作:junaida 出版:福音館書店
たくさんの怪物たちが住む怪物園。
ある日、鍵を閉め忘れ、怪物たちが街へと出ていってしまいました。
怪物たちがいるせいで、外に出られなくなった子どもたちは家の中で・・・。
あらすじ
あるところに、怪物園がありました。
怪物園は足の生えたお城のような形をしていて、中にたくさんの怪物たちを乗せて、長い間旅を続けていたのでした。
けれどある静かな夜のこと。
怪物園は、うっかり入り口の鍵を閉め忘れてしまい、怪物たちが外の世界へ抜け出してしまったのです。
怪物たちは、街までやってきて、通りを行進し始めました。
街の人たちは、恐ろしくてみんな家へ入りました。
怪物たちは何日も行進を続けました。
外で遊べなくなり退屈していたのは、ある家の子どもたち。
そこで、子どもたちは、段ボールをバスにして、空想の旅に出かけることにしました。
段ボールバスは、虹のトンネルをくぐり抜け、どこまでも進みます。
遊んでいる途中、ふと窓の外を眺めると、やっぱり怪物たちが行進しています。
子どもたちは空想を続けました。
バスは世界一高い植木のふもとまでたどり着き、木の上まで行ってみることに。
子どもたちが、特大の風船を膨らませ、バスにとりつけると、バスは気球に早変わり、ぐんぐん木の上目指して登っていきます。
また窓の外を見下ろすと、怪物たちはまだ行進していました。
ちょうどその時、お母さんがお風呂に呼ぶ声が。
子どもたちは、お風呂に入りました。
お風呂に入っている間も空想は続きます。
気球に乗って、世界一高い木のてっぺんまでやってくると、そこには見渡す限りの木の葉の海と、2本の灯台が立っていました。
さっそく、子どもたちは、バスタブに帆を張ったバスタブ船に乗り換えて、灯台の間を通り、木の葉の海へと繰り出します。
ふと、双眼鏡で窓の外をのぞいてみると、怪物たちはまだ行進しています。
その行進を見ていると、なにか下の方から声がしたような気がしました。
子どもたちは、その声を確かめに海の底へ潜ってみることに。
帆をたたみ、頑丈な屋根をつければ、バスタブ船は潜水艦に早変わり。
海の中へと潜っていきます。
真っ暗闇の深海を進んでいくと、灯りの先に海の底をさ迷い歩く怪物たちの姿がありました。
さっき聞こえてきたのは、怪物たちのささやき声だったのです。
怪物たちが困っているようだったので、潜水艦を怪物たちがみんな乗り込めるように、大きく作り替えた子どもたち。
潜水艦に乗った怪物たちに、家がどこか聞いてみると、怪物園だと答えます。
子どもたちは、怪物園へ怪物たちを送り届けると、空想の旅を終え、寝る準備をして布団に入ったのでした。
そして、翌朝、窓の外を眺めると・・・。
『怪物園』の素敵なところ
- 恐ろしく不気味なのにどこか愛嬌のある怪物たち
- どんどん広がる夢のような空想の旅
- 空想と現実の不思議なリンク
恐ろしく不気味なのにどこか愛嬌のある怪物たち
この絵本のまず目を惹かれるところは、怪物たちの不気味な姿でしょう。
一目見ただけで「怪物」という言葉が出てくるほどの見事な怪物っぷり。
まさに「不気味」や「恐ろしい」という言葉がよく似合います。
こんな怪物たちが、通りを埋め尽くすほどの数で行進を始めるのだから、心がざわつかないはずはありません。
子どもたちも、
「怖い・・・」
「いっぱいいるね」
と、思わず息を飲んで身をすくめます。
ただ、「不気味」「恐ろしい」だけではないのも、この絵本の怪物たちも魅力です。
よく見ると、頭に旗を立てていたり、手に花を持っていたり、動物によく似た姿をしていたり、サーカスのような恰好をしていたりと、どこかかわいい部分も見えてきます。
すると、怪物を観察するのが、とてもおもしろくなってくるのです。
「あれ、でも、あの怪物魔女みたいだよ」
「なんかワニに似てない?」
「あの子かわいい」
などなど、子どもたちもただ怖いだけじゃないことに気付きます。
この、不気味さや恐ろしさを感じながらも、ついついじっくり見たくなってしまう、怪物たちの不思議な魅力が、この絵本のとても素敵なところです。
特に、一度読み終わった後は、この怪物たちの魅力がさらに増し、もっとじっくり見たくなっていると思いますよ。
どんどん広がる夢のような空想の旅
そんな怪物たちが、通りを覆い尽くし、外に出られなくなった子どもたち。
退屈を紛らわすため、空想の世界へ旅立つことにします。
この空想の大冒険もまた、この絵本のとてもおもしろいところです。
まず、空想のきっかけが、みんなもよく遊んでいるダンボールだと言うのがおもしろい。
とても身近なものから空想が広がって行くので、見ている子どもたちも一緒に、自然と空想の世界へ誘ってくれます。
こうして、ダンボールバスで走る道は、まさに夢で見たようなファンタジーの世界。
虹のトンネル、きれいな花畑、そびえ立つ山、お城のような建物など、まさにお話に出てくるような世界観なのです。
バスの終点となる、世界一高い植木も、まるで世界樹といった出で立ちで、ロマンをくすぐられること間違いなし。
植木ということで、その根元にできた街も、植木鉢で出来ているなど、見た目にもとてもおもしろいものになっています。
さらに、木の上は木の葉の海。
そこに、バスタブの船を走らせるのだから、ワクワクしないわけがありません。
ダンボールやバスタブといったとても身近な物を使い、冒険心をくすぐるファンタジーな世界を旅していく。
この、空想ならではの自由かつファンタジーな大冒険も、この絵本の大きな大きな魅力です。
絵のタッチと相まって、本当に美しいファンタジー世界が広がっているので、ぜひ絵本を開いてこの感動を味わってほしいところです。
空想と現実の不思議なリンク
さて、空想の世界で様々な場所を旅していった子どもたち。
その旅の最後で、怪物たちと出会います。
この怪物たちとの出会いと、そのやり取りが現実の世界とリンクする不思議さも、この絵本のとてもおもしろいところとなっています。
空想の世界で怪物と出会い、怪物園へ帰してあげた子どもたち。
もちろん、空想の世界なので、子どもたちは部屋から一歩も出ていません。
怪物たちを帰した後は、現実の世界に戻り、パジャマを着たり、歯磨きをして、いつもの夜に戻るのです。
ですが、翌朝、街の通りを見てみると・・・。
ここで感じる、不思議なパラドックスが、この絵本のとてもおもしろいところ。
さかのぼって考えてみても、子どもたちと、怪物たちの接点は空想の海の底だけです。
「もしかしたら、空想が本当になったのかな?」
「心が繋がったのかも」
「でも、怪物を乗せる船なんて子どもに作れるかな?」
などなど、色々な可能性が子どもたちの頭の中に浮かびます。
けれど、その答えは明かされません。
それぞれが空想するしかないのです。
この、空想と現実がリンクする、考えれば考えるほど答えが出ない、不思議な結末もこの絵本のとてもとても魅力的なところだと思います。
二言まとめ
不気味ながらもどこか愛嬌のある怪物たちと、それとは正反対な明るく美しい空想の世界、その両方に心惹かれる。
空想と現実がリンクする不思議で素敵な体験が味わえる、不気味さと美しさと優しさを同時に感じられる絵本です。
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