文:こまつのぶひさ 絵:かのうかりん 出版:文芸社
魚屋さんと仲良しのどろぼうねこ。
ある日、魚屋さんにカツオを貰いに行きますが、どうも不漁らしい。
それを聞いたどろぼうねこは、自ら海へ出てカツオ捕獲大作戦を開始するのでした。
あらすじ
町の商店街を縄張りにしているネコがいました。
名前はどろぼうねこのおやぶん。
ある日、どろぼうねこが屋根の上で寝ていると、ウミネコからこれから魚を獲りに行くという話を聞きました。
どうやら、ウミネコは魚探しの名人で、カツオの群れを見つけ、そのカツオが追いかけている小魚を撮るのだそう。
その話を聞いて、カツオが食べたくなったおやぶんは、魚屋さんへ行くことにしました。
魚屋さんとおやぶんは昔からの顔なじみ。
魚屋さんに「なにか盗んでいくかい?」と聞かれたおやぶんは、カツオを盗んでいいか聞きました。
しかし、魚屋さんは困り顔。
このところカツオが獲れなくて、漁師のみんなも困っているそうなのです。
話を聞くと、どうやらカツオの群れがどこにいるのかわらない様子。
それを聞いたおやぶんは、自分で獲って食うしかないと決意し、声高らかに鳴きました。
すると、町中からおやぶんの泥棒仲間、ねこやなぎ盗賊団のメンバーが集まってきたではありませんか。
おやぶんは、集まったネコたちに作戦を伝え、さらに魚屋さんに漁師たちを集めてもらうよういいました。
準備ができたら早速出発です。
おやぶんは、漁師たちの船の前を、ウミネコたちに引っ張ってもらい空を飛んで先行します。
ウミネコたちにカツオを山分けするという条件で、カツオ探しを手伝ってもらおうというのです。
やがて、ウミネコたちはカツオの群れを見つけました。
カツオの群れを確認したおやぶんは、すかさず合図の鳴き声を送ります。
この鳴き声が作戦開始の合図。
さあ、おやぶんのカツオ捕獲作戦は、無事に成功するのでしょうか?
『どろぼうねこ うみのうえ』の素敵なところ
- 泥棒なのに泥棒しない人望厚いどろぼうねこ
- 適材適所な特性を活かした痛快な大作戦
- 物語を盛り上げるリアルで躍動感あふれる絵
泥棒なのに泥棒しない人望厚いどろぼうねこ
まず、この絵本を見て驚くのは、どろぼうねこなのに、魚屋さんと仲がいいところでしょう。
特に、魚屋さんの「なにか泥棒していくかい?」というセリフは印象的。
さらに、欲しい魚を魚屋さんに伝える様は、もう泥棒じゃなくてお客さんの振る舞いです。
これには、子ども達も、
「泥棒なのに魚屋さんと仲良しなの!?」
「泥棒じゃないじゃん!」
「どろぼうねこなのに、どろぼうしないね」
と、びっくり仰天。
タイトルから想像していた話と、全然違う展開に戸惑っていました。
でも、それがこの絵本のとてもおもしろいところで、どろぼうねこの大きな魅力。
誰も傷つけないどころか、一声かければ町中のネコが集まり、魚屋さんに頼めば漁師が集まり、ウミネコにまで顔が利く。
みんなに頼りにされているのです。
この泥棒という肩書と、信頼される姿のギャップがなんとも不思議。
どろぼうねこのおやぶんにしかない、ユニークな魅力になっています。
適材適所な特性を活かした痛快な大作戦
しかし、おやぶんは人望が厚いだけではありません。
頭もとてもいいのです。
武闘派な見た目と、裏腹にとても緻密な作戦を立てるおやぶん。
その作戦の穴のなさも、この絵本のとてもおもしろいところとなっています。
ウミネコと、ネコと、漁師を繋ぐこの大作戦は、始まりの動機作りからして完璧。
ウミネコは、食べてみたかったカツオを食べるため、
ネコは、おやぶんのためとカツオにありつくため、
漁師は、不漁のカツオをなんとかするため。
と、それぞれの利害が見事に一致しているのです。
そりゃ、言うことも聞きたくなるというもの。
すべての伏線がきれいに繋がって、自然にこの作戦が開始される流れは、頭がいいを通り越して、美しさすら感じます。
さらにすごいのは、それぞれの特性を活かした適材適所な作戦配置。
魚探し名人のウミネコは、カツオの群れを見つける偵察隊。
それと一緒に先行するおやぶんは、鳴き声で合図を送る役。
ネコたちは、おやぶんの合図をどこにいても聞き逃さないので、船に乗って漁師への連絡係。
漁師たちは、カツオを獲る実働部隊です。
それぞれのできることを見事に繋げた素晴らしい作戦。
どこか一つでも抜けたら成り立ちません。
そして、なによりものすごく効率的なのがすごい。
この作戦なら、カツオが見つかるまで、船でさまようこともないし、みんなで足並みそろえることもなく、ウミネコの機動力を最大限活かせます。
大人が見ても、ここまで完璧だと思えるプロジェクトは中々見られないでしょう。
この、適材適所で無駄のない、美しいほどに完成された作戦も、この絵本のとても素敵なところです。
物語を盛り上げるリアルで躍動感あふれる絵
さて、そんな物語をよりおもしろいものにしてくれている要素があります。
それが、とてもリアルに描かれた絵。
表紙に描かれている、モフモフで存在感たっぷりのおやぶんの絵からもわかるように、この絵本の絵はとてもリアルです。
ウミネコも、魚屋さんも、カツオの群れも、どれも本物そっくりです。
特に、ネコたちの毛並みは、触ったら気持ちよさそうなほど。
ネコの目の上から生えている、謎の長い毛まで再現されている徹底っぷりです。
そして、このリアルさが、この物語と相性抜群。
この絵本独自のおもしろさを生み出しています。
まずは、このリアルさから生み出されるシュールなおもしろさ。
めちゃめちゃリアルなのに、泥棒風呂敷を首に巻くおやぶんのデザインや、
すごくリアルな町並みの中で、普通に魚屋さんと話すネコの姿、
まさかのウミネコに紐で吊ってもらい空を飛ぶおやぶん。
などなど、デフォルメされていたら、当たり前に見えそうなことが、絵がリアルなので絶妙にシュールでおもしろいのです
でも、このシュールさが癖になる。
この絵本の大きな魅力だと思います。
また、リアルな絵が生むもう一つのおもしろさが、その躍動感。
おやぶんが全身の毛を逆立たせ、町中に聞こえる声で鳴き声を上げる時や、
海の中を力強く泳ぎ回るカツオの群れ、
カツオ漁の場面など、
どれも、迫力満点で、躍動感がものすごい。
気付けば、自分もこの流れに乗っていて、全身に力が入ってしまっています。
これは、リアルな絵だからこそ感じられたものでしょう。
この、リアルに描き出されている美しく躍動感溢れる絵も、この絵本のおもしろさに欠かせないものだと思います。
二言まとめ
泥棒しないどろぼうねこの、大迫力なカツオ捕獲大作戦がおもしろすぎる。
頼れるおやぶんが、随所で見せるおちゃめさに、ハートを射抜かれてしまう絵本です。
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