえ方を教えたり、
夜の林に連れ出したり、
サナギを持ってきてくれたり・・・。
と、孫のために色々なことを考えていたのが伝わってきます。
これはきっと、多くの孫を迎える夏休みにおじいちゃんが考えていることでしょう。
虫じゃないにしても、地元の楽しいところに連れていく、花火を用意するなどなど、孫のために色々な楽しみを考えるおじいちゃん。
この絵本からは、そんなおじいちゃんの孫を思う心が、ひしひしと伝わってくるのです。
この気持ちが、この絵本により夏休み特有の、楽し気でワクワクする空気感を生み出しているのだと思います。
そこもまた、この絵本のとてもとても素敵なところ。
読めば、夏休みだからこそ味わえるワクワクを思いきり感じられることでしょう。
二言まとめ
おじいちゃんの家での様々な虫たちとの出会いに、胸が躍り、時に癒され、時に目を奪われる。
出会った虫たちの、美しく生き生きとした姿から、生命の輝きを強く感じられる絵本です。
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